文学

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選択

年度あたまで忙しい日々が続いています。 この時季、いつも、職業選択を誤ったのではないか、という思いに駆られます。 もちろん、ブラックな職場というわけではありませんが、日々、つまらぬ仕事に追われていると、職業選択のみならず、あらゆる場面で、右か左か迷った時に、いつも間違った選択をしてきたような、奇妙な気分に囚われ、苦しみます。 荒川ケンタウロスの「アンセム」という歌で、二人が歩んできた道は正しかった気がして、というフレーズがあります。よどみに浮かぶうたかたはハピネットハピネット 一方、さだまさしの「主人公」という歌では、昔を振り返って、あそこの分かれ道で選びなおせるならって、という歌詞があります。さだまさし 12CD-1056A株式会社ワーナーミュージック・ジャパン株式会社ワーナーミュージック・ジャパン 自分の人生を正しかったと思いたいのも人情なら、人生の時の時にあたって、選びなおせるものなら選びなおしたい、と思うのもそうでしょう。 私は自信をもって、正しい道を生きてきた、と言い張りたい欲望に駆られながら、じつはそうではなかったことを、自分自身がよく知っています。 きっとこれからも、愚か...
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春風

春風吹きさぶ。 そが音聞きつつ、我深酒す。 酒、我をして物思い、いたらざずべからず 我、中年より初老に至り、酒、我が魂(たま)、若き日々に誘わざるなし。 酒、誘うまま、若き日に至れば、そは真、愚かなる精神なり。 愚かなること知りたるまま、我が愚か懐かしむとは、如何に?  愚かほど、そは若さなり。 我、若さ失うとて幾年。 幾年、長き故思う。 若さ、美し。 されど、皺また美し。 おのが皺、鏡に感得、我、美くしと思わざる能わず。 我、後、春、覚ゆる幾度? 幾たり春訪れようと、我、若かりし愚、懐かしむこと限りなし。
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機巧のイブ

昨夜はSF時代伝奇ロマンとも言うべき小説、「機巧のイブ」を読みました。機巧のイヴ (新潮文庫)乾 緑郎新潮社 江戸幕府をモデルにしたと思しき天府。 そこに仕える天才機巧師によって生み出された、人間そっくりの美しいロボット、伊武。 天皇家を思わせる、しかし女系しか皇位を継げない天帝家。 二つの巨大な権力が、女系でしか皇位を継げないがゆえに、女児ができない場合を想定して天帝の身代わりとして生み出されたロボットをめぐって、暗闘を繰り広げます。 そして天才機巧師の弟子が、美しい女性にしか見えない伊武に恋心を抱きながら、魂とは、心とは何なのか、深い思索を巡らせます。 人間にしてからが、愛する両親や、友人、恋人、配偶者との関係性の中で、性格が形作られ、心や魂らしきものを手にします。 それならば、ロボットもまた、愛し愛されることによって、心や魂を得ることが出来たとて、何の不思議もありません。 あるいは逆に、人との接触を持たなかったロボットが、単に命令どおりにしか動けなくても。 そしてまた、その命令がどんなに残虐なものであろうとも。 奇想天外な物語が、エンターテイメント性豊かに語られる、なかなかの逸品...
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祝山

昨夜はホラー小説を読みました。 加門七海という作家の「祝山」です。祝山 (光文社文庫)加門 七海光文社 スランプに悩む女流ホラー作家が主人公で、作者自身がモデルかと思われます。 低い山の奥にある元材木工場の跡地に、知り合い4人と夜中に肝試しに繰り出し、廃工場から材木のかけらをいくつか持ち出し、その後様々な怪現象に襲われます。 調べていくうち、その山がかつて祝山と呼ばれており、その語源が位牌山であったことを知り、霊山もしくは呪われた山であり、山の草木一本持ち出したら呪われる、と考えて怪現象を止めるため、持ち出した材木を山に返しに再び山を訪れる、というお話。 ホラーとしてはありがちな展開で、そこそこ怖いのですが、なんというか、文章が稚拙で陳腐です。 そしてやたらとしょっちゅう腹を立てる主人公に苛立ちを覚えます。 まぁ、子供向け、でしょうか。にほんブログ村 本・書籍ランキング
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無貌の神

恒川光太郎の短編集、「無貌の神」を読みました。無貌の神恒川 光太郎KADOKAWA 今年の1月に刊行された最新作。 12冊連続で恒川作品を読み続け、ついに、後は新刊を待つばかりとなってしまいました。 寂しいかぎりです。 「スタープレイヤー」、「ヘヴンメイカー」と、壮大なファンタジーが続いた後、今作は先祖がえりしたというか、この作者の真骨頂とも言うべき、不思議な、美的で幻想的な短編が6編収められており、それらはみな、それぞれに愛おしい小編です。スタープレイヤー (角川文庫)恒川 光太郎KADOKAWA ヘブンメイカー スタープレイヤー (角川文庫)恒川 光太郎KADOKAWA / 角川書店 「無貌の神」は、人の体を癒す力を持った神が、しかし時折人を喰らう怖ろしい側面を持っています。 生まれ変わり死に変わりする人の世を描いて、息苦しいほどの緊張感を持っています。 「青天狗の乱」は、明治初期の東京及び伊豆諸島を舞台にした、魔が活躍する物語。 明治初期という混乱期ならではの、猥雑な空気が魅力的です。 その他、「死神と旅する女」・「十二月の悪魔」・「廃墟団地の風人」・「カイムルとラートリー」の4...
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逆戻り

昨日は啓蟄だったのですねぇ。 それなのに今日は冬に逆戻り。 啓蟄の 風さむけれど 石は照り  加藤楸邨の句です。加藤楸邨句集 (岩波文庫)森 澄雄,矢島 房利岩波書店 なるほど、今日も寒いながら、午前中の日差しは力強いものでした。 この時期の寒さというのはそうしたもので、寒さの中にも春の力強さが潜んでいるのですねぇ。   私は寒い早春の日を、憂鬱に沈みながら過ごしています。 春愁の気にあてられたこともあるでしょうし、年度末のざわざわした雰囲気に呑まれていることもあるでしょう。 処方された倍の量の抗不安薬を飲んで、なんとかやり過ごしています。 今年で今の部署も丸3年。 3月下旬になれば分かることですが、私はおそらく異動なんでしょうね。 今まで同じ部署に4年いたことは1度もありませんから。 3年か、早いと2年で異動するのが役人の世界の常識です。 どの部署に行っても必ず嫌なことはありますが、それでも相対的に楽な部署としんどい部署というのは明らかにあります。  極楽のような部署は存在しませんが、相対的に楽な部署で心に余裕をもって勤務したいものです。 にほんブログ村 人文ランキング
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ヘヴンメイカー

昨夜、恒川光太郎の「ヘヴンメイカー」を読み終わりました。ヘブンメイカー スタープレイヤー (角川文庫)恒川 光太郎KADOKAWA / 角川書店 先日読んだ「スタープレイヤー」に連なる作品です。 物語としては独立したものですが、スタープレイヤーが活躍し、最後に前作の主人公が登場して結末を迎えます。スタープレイヤー (角川文庫)恒川 光太郎KADOKAWA 設定は前作と同じく、くじをひいた者が異世界に飛ばされ、10の願いがかなえられるスターボードなる道具を使って冒険を繰り広げる、というものです。 で、「ヘヴンメイカー」。 作者がこの設定で描きたいことはこれだったんだろうなと思わせるくらい、物語は深化しています。 佐伯逸輝という若者が異世界に飛ばされ、スターボードを使って様々な町を造ったり、現地の宗教の聖人、サージイツキになったりと、豊かな物語が紡がれます。 そこに感じられるのは、失ったものへのノスタルジアと、世界の繋がりということ。 佐伯はスターボードを使って、少年時代、淡い恋心を抱いていた、亡くなった女性を生き返らせ、自ら作った故郷、藤沢市そっくりの無人の町で、二人だけの世界を楽しんだ...
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スタープレイヤー

昨夜は恒川光太郎の長編、「スタープレイヤー」を一気に読みました。スタープレイヤー (角川文庫)恒川 光太郎KADOKAWA これまでの作品とは、印象がずいぶん違います。 これまではこの作者が描き出す世界は、詩的で幻想的な小品、というイメージでしたが、今作は痛快娯楽ファンタジーといった感じです。 エンターテイメントで勝負するぞ、という作者の意気込みが伝わってきます。 ふとしたことから、異世界に飛ばされた34歳、無職の女性、夕月。 異世界では、10の願いを叶えることができます。 願いをかなえる能力を持った者を、スタープレイヤーと呼びます。 夕月が飛ばされたところは、誰もいない草原のようなところ。 彼女は願いを使って皇居よりも広い庭を持った家を建て、のんびり暮らします。 ある時、マキオと名乗るスタープレイヤーがやってきます。 彼は夕月の家から馬で二日かかる場所に、ちょっとした町を作って住んでいます。 夕月はマキオから、異世界にはごくわずかのスタープレイヤーと、スタープレイヤーが願いを使って地球から呼び寄せた多くの人々(外来民)、さらにはもっと多くの原住民が住んでいることを知らされます。 マキ...
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南の子供が夜いくところ

今日はひどく寒いです。 スーパーに買い物に行った他は、暖房の効いた自宅で静かに過ごしています。 小説を読みました。 恒川光太郎の連作短編集「南の子供が夜いくところ」です。南の子供が夜いくところ (角川ホラー文庫)恒川 光太郎角川書店(角川グループパブリッシング) 一家心中寸前まで行った親子が、20代にしか見えない、しかし120歳だと自称するユナという不思議な女に導かれ、タカシという少年と両親、それぞれが別の島で暮らし始めます。 タカシが暮らすことになったのは、トロンバス島という南の島。 トイトイ様という木の精や、ヤニューという魔物、フルーツ頭と呼ばれる頭部が様々な果物で出来た人々が住むフルーツ・タウンなど、不思議で魅力的な夢物語が繰り広げられ、惹きこまれました。 最近この作者の作品ばかり読んでいますが、もっと読みたい、という感じです。
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さみしい、よろしい

その昔、テレビCMで、「亭主元気で留守がいい」というコピーが流行ったことがあります。 また、私の同僚や先輩でも、妻が留守の休日は最高だ、と公言して憚らない人がいます。 そういうの、気持ちは分かりますが、あくまでも、一時的に一人の時間を楽しめるということであって、ずうっと一人でいるわけではない、ということが条件になっています。 ずうっと一人だと、退屈するような気がします。 孤独を感じさせる文学者はたくさんいますが、まず、頭に浮かぶのは、自由律の俳人、種田山頭火と尾崎放哉でしょうねぇ。 山頭火に以下のような句があります。 やっぱり一人はさみしい枯草 やっぱり一人がよろしい雑草 山頭火にとって、一人はよろしくてさみしいものだったようです。山頭火句集 (ちくま文庫)村上 護筑摩書房 山頭火という人、一度は妻子を持ちながら、中年に至って妻子を捨て、無一文の乞食となって、行乞の旅を続けながら句作を続けた人です。 同じ自由律の俳人で、ほぼ同時代に生きた尾崎放哉は、一度は保険会社の重役にまでなりながら、世を捨て、田舎の寺の庵などで静かに暮らしました。 動の山頭火、静の放哉、などと言われます。 共通して...
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金色の獣、彼方に向かう

昨夜は恒川光太郎の短編集、「金色の獣、彼方に向かう」を読みました。金色の獣、彼方に向かう (双葉文庫)恒川 光太郎双葉社 「異神千夜」・「風天孔参り」・「森の神、夢に還る」・「金色の獣、彼方に向かう」の4作品が掲載されています。 それぞれ独立した短編ですが、唯一、イタチに似た妖しい獣が登場するところに共通点があります。 「異界千夜」は元寇の前後を描いた時代作品。 南宋、対馬、博多あたりを舞台にした壮大な作品で、内容的には長編時代ファンタジーのような読後感です。 この作者の作品は、切なく美しい幻想文学がほとんどなのですが、この作品は、元の蛮行を恨む女の怨念や、彼らと行動をともにしながら、ついには裏切らざるを得ない男の苦悩などが怖ろしく、ゾッとさせられました。  「風天孔参り」は、ある山の登山口近くでレストランを営む50代の男が遭遇する不思議な物語。 ある時女子大生が客としてやってきて、従業員として居つき、彼女の口から風天孔参りの話を聞きます。 山中に突如小さな竜巻が起き、そこに飛び込んだ人間は天に消えてしまうとかで、限りなく自殺に近い、風天孔参りをする集団がある、と。 そして女子大生は風...
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竜が最後に帰る場所

今日は快晴ながら、北風が強く、ひどく寒い一日でした。 スーパーに買い物に行った以外は、家で大人しく読書などして過ごしました。 恒川光太郎の短編集を読みました。 「竜が最後に帰る場所」です。竜が最後に帰る場所 (講談社文庫)恒川 光太郎講談社 5つの短編が掲載されています。 どれもこの作者らしい、不思議で切ない物語でした。 わけても最後の「ゴロンド」という作品には深い感銘を受けました。 ゴロンド(考える者)という名前の竜の一生を、詩的に描いた作品で、長い年月の流れを感じさせます。 最近、この作者の小説ばかり読んでいます。 ド嵌まりに嵌まった感じです。 50歳近くなって、新たな出会いがあったことを、とても嬉しく思っています。にほんブログ村 本・書籍ランキング
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金色機械

昨夜、またもや恒川光太郎の小説を読みました。 今までは、短編か、せいぜい中編程度の分量の作品ばかりで、長い物は書かないのかなと思っていましたが、文庫本で470頁を超える長編、「金色機械」です。金色機械 (文春文庫)恒川 光太郎文藝春秋 江戸時代、極楽園とも鬼御殿とも呼ばれる山中の賊のお屋敷で育ち、門番の小僧から大遊郭を任されるまでになった熊悟朗。 彼は人の殺意を見抜く能力を持っています。 そして人に素手で触れるだけで安楽死させる能力を持つ女、遥香。 さらには謎の存在、金色様。 金色様は金属でできたロボットのような存在ですが、心を持ち、しかも無敵といってよいほど強力です。 章ごとに時代や主人公が異なり、少々戸惑いますが、やがてそれらは繋がり、一つの物語として完結します。 石川淳の「至福千年」を思わせるような、江戸伝奇ロマンといった趣で、読ませます。 抜群に面白い小説で、終わりが近づくと、読むのが惜しいような気分になります。至福千年 (岩波文庫 緑 94-2)石川 淳岩波書店 これは熊悟朗や遥香の成長の物語であるとともに、善も悪も併せ持つ人間というものの業を描き出した作品です。 金色様とい...
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わが国とインドの諸行無常

ここ数日、暖かい日が続いています。 おかげで体がずいぶん楽です。 職場の庭の梅も、ずいぶんと咲きました。 季節は着実に移ろっているのですねぇ。 平安末期から中世のわが国の文学では、盛んに諸行無常ということが言われます。 わが世の春を謳歌した平家が滅ぶまでを描いた「平家物語」しかり。 隠遁の文学、「方丈記」しかり。平家物語 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)角川書店角川書店 方丈記(全) (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)武田 友宏角川学芸出版 権力も生命も、あらゆるものは移り変わり、いつかは儚くなってしまう、という無常感。 そしてそういった考えは、今も日本人の多くに、心中深く、根付いている感覚でもあります。 諸行無常は、もともと仏教用語ですが、わが国においては、仏教本来の意味よりも、ずいぶんと詩的というか、情緒的、感覚的に使われているように感じます。 原始仏教での使われ方を見ると、わが国の文学で使われる諸行無常という語感とは異なっていることが分かります。 諸行は、あらゆる物事、行い、と言う風に思われますが、原始仏教では、もともと存在しないものを作り上げてしまう作...
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月夜の島渡り

昨夜は恒川光太郎の短編集「月夜の島渡り」を読みました。月夜の島渡り (角川ホラー文庫)恒川 光太郎KADOKAWA いずれも沖縄の離島が舞台の作品です。 「月夜の島渡り」というタイトルの作品はありません。 あくまで短編集全体のタイトルです。 作者、出身は東京らしいですが、20代後半から沖縄に住んでいるそうです。 東京出身でも、北海道や沖縄に移住する作家や芸術家が多いのはなぜでしょうね。 都会を離れたかった? 異界の空気に触れたかった? 恒川光太郎はおそらくは異界への入り口があちこちに感じられる沖縄が気に入ったのだろうと推測します。 この短編集の物語は、どれも短く、異界へと足を踏み入れるというよりも、沖縄の離島そのものが異界の香りがして、小説というより詩編のような趣を味わうことができます。 その代り、物語としての迫力には欠けるように感じられます。 そこは詩編ですから。 私としては、生まれ変わりを扱って長い時間の流れを感じさせる「私はフーイー」がお気に入りです。 いずれも短いし、不思議過ぎず、この作者特有の抒情というか切なさを感じることが出来るので、入門編に良いかもしれません。 デビュー作...
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