文学

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サイレント・ネイビー

亡父の蔵書から、「昭和の遺書 55人の魂の記録」という本を読みました。 軍人、兵隊、小説家、ジャーナリスト、学生、テロリスト等じつに様々な昭和に生き、亡くなった人々の遺書を紹介したもので、興味深く読みました。 著名な人からそうでない人、自殺、病死いろいろですが、死に際の言葉というのはその人らしさが出るものですね。 その中で、昭和50年12月に病死した最後の海軍大将、井上成美の短い遺書が印象に残りました。 一.どこにも借金はなし。 二.娘は高女だけは卒業させ、できれば海軍士官に嫁がせしめたし。 これだけです。 これは亡くなる40年以上前の昭和8年に書かれたもので、当時海軍内部に過激な思想を持った若い将校が台頭し、もしものときのために書いたようです。 実際に亡くなる直前に書いた遺書は、  小生の葬儀は密葬のこと。 これに寺の住所などが書かれているだけです。 自分の思いや、人生観などは一切ありません。 これがサイレント・ネイビーというものでしょうか。 海軍士官は沈黙を守ることを美徳とする風があったようです。 それに比べると、元海軍士官だった中曽根元総理はずいぶんと饒舌ですね。  私はこうして...
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大暑

今日は大暑ですね。 一年で最も暑い頃となります。 学校がこの頃夏休みに入るのも暦と合っています。  しかし、昨日今日と、ずいぶ涼しいですねぇ。  実際の季節は暦どおりというわけにはいかないようです。   夏の月 皿の林檎の 紅を失す   高浜虚子 夏の句に月を主役に据えるのは珍しいですねぇ。 林檎の紅を凌駕する夏の月夜とはいかなるものでしょうか。 街中に住んでいるので、実感することが難しく感じます。 行水の 女にほれる 烏かな  高浜虚子 惚れているのはカラスではなくて虚子先生じゃ? 昔は庭先に盥を持ち出して行水なんかしたようですね。 私もごく幼い頃は庭先で行水をしましたが、大人の女が行水をするという習慣はすでになかったように思います。 今は行水をしたかったら、浴室で水シャワーを浴びるんでしょうね。 私はこの時期、職場から帰ると風呂に入るのが面倒で、冷水シャワーを浴びたりします。 皮膚がぴりぴりして気持ちよいものです。 今年の夏はこのまま過ごしやすいんでしょうか。 そうだといいですねぇ。 職場は近頃流行りのクール・ビズで、あんまり冷房を効かせないんですよねぇ。 昔は寒いくらい冷やしてい...
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変身あるいはメタモルフォーゼ

「変身」というと、カフカの代表作を思い出します。 ある朝目覚めると巨大な虫に変身していたザムザとその家族のシニカルな喜劇です。 先般、手塚治虫の「メタモルフォーゼ」という漫画を読む機会に恵まれました。 これは人口が増えすぎた近未来、犯罪者を動物や虫に変身させて人口抑制を図ろうという怖ろしい話です。 こちらの主人公もザムザです。 ザムザは自然公園と言っても元人間だった動物ばかりが住む場所ですが、そこの監視員をしています。 ある時ザムザは雌ライオンに変身させられた元恋人と紅茶とトーストの朝食を採っているところを発見され、重罪として虫に変身させられてしまいます。 普通虫に変身させられると2~3カ月で死亡するのですが、ザムザは旺盛に葉っぱを喰らい、一年以上も生き続けます。 そして変態が始まります。 巨大な蜂に変態した彼はにくい上司を殺害せしめ、どこへともなく去っていきます。 カフカの「変身」では、ザムザは自分の部屋から一歩も出ることなく、父親が投げつけたリンゴによってできた傷に苦しみ、ついには亡くなってしまいます。 家族はザムザの呪縛から逃れ、未来に明るい展望を持つのです。 上司を殺害して一人...
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恋重荷

蒸し暑い土曜日の午後、冷房を効かせた室内で、NHKで放送されていた能楽中継を鑑賞しました。 曲は「恋重荷(こいのおもに)」です。 菊守の山科荘司は、いい年をして、ふと見かけた高貴な若い女御に懸想してしまいます。 それを聞きつけた女御の臣下の者が山科荘司を呼び出し、目の前にある美しい錦の布で覆われた荷をかついで百回も千回も庭を廻れば、もったいなくも女御がお姿を現してくれるであろう、と告げます。 喜び勇んで荷を持ち上げようとする山科荘司。 しかし、どうしても持ち上がりません。 女御は石を入れた箱をいかにも軽そうに見えるよう錦の布で包み、持ち上げられないことで老いらくの賎しい身分の男が高貴な若い女御に恋することが虚しいことだと悟らせようとしたのです。 山科荘司は人前で恥をかかされたと憤り、ついには憤死してしまいます。 あわれに思った女御はせめては死に顔でも見てやろうとします。 そこに亡霊となった山科荘司が現われ、ひとしきり恨み言を述べつつ舞います。 しかし、霜か雪か霰か、恨みは跡を消し、これからは女御の守り神となろうと宣言し、亡霊は去って行きます。 単純なストリーリーですが、喜んで重荷を持ち...
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若山牧水 流浪する魂の歌

亡父の蔵書から、大岡信著「若山牧水 流浪する魂の歌」という評伝を読みました。 明治以降の歌人では、私は若山牧水の歌をもっとも愛吟しています。 このブログでも、過去何度も若山牧水の絶唱を紹介してきました。 しかし、今まで私は若山牧水の歌しか知りませんでした。 どのような人生をおくったのかはまるで興味がなく、ただ桁外れの大酒飲みだったらしい、ということだけ、知っていました。 九州に生まれて早稲田を出、早稲田では北原白秋と同窓で、後輩の萩原朔太郎とも親交があったこと。 人妻と五年に及ぶ不倫に苦しみ、後の奥様とはこの不倫愛が破れて間もなく若山牧水からの猛烈なアプローチによって成ったものであること。 常に金に困っていたこと。 結婚後は狂ったように乞食坊主のような格好で日本国中を旅したこと。 朝昼晩必ず酒を飲み、常に酩酊状態にあるアルコール依存症であったこと。 どれもこの評伝で知りました。 私はあまり評伝を好みません。 歌人であれ詩人であれ小説家であれ絵描きであれ、要はその作品がどのような物であるかが重要で、どんな生活をおくり、人柄はどうであったかなど、瑣末な問題だと思っているからです。 それはこ...
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