文学

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死の時間

昨夜は江藤淳による愛妻を看取った手記「妻と私」と自分史的な「幼年時代」それに福田和也、吉本隆明、石原慎太郎、3氏による江藤淳への追悼文が所収された文庫本を読みました。 200ページ足らずということですぐに読み終わりました。妻と私・幼年時代 (文春学藝ライブラリー)江藤 淳文藝春秋 江藤淳という高名な文芸評論家の名前くらいは知っていましたが、敬して遠ざけ、ついぞ読んだことがありませんでした。 文芸評論を読むくらいなら、文芸作品を読んだほうが良いと思っていたからです。 このたびその著作を読むことになったのは、書店で見つけてなんとなく、というのが実態です。 「妻と私」は末期がんに侵された妻を看病し、看取り、さらには妻亡き後著者自らが大病して闘病する様子を描いたものです。 その筆には鬼が宿ったがごとき迫力があって、読む者を圧倒します。 江藤夫妻には子供がおらず、二人だけで、夫婦と言うより同志愛のようなもので結ばれて生きてきたような印象を受けます。 妻を看病しながら、時間は日常的な時間と生死の時間という分類ができ、しかも生死の時間は死の時間にならざるを得ないと言うことに気付いたことが語られます。...
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ハサミ男

三日ほどかけて、ミステリの傑作と呼ばれる「ハサミ男」を昨夜読み終わりました。 以前、もう15年ほど前に映画版を観たことがあるのですが、その時の印象はまぁまぁ面白かったかな、という程度のものでした。 改めて原作を読んでみて、物語の重層性やミステリでありながら高い文学性を持った文章に深い感銘を受けました。 タイトルは陳腐と言ってもよいくらいですが、中身はまったく違います。 先日本屋を訪れた際、帯に、「古典にして大傑作! えっまだ読んだことが無い!?」という煽情的な言葉が並び、つい、買ってしまいました。 結果、大当たりだったというわけです。ハサミ男 (講談社文庫)殊能将之講談社ハサミ男 豊川悦司/麻生久美子東宝 女子高生を絞殺し、その後喉にハサミを突き立てる、という殺人が2件発生。 警察の捜査も虚しく3人目の犠牲者が出てしまいます。 警察は当然同一犯の犯行と見て捜査を始めますが、どこか奇妙です。 3人目の殺害現場には喉に突き立てたハサミと同じ物がもう一つ落ちていたり、ハサミの先を鋭角に研磨していたのが、荒かったり。 そして3人に共通しているのが、全く性的暴行の跡が見られないことです。 この物...
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予言の島

昨夜はホラー・サスペンスを読みました。 「予言の島」です。予言の島 (角川ホラー文庫)澤村伊智KADOKAWA 1970年代にオカルト・ブームというのがありました。 小学生だった私はモロにその影響を受けています 「オーメン」シリーズや「エクソシスト」等のホラー映画、ノストラダムスの大予言、それに横溝映画シリーズの大ヒット等がその一端です。 昨夜読んだ「予言の島」、横溝作品とよく似ています。 作者は横溝ファンを公言しているらしいですから、当然かもしれません。 思わせぶりでやや冗漫な前半。 謎が深まり、引き寄せられてく後半。 そして畳みかけるようなスピード感でグイグイ読ませるラスト。 まるで教科書のようなホラー・サスペンスです。 堪能しましたが、今後この作者の作品は名画「来る」の原作、「ぼぎわんが、来る」だけ読めばいいかなと思います。 何と言うか、教科書的なだけに、面白くはあっても雰囲気が無いのです。来る岡田准一ぼぎわんが、来る 比嘉姉妹シリーズ (角川ホラー文庫)澤村伊智KADOKAWA 昨日買った3冊に加えて以前購入してまだ読んでいない本があります。 それらを読むのが楽しみです。
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化物園

昨夜は恒川光太郎の連作短編集「化物園」を読みました。 7つの短編が収められています。 一つ一つの作品は独立した物語ですが、同じ化物が登場することによって、連作と見做すことができます。 同じ化物とは言っても、猫だったり蛇だったり、果ては顔が無く、数センチ浮いているものだったり、見た目は様々ですが、それらは同じ物です。 この短編集の圧巻は、最後に掲載されている「音楽の子供たち」の迫力でしょうね。化物園恒川光太郎中央公論新社 「音楽の子供たち」によって、それまでは明かされなかった化物に関することが分かります。 化物は人間が誕生するはるか以前から存在する物であって、その姿は変幻自在であり、かつては人間を喰らうこともあったことが示唆されます。 その後異形の化物は人間世界の片隅で息をひそめ、長く、人間との関係を保ってきました。 人間によって化物はどう変わるのか、また、化物によって人間はどのような影響を受けるのか、それらがぼんやりと描かれます。 人間と化物との距離感が良い感じです。 この作者ならではの、どこか寂しさを感じさせる、メランコリーとでも言うべき雰囲気が漂っていて、良い連作短編集であったと思...
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真夜中のたずねびと

昨夜は恒川光太郎の短編集「真夜中のたずねびと」を一気読みしました。 この作家の作品の多くが異界と現実を行き来するような幻想的なものですが、昨夜読んだ短編集は趣を異にしていました。 つまり、現実世界で起きるミステリーの要素が極めて強く、異界との繋がりはほんのわずかばかり示唆されるだけなのです。 また、一つ一つが独立した短編になってはいますが、ある作品の主人公が別の作品の端役で登場したりして、緩やかな連作と読むことが出来るようになっています。 幻想的な要素が満載の恒川作品を期待すると肩透かしをくらいます。 作家の作風は年とともに変わっていくものです。 この短編集を興味深く読みはしましたが、もしこの路線を突っ走るようなら、私はこの作者から離れていくような予感を覚えます。真夜中のたずねびと(新潮文庫)恒川光太郎新潮社
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