文学

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恋重荷

蒸し暑い土曜日の午後、冷房を効かせた室内で、NHKで放送されていた能楽中継を鑑賞しました。 曲は「恋重荷(こいのおもに)」です。 菊守の山科荘司は、いい年をして、ふと見かけた高貴な若い女御に懸想してしまいます。 それを聞きつけた女御の臣下の者が山科荘司を呼び出し、目の前にある美しい錦の布で覆われた荷をかついで百回も千回も庭を廻れば、もったいなくも女御がお姿を現してくれるであろう、と告げます。 喜び勇んで荷を持ち上げようとする山科荘司。 しかし、どうしても持ち上がりません。 女御は石を入れた箱をいかにも軽そうに見えるよう錦の布で包み、持ち上げられないことで老いらくの賎しい身分の男が高貴な若い女御に恋することが虚しいことだと悟らせようとしたのです。 山科荘司は人前で恥をかかされたと憤り、ついには憤死してしまいます。 あわれに思った女御はせめては死に顔でも見てやろうとします。 そこに亡霊となった山科荘司が現われ、ひとしきり恨み言を述べつつ舞います。 しかし、霜か雪か霰か、恨みは跡を消し、これからは女御の守り神となろうと宣言し、亡霊は去って行きます。 単純なストリーリーですが、喜んで重荷を持ち...
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若山牧水 流浪する魂の歌

亡父の蔵書から、大岡信著「若山牧水 流浪する魂の歌」という評伝を読みました。 明治以降の歌人では、私は若山牧水の歌をもっとも愛吟しています。 このブログでも、過去何度も若山牧水の絶唱を紹介してきました。 しかし、今まで私は若山牧水の歌しか知りませんでした。 どのような人生をおくったのかはまるで興味がなく、ただ桁外れの大酒飲みだったらしい、ということだけ、知っていました。 九州に生まれて早稲田を出、早稲田では北原白秋と同窓で、後輩の萩原朔太郎とも親交があったこと。 人妻と五年に及ぶ不倫に苦しみ、後の奥様とはこの不倫愛が破れて間もなく若山牧水からの猛烈なアプローチによって成ったものであること。 常に金に困っていたこと。 結婚後は狂ったように乞食坊主のような格好で日本国中を旅したこと。 朝昼晩必ず酒を飲み、常に酩酊状態にあるアルコール依存症であったこと。 どれもこの評伝で知りました。 私はあまり評伝を好みません。 歌人であれ詩人であれ小説家であれ絵描きであれ、要はその作品がどのような物であるかが重要で、どんな生活をおくり、人柄はどうであったかなど、瑣末な問題だと思っているからです。 それはこ...
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などてすめろぎは

1936年の今日、安藤輝三大尉ら3人の陸軍将校が処刑されました。 言わずと知れた2.26事件の犯人です。 磯部元一等主計などに比べると、安藤大尉は部下から慕われる人格者だったようです。 磯部元一等主計は、おのれの信念を否定した昭和天皇を呪い、獄中で陛下を叱り続けていたと言います。 2.26事件の失敗の最大の理由は、昭和天皇が自分たちの過激な行動に理解を示してくれると信じたこと。 お人よしですねぇ。 クーデターをやるなら、宮城を占拠して昭和天皇を幽閉し、あくまで自分たちの傀儡とならないとみたら暗殺し、意のままに動く皇族を天皇に立てるべきであったでしょう。 2.26事件というと、三島由紀夫の「英霊の聲」を思い出します。 2.26事件で刑死した英霊、特攻に散った英霊などが代わる代わる現れて依代の声を借り、戦後の天皇に恨みの声を挙げるのです。  などてすめろぎは人となり給いし、などてすめろぎは人となり給いし、と延々と続く恨みの声は不気味な迫力をもって迫ってきます。 英霊にとって天皇はあくまでも神々の子孫でなければならず、昭和天皇の人間宣言は許しがたい暴挙だったのでしょう。 安藤大尉はクーデター...
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サラダ記念日とカラダ記念日

今日はサラダ記念日なんだそうで。 もちろん、俵万智の、 この味が いいねと君が 言ったから 七月六日はサラダ記念日 という気色悪い歌から採ったものです。 そんなこと言い出したら、毎日毎日なんかの記念日になってしまい、煩わしくて仕方ありません。 女性の厭らしさが全面に出ていて、私の好むところではありません。  今は未婚の母となって、子どもと石垣島で暮らしているとか。 どこまでも見た目どおりの気色悪い女性ですねぇ。 筒井康隆に、「カラダ記念日」というパロディーがあります。 「薬菜飯店」という短編集に所収されています。 「この刺青いいわ」 と女(スケ)が 言ったから 七月六日はカラダ記念日 サラダ記念日のまんまパクリですね。 他にも「組長を殺(や)るぞ」 だなんて カンチューハイ二本で 言ってしまっていいのヤッちゃんと 我を呼ぶとき わが情婦(イロ)の その一瞬の おののきが好き手紙には 恨みあふれて その恨み 密告(タレコミ)決めた その日の恨み食べたいでも痩せたい というコピーあり 殺したい でもつかまりたくない などなど、主にヤクザの視点から詠まれた歌が満載で笑えます。 小林薫主演で映...
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隠れキリシタン

私は外国人宣教師が去った後も密かに信仰を持ち続けた隠れキリシタンに不思議なほど惹かれます。 捕らえられれば拷問の末に死罪となるのが明白なのに、また、指導者たるべき外国人宣教師がいないのに、よく信仰を保持し続けたものだと思います。 外国人宣教師が国外に退去させられ、あるいは殺害された後、隠れキリシタンを指導したのは、バスチャンと呼ばれる日本人であったようです。 ある村でキリシタン狩りが行われ、生きたまま600人ものキリシタンが海に投げ込まれたそうですが、岸に打ち寄せる遺体をせっせと葬ったのがバスチャンだったとか。 そのバスチャンも役人に囚われ、3年半もの監獄生活の間、78回も拷問にあっているとか。 よく生きていたものです。 いよいよ首をはねられると言う時、バスチャンは四つのことを言い残しました。1、汝らは七代までは、わが子とみなすがそれ以後は救霊が難しくなる。 2、コンエソーロ(聴罪司祭)が大きな黒船に乗ってくる。毎週でもコンビサン(告白)が申される。 3、どこでもキリシタンの教えを広めることができる。 4、途中で異教徒に出会っても、こちらから道譲らぬ前に先から避けるであろう。 バスチャ...
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