文学 恋重荷
蒸し暑い土曜日の午後、冷房を効かせた室内で、NHKで放送されていた能楽中継を鑑賞しました。 曲は「恋重荷(こいのおもに)」です。 菊守の山科荘司は、いい年をして、ふと見かけた高貴な若い女御に懸想してしまいます。 それを聞きつけた女御の臣下の者が山科荘司を呼び出し、目の前にある美しい錦の布で覆われた荷をかついで百回も千回も庭を廻れば、もったいなくも女御がお姿を現してくれるであろう、と告げます。 喜び勇んで荷を持ち上げようとする山科荘司。 しかし、どうしても持ち上がりません。 女御は石を入れた箱をいかにも軽そうに見えるよう錦の布で包み、持ち上げられないことで老いらくの賎しい身分の男が高貴な若い女御に恋することが虚しいことだと悟らせようとしたのです。 山科荘司は人前で恥をかかされたと憤り、ついには憤死してしまいます。 あわれに思った女御はせめては死に顔でも見てやろうとします。 そこに亡霊となった山科荘司が現われ、ひとしきり恨み言を述べつつ舞います。 しかし、霜か雪か霰か、恨みは跡を消し、これからは女御の守り神となろうと宣言し、亡霊は去って行きます。 単純なストリーリーですが、喜んで重荷を持ち...