文学

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原稿依頼

実に久しぶりに、某出版社から、原稿の依頼が舞い込みました。 原稿用紙換算で50枚程度、ブラックな小説が欲しいとのことでした。 原稿料は原稿用紙1枚あたり2千円という、格安なもの。 私の実力は、世間ではその程度にしか評価されていないのですね。 なんだか寂しくなりました。 で、私は迷うことになります。 50枚程度、2~3日もあればじゅうぶん書けるでしょう。 問題は、精神科医から小説の執筆を禁じられていること。 私は小説の執筆を始めると、大体、躁状態に陥ってしまうのです。 創作をする人は多かれ少なかれ一緒だと思いますが、自分の作品に絶対の自信を持っています。 そうでなければ、創作なんて出来はしません。 そのような状態は、自分を神様とでも思うような、躁病患者の症状と酷似しています。 だからこそ、精神科医は私に小説の執筆を禁じているのでしょう。 しかし、依頼が来れば書きたくなるのは本能のようなもの。 早速私の頭の中では、様ざまなアイディアや、文章そのものが出来上がっています。 それを形にするかしないかだけの状態になっています。 躁を抑えるリーマスという薬を毎日朝夕飲んでいても、ちょっとしたきっか...
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古人

明日はこの前の日曜出勤の振替でお休み。 今宵は心置きなく、独り、焼酎をいただきました。 そうはいっても、ロックで2杯。 ずいぶん酒が弱くなったものです。 同居人は近頃忙しいとかで、残業のためかまだ帰りません。 私としては独りの酒を楽しめて、うれしいかぎりです。 同居人はじつは私よりも酒が強いくらいですが、私のような愚かさは持ち合わせていないようで、毎日晩酌するような馬鹿な行為には及びません。 せいぜい、週末、私と2人で飲むくらいです。 2人の酒も楽しいですが、独り飲む酒はまた格別です。 横に「新古今和歌集」か「方丈記」でもあれば、私は古人を友として、愚かな酒に酔うのです。 古人は多く酒に酔い、花に酔い、月に酔って、わが国の文芸の花を開かせました。 それは昨今の愛だの恋だのを恥ずかしいくらいにストレートに歌う流行歌とは違って、じつに奥ゆかしいものです。 私はそれら古人の詩歌に接するたび、兼好法師の「徒然草」の一節を思い出します。 何事も、古き世のみぞ慕わしき。今様は、むげに卑しくこそなりゆくめれ。 兼好法師の時代にも、昔は良かった式の、老人のたわ言が幅を利かせていたのですね。 これは老境...
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海も暮れきる

昨夜は焼酎をちびちびやりながら吉村昭の「海も暮れきる」という小説を読みました。 尾崎放哉の後半生を描いた小説です。 凄まじい後半生です。 東京帝国大学を卒業して保険会社の重役まで勤めながら、家族を棄て、流浪の生活をしながら句作を続ける姿が描かれています。 いくつかの寺の寺男や堂守をし、最後は小豆島の寺の小さな庵の庵主となります。 しかし収入の道が乏しく、わずかにお遍路さんにろうそくを売るばかりです。 酒飲みの放哉にはそれでは足りず、お寺の住職や島の俳句趣味のお金持ちに金を無心しては酒におぼれ、しかも酒乱のため島中の飲み屋から嫌われ、住職から庵の中で飲むのは構わないが、外で飲むことはまかりならん、と厳禁されてしまいます。 金の無心は遠く京都に住む俳人仲間や弟子にも向けられ、ほとんど一日中、金の無心の手紙を書いているありさまです。 その上肺病が進行し、ついには立って厠に行くこともできなくなり、近所の漁師の妻に身の周りの世話になってしまいます。 下の世話まで。 ついには骨の形に皮膚がはりついているだけのような、骸骨のような面相になってしまいます。 それでも句作だけは続け、金の無心と句作と酒、...
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追悼 丸谷才一

作家で翻訳家、批評家でもあった丸谷才一先生が87歳で亡くなられた、との報に接しました。 この人、英文学が出発点とあって、英国流のユーモアに富んだ、どこかシニカルな作風で、その思想性はともかく、私は好んで作品を読みました。 印象に残っているのは、「たった一人の反乱」と「裏声で歌へ君が代」ですかねぇ。 江藤淳などの保守的な文芸評論家から激しく攻撃されたりもしていたようですが、文学に政治性を持ち込んで自分の土俵に引きずりおろそうとした感じで、私は江藤淳のやり方を好みません。 私の出身大学でかつて助教授を務めていたことがあり、私が入学したときにはすでに退職してずいぶん経っていましたが、その厳しい講義は語り草になっていました。 私が教わった多くの教員は彼の講義を受けた経験があり、広い意味では私も孫弟子にあたるのかもしれません。 村上春樹のデヴュー作「風の歌の聴け」を新人賞選考委員として激賞し、彼を世に出したことも高く評価されています。 偏見の無い人だったように感じます。 惜しむらくは寡作だったこと。 エッセイや評論は多いのですが、キャリアが長いわりには小説が少ないのですよねぇ。 年齢的には大往生...
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村上春樹、残念

残念ながら、今年も村上春樹のノーベル文学賞受賞はなりませんでした。 私は彼のデビュー作「風の歌を聴け」から、すべての作品を読んでいます。 川端康成が日本の美を詠ってノーベル文学賞を受賞し、大江健三郎は真逆に欧米文学のような、日本語としては悪文の文学で受賞しましたね。 村上春樹はその二人とは違って、一種の無国籍文学とでもいうべき特徴を備えています。 だからこそ、世界中で受け入れられたのでしょうね。 「ノルウェイの森」や「1Q84」が代表作と目されているようですが、私は初期の「風の歌を聴け」・「1973年のピンボール」・「羊をめぐる冒険」の鼠三部作と、「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」がお気に入りです。 とくに「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」を高校2年生の時に読んで、自分がくだらぬ小説を書こうとするのは無意味なのではないかと思いました。 世の中にはこんなに才能豊かな人がいるのかと驚くとともに、こういう小説を書きたかったのに、先にやられてしまった、と嫉妬を感じました。 結局中途半端に2冊の短編集を世に問いましたが、私の強い自負とは違って、世に認められることはあり...
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