文学

スポンサーリンク
文学

マチネの終わりに

平野啓一郎の「マチネの終わりに」を読了しました。 知りませんでしたが、映画化もされているようです。 恋愛小説というくくりになるのでしょうが、それだけではありません。 天才クラシックギター奏者である蒔野とジャーナリストの洋子の関係性を軸に物語は構築されています。 そこには天才音楽家であるための恍惚と苦悩が語られ、ジャーナリスト故の世界の出来事に対する一種の憤りみたいなものが色濃く描かれます。 恋愛小説と言っても、若い人のそれではなく、38歳の男と40歳の女、中年同士の恋愛です。 ただし、二人とも独身なので不倫というわけではありません。 もっとも、洋子はアメリカ人の男と婚約していますが。 二人はたった3回会っただけで、互いに激しく魅かれあいます。 しかし、蒔野を慕うマネージャーの女の偶然が招いた策略により、二人はボタンの掛け違いから、相手から疎まれるようになったと感じ、4度目の逢瀬はおあずけとなります。 その間、二人はそれぞれに恋をして別の相手と結婚し、子供をもうけます。 そのままなら、昔の恋の思い出として終わったのでしょうが、マネージャーの女は罪の意識に耐えられず、夫にも洋子にも何年も前...
文学

鏡の中は日曜日

先般読んで非常な感銘を受けた「ハサミ男」の作者、殊能将之の本格ミステリ「鏡の中は日曜日」を読みました。鏡の中は日曜日 (講談社文庫)殊能将之講談社 これを読んで、私は懐かしい気分になりました。 小学校高学年の頃、学校の図書室にあったシャーロック・ホームズシリーズや、エラリー・クイーン、アガサ・クリスティのミステリを熱心に読んでいたからです。 その後私は本格ミステリに興味を失い、読むことがなくなりました。 「ハサミ男」はどちらかというとホラー・サスペンスの趣があり、興味深く読んだので、同じ作者の小説を読んだわけです。ハサミ男 (講談社文庫)殊能将之講談社ハサミ男 豊川悦司/麻生久美子東宝 フランスの詩や本邦の短歌、考古学に知識が豊富なことがよく分かる、教養のある作家です。 それだけに文章にも品があってしかも読みやすい。 夢中で読んで、文庫本560ページの長編を一気に読んでしまいました。 しかし、私はやはり本格ミステリに興味を失っているようです。 要するに、面白いだけなのです。 明日には内容をわすれてしまいそうです。
文学

本心

かねて読み進めていた平野啓一郎の「本心」を昨夜読了しました。 平野啓一郎と言えば、大学在学中に「日蝕」でデビューし、同作で当時史上最年少で芥川賞を受賞しました。日蝕・一月物語(新潮文庫)平野 啓一郎新潮社 その流麗でやや難解な文章から三島由紀夫の再来とまで言われました。 私もその作品を読んで、とんでもないやつが出てきたと思った記憶があります。 しばらく平野作品を読まないでいたのですが、数年前「ドーン」という作品を読んで、違和感を覚えました。 擬古典的で美的な作品が、近未来SFみたいになっていたからです。 作家の興味関心は大きく変わり、人類はどこへ行くのか、ということをテーマにしているように思いました。ドーン (講談社文庫)平野 啓一郎講談社 で、今回読んだ「本心」。 これも近未来を描いた作品です。 最愛の母を事故で喪った29歳の青年。 深い喪失感から、VF(ヴァーチャル・フィギア)を作成する会社に頼んでVFの母親を作り、毎日ゴーグルを付けて母と会話します。 VFの母親は会話を通して学習し、本物の母親に近づいていきます。 母親は事故で亡くなっていますが、自由死という制度を使った自殺を考え...
文学

消えない月

昨日、人事異動の内示がありました。 私は動きませんでしたが、私が信頼する部下が異動することになり、ショックを受けています。 東大卒で記憶力が良く、気が利く人でした。 そろそろ30歳になろうかという女性です。 後任はなんと54歳で、職場でも有名なヒステリックなおばさんです。 ヒステリックなだけではなく、仕事が杜撰でミスが多い人です。 私と同期で、大ベテランですが、就職したばかりの頃とあまり変わっていません。 年度末はただでさえ憂鬱なのに、優秀な部下が去り、ミスだらけのおばさんが来ると言うことで、立ち直れません。 午前中は憂鬱を吹き飛ばそうと近所をひたすら歩き回りました。 少しは気が晴れたかというとそうでもなくて、来年度一緒に働いてみなければ何とも言えません。 午後は気楽に読めるミステリを読みました。 「消えない月」という本を読みました。 ストーカーを扱った小説で、ストーリーはそこそこ面白いのですが、文章が稚拙です。 ラノベみたいな感じです。消えない月 (角川文庫)畑野 智美KADOKAWA 世の中にはおよそ面白くない内容なのに、うっとりして生理的快感を覚えるほどの名文を書く人がいます。 ...
文学

荻窪メリーゴーランド

昨夜は歌集「荻窪メリーゴーランド」を読みました。荻窪メリーゴーランド木下 龍也太田出版 35年くらい前になるでしょうか、俵万智が「サラダ記念日」という口語の歌集を出して論争が巻き起こりました。 新しい短歌だ、とか、なぜ自由詩で書かず、三十一文字に載せるのか、だとか。 当時大学生で国文学を学んでいたのですが、高名な歌人でもある岡野弘彦先生という方から源氏物語を勉強していました。 岡野先生、古い歌人の代表として俵万智と比較されて激怒していました。サラダ記念日 (河出文庫 227A BUNGEI Collection)俵 万智河出書房新社 懐かしい思い出です。 そんな論争が嘘のように、今では口語短歌なんて当たり前の物になっているようです。 「荻窪メリーゴーランド」は男女の歌人が歌を詠みあう相聞歌のような体裁を取っています。 男の歌人が木下龍也という人で女は鈴木春香という人。 初めて目にする名前です。 相聞歌によって、一組の男女の恋の始まりから悲劇的な終わりまでを描いて、まるで短編小説のような趣を醸し出しています。 もちろん短歌ですから、細部は分かりませんが。 財布を無くした女が交番を訪れたの...
スポンサーリンク