文学

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宗悦殺し

長崎出張からの帰り、機内で人間国宝の講釈師、一龍斎貞水の「真景累が淵」の中から、「宗悦殺し」の場をラジオで聞きました。 落語を聞こうとおもってチャンネルを代えたところ、夏のせいか、怪談をやっていたというわけです。 年老いたあんまの宗悦が、爪に火をともすようにしてためた金30両を3年前、旗本に貸します。 いつまでたっても返してもらえないので、宗悦は催促に行ったわけです。 「今はないから待て」の一点張りの旗本に、それまで旦那さまといってうやうやしい態度をとっていた宗悦が豹変するところが面白かったですねぇ。 いつまで体が動くかわからない年寄りには、金は命より大事なんだ、と啖呵を切るところなど、現在の老人にも共感を呼ぶのではないでしょうか。 結局旗本は宗悦を無礼打ちにしてしまい、宗悦は血まみれで事切れてしまいます。 それから起こる様々な怪異現象が「真景累が淵」の真骨頂ということになるのでしょうが、機内では「宗悦殺し」の場をたっぷりと演じていました わが国の話芸が発達していること、世界に例を見ないのではないでしょうか。 英国などではサイレントが盛んなようですし、喜劇やコントは世界で行われていても...
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出張の友

今回の出張の友は、ウィスキーと「若山牧水随筆集」という文庫本でした。 ウィスキーは仕事前夜の高ぶった神経を鎮め、仕事後の私に安心感を与えてくれました。 飛行機など移動の途中には「若山牧水随筆集」を読みました。 これも例によって亡父の蔵書から頂戴してきたものです。 まだ半分も読んでいませんが、前半は紀行文中心です。 明治末から大正時代にかけて、若山牧水はじつに多くの場所を旅しています。 それも草鞋に着物といういでたちで、比叡山や那智、長野など山がちなところを好んで歩いています。 そしてこの人、朝も昼も晩も、かならず酒を飲むのです。 比叡山の宿坊に泊まったときですら、大酒を喰らっています。 たぶんアルコール依存症だったんでしょうね。 そしてどういうわけかこういう人の周りには大酒のみが集まってくるらしく、大店の旦那だったのが、店から土地から飲みつくしてしまい、妻子にも捨てられて、比叡山の末寺で住職のいない寺の寺男をやっている老人の寺に宿泊し、牧水のおごりで老人と酒宴をひらく有り様など、浅ましいかぎりです。 うまきもの こころにならべ それこれと くらべ廻せど 酒にしかめや 人の世に たのしみ...
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サイレント・ネイビー

亡父の蔵書から、「昭和の遺書 55人の魂の記録」という本を読みました。 軍人、兵隊、小説家、ジャーナリスト、学生、テロリスト等じつに様々な昭和に生き、亡くなった人々の遺書を紹介したもので、興味深く読みました。 著名な人からそうでない人、自殺、病死いろいろですが、死に際の言葉というのはその人らしさが出るものですね。 その中で、昭和50年12月に病死した最後の海軍大将、井上成美の短い遺書が印象に残りました。 一.どこにも借金はなし。 二.娘は高女だけは卒業させ、できれば海軍士官に嫁がせしめたし。 これだけです。 これは亡くなる40年以上前の昭和8年に書かれたもので、当時海軍内部に過激な思想を持った若い将校が台頭し、もしものときのために書いたようです。 実際に亡くなる直前に書いた遺書は、  小生の葬儀は密葬のこと。 これに寺の住所などが書かれているだけです。 自分の思いや、人生観などは一切ありません。 これがサイレント・ネイビーというものでしょうか。 海軍士官は沈黙を守ることを美徳とする風があったようです。 それに比べると、元海軍士官だった中曽根元総理はずいぶんと饒舌ですね。  私はこうして...
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大暑

今日は大暑ですね。 一年で最も暑い頃となります。 学校がこの頃夏休みに入るのも暦と合っています。  しかし、昨日今日と、ずいぶ涼しいですねぇ。  実際の季節は暦どおりというわけにはいかないようです。   夏の月 皿の林檎の 紅を失す   高浜虚子 夏の句に月を主役に据えるのは珍しいですねぇ。 林檎の紅を凌駕する夏の月夜とはいかなるものでしょうか。 街中に住んでいるので、実感することが難しく感じます。 行水の 女にほれる 烏かな  高浜虚子 惚れているのはカラスではなくて虚子先生じゃ? 昔は庭先に盥を持ち出して行水なんかしたようですね。 私もごく幼い頃は庭先で行水をしましたが、大人の女が行水をするという習慣はすでになかったように思います。 今は行水をしたかったら、浴室で水シャワーを浴びるんでしょうね。 私はこの時期、職場から帰ると風呂に入るのが面倒で、冷水シャワーを浴びたりします。 皮膚がぴりぴりして気持ちよいものです。 今年の夏はこのまま過ごしやすいんでしょうか。 そうだといいですねぇ。 職場は近頃流行りのクール・ビズで、あんまり冷房を効かせないんですよねぇ。 昔は寒いくらい冷やしてい...
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変身あるいはメタモルフォーゼ

「変身」というと、カフカの代表作を思い出します。 ある朝目覚めると巨大な虫に変身していたザムザとその家族のシニカルな喜劇です。 先般、手塚治虫の「メタモルフォーゼ」という漫画を読む機会に恵まれました。 これは人口が増えすぎた近未来、犯罪者を動物や虫に変身させて人口抑制を図ろうという怖ろしい話です。 こちらの主人公もザムザです。 ザムザは自然公園と言っても元人間だった動物ばかりが住む場所ですが、そこの監視員をしています。 ある時ザムザは雌ライオンに変身させられた元恋人と紅茶とトーストの朝食を採っているところを発見され、重罪として虫に変身させられてしまいます。 普通虫に変身させられると2~3カ月で死亡するのですが、ザムザは旺盛に葉っぱを喰らい、一年以上も生き続けます。 そして変態が始まります。 巨大な蜂に変態した彼はにくい上司を殺害せしめ、どこへともなく去っていきます。 カフカの「変身」では、ザムザは自分の部屋から一歩も出ることなく、父親が投げつけたリンゴによってできた傷に苦しみ、ついには亡くなってしまいます。 家族はザムザの呪縛から逃れ、未来に明るい展望を持つのです。 上司を殺害して一人...
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