文学

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死の季節ー右大臣の憂鬱ー

冬季うつ病なんて言って、冬はうつ状態に陥る人が増えるそうですね。 寒いし、日は短いし、死を予感させる季節であってみれば、仕方ないのかもしれません。 28歳で甥、公卿に殺害された右大臣源実朝は、父、頼朝亡きあと、政情不安が続き、兄の頼家が追放されてなお殺害された事実から、家臣に次のような絶望的な言葉を述べています。 源氏の正統は此の時に縮まりをはんぬ。子孫敢えて之を相継ぐべからず。 源氏の嫡流は自分で終わりにしようというわけです。 おそらくは、そう遠くないうちに、家臣らに暗殺されるであろう運命を、かなり明瞭に意識していたのではないかと思います。 そういう意味では、12歳で将軍になった時から、死の季節を生き続けていたのかもしれません。 現とも 夢とも 知らぬ世にしあれば ありとてありと 頼むべき身か  現実とも夢ともつかぬ世の中で、生きているといってもそれを頼みにできるだろうか、といった意かと思います。 聞きてしも 驚くべきにあらねども はかなき夢の 世にこそありけれ 人の死を聞いても驚くにあたらないが、それにしてもなんとはかない夢のような世の中であることよ、といった意でしょうか。 いずれ...
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草祭

インフルエンザによる出勤停止も今日まで。 もうすっかり元気です。 最近お気に入りの恒川光太郎の作品を読みました。 連作短編集、「草祭」です。草祭 (新潮文庫)恒川 光太郎新潮社 小さな田舎町、美奥を舞台にした作品群で、5編が収録されています。 一つ一つは独立した物語ですが、通して読むと、繋がりがあることが分かる仕掛けになっています。 美奥は様々な異界へと繋がる、いわばこの世の一つ奥に存在している町。 主人公たちは、異界に迷い込み、様々な体験をするのです。 「けものはら」は、けものはらに迷い込み、出られなくなった男子高校生の物語。 彼はそこで獣人に変じていくわけですが、母親との複雑な物語が語られます。 「屋根猩猩」は女子高生の独白という形をとって、ある地区の守り神に変じていくお話。 「くさのゆめがたり」では、はるか昔を舞台に、美奥誕生の秘話が語られます。 「天化の宿」は、山中の不思議な宿で、女子高生が苦解きという儀式のための、独特のゲームに高じるお話。 結末が意外です。 最後の「朝の朧町」は、もっとも幻想的で美しい物語です。 これも不思議な町に誘われた者が体験する、息苦しいまでに切ない物...
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零下4度

今朝の首都圏はひどく冷え込み、都心では48年ぶりに零下4度を記録したそうです。 48年前というと、私は生後数か月。 覚えているはずがありません。 低温注意報は33年ぶりだそうです。 33年前と言えば私が中学三年生。 高校受験の時期と重なりますが、それほど寒かったという覚えはありません。 また、首都圏各地で水道から水が出ない、という苦情が水道局に寄せられたんだとか。 凍っちゃったものは水道局に文句を言っても仕方ありますまい。 徒(いたずら)に 凍る硯(すずり)の 水悲し 寺田寅彦の句です。 寺田寅彦が活躍した時代には、書斎には必ず硯と筆が置かれていたことでしょう。 その硯の水が凍ってしまった、ということでしょうか。 怖ろしく寒い書斎ですね。 ちょっと滑稽味を感じる句です。 近年では、筆ペンなどという、便利ですが野暮で無粋な物が跋扈し、硯を使うこともありません。 さすがに私が住むマンション、鉄骨とコンクリートでできているので、保温性が高く、部屋の水が氷るなんていうことはありません。 ベランダに水を張っておけば凍るかもしれませんが。 子供の頃、庭の池に金魚を飼っていて、冬になるとよく表面が凍...
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雷の季節の終わりに

三冊目の恒川幸太郎作品を読みました。 「雷の季節の終わりに」です。雷の季節の終わりに (角川ホラー文庫)恒川 光太郎KADOKAWA 前2作と同様、異界での切ない物語が展開します。 隠(オン)と呼ばれる、この世と微妙にずれた世界で育った少年が、冒険を繰り広げるファンタジー。 隠には、春夏秋冬のほかに、雷季とよばれる季節があります。 その季節には、どんな不思議なことが起こっても不思議ではありません。 風わいわい、とよばれる物の怪に憑かれた少年。 しかし風わいわいは悪さをするわけではありません。 むしろ少年を守ってくれる存在。 鬼衆、と呼ばれる集団や、風葬をする墓町など、不思議で魅力的な舞台装置が揃って、物語を豊穣なものにしています。 ふとしたことから、少年は長い旅をしてこの世にたどり着きます。 その間の冒険が綴られます。 同じ作家の本を三冊続けて読むのは私には珍しいことです。 じつは4冊目も購入してあります。 すっかりこの作者の世界に魅入られてしまったようです。 幸福なことに。 にほんブログ村 本・書籍ランキング
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幸福な瞬間

今年の3月、亡き父の七回忌を迎えます。 もうあれから丸5年が経とうとしています。 死の床にあって、父は浅草寺病院の病室から、雪が降る五重塔を観ながら、「京都のようだなぁ」と声を挙げたそうです。 末期の目は、ことさらに自然を美しく感じさせるのでしょうか? 芥川龍之介の「或旧友へ送る手記」という、遺書に近い書簡には、 自然の美しいのは僕の末期の目に映るからである、 という一節があります。或旧友へ送る手記芥川 竜之介メーカー情報なし また、芥川龍之介の弟子ともいうべき堀辰雄の「風立ちぬ」の一節に、 自然なんぞが本当に美しいと思へるのは、死んで行かうとする者の眼にだけにだ、 と言うものがあります。風立ちぬ・美しい村 (新潮文庫)堀 辰雄新潮社 芥川龍之介は遺書に自然の美を謳いながら、自殺してしまいます。 一方、堀辰雄は、病弱の体に鞭打って、死を避けるのではなく、それを超克しながら、一段と深い生を模索しました。 同じように末期の目に映る自然の美を称揚しながら、対照的な態度で人生に、あるいは死に向かった師弟の姿勢は印象的です。 また、夏目漱石は、亡くなる2年前に友人に宛てた手紙の中で、 天と地と草...
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秋の牢獄ほか

昨夜は恒川光太郎の短編集を読みました。 3編の小説が所収され、210頁ほど。 1時間半ほどで、一気に読みました。 掲載されているのは、「秋の牢獄」・「神家没落」・「幻は夜に成長する」です。秋の牢獄 (角川ホラー文庫)恒川 光太郎角川書店(角川グループパブリッシング) 前に読んだ「夜市」と「風の古道」の最強タッグが所収された「夜市」の鮮烈さに比べると、やや見劣りしますが、それでも味わい深い佳品揃いでした。夜市 (角川ホラー文庫)恒川 光太郎角川グループパブリッシング 「秋の牢獄」をはじめとする3編は、いずれも囚われる、ということを題材にしています。 「秋の牢獄」は、いわゆるタイムループ物で、SFに分類されるかと思います。 11月7日(水)を何度も繰り返す女子大生の物語。 面白いのは、リプレイヤーと呼ばれる、11月7日(水)を繰り返す人々がいて、彼らは不思議な縁で知り合い、しばし、交友を深めます。 しかし、やがてはそれぞれが一人になって、北風伯爵と名付けた白い物体に囚われ、消えていくのです。 消える先が翌日の11月8日(木)で、タイムループから解放されるのか、存在が消滅してしまうのか、誰に...
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「夜市」と「風の古道」

昨日は「夜市」という小説を読みました。 ホラー小説大賞受賞作、「夜市」と、受賞第一作の「風の古道」の2作が掲載されています。夜市 (角川ホラー文庫)恒川 光太郎角川グループパブリッシング 2作品とも、ホラーっぽくありません。 ふとしたことから異界へと足を踏み入れる話ですが、非常に平明な文章で、切なくも美しい、不思議なストーリーが展開されます。 起承転結がはっきりしていて、すんなりと物語の世界に入り込めました。 これはホラーというより、泉鏡花など、幻想文学の系譜に連なる文学作品と言ったほうが良いでしょう。 私としては、「風の古道」のほうが気に入っています。 恒川光太郎という作家、初めて読みましたが、もっと読んでみたくなりました。 特殊な物語を紡ぐ才能にあふれていると見えました。にほんブログ村本・書籍ランキング
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不道徳ゆえに価値が上がる?

かつてナチは、多くの近代美術作品を押収し、ドイツ全土を巡回して退廃芸術展を開催しました。 これは、表現主義、抽象絵画、新即物主義、ダダイズム、シュルレアリスムなど、20世紀美術の主要な動向にかかわる作品群を、退廃芸術として弾圧し、晒し者にすることを目的としたものです。 この展覧会は多くの観客を集め、現代にいたるも、これ以上の観客数を誇った展覧会は、ドイツでは開催されていません。 しかしおそらく、多くの観客は、退廃だ、唾棄すべきものだと口にしながら、じつはその美に酔っていたのではないかと推測します。 何もナチが政権を取ったからと言って、ドイツ人の多くが近代絵画を嫌ったわけではありますまい。 芸術と倫理をめぐる考え方は、様々なものがあり、ナチのように単純化することは出来ません。 美的判断と倫理的判断とが同じ芸術作品に適用されると、ややこしいことになります。 美的だけど倫理的じゃない、あるいはその逆、なんていうことは、芸術作品には非常に多く見られる現象です。 代表的な考え方に、自律主義と道徳主義と言われる立場があります。 自律主義は、作品に不道徳な面があったとしても、美的価値には一切影響しな...
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風光る

師走も21日を迎えました。 今年最後に残った年休を、26日(火)に取ることにしました。 私の職場の仕事納めは28日。 もう、今年出勤するのは4日だけです。 定時で帰っても、帰る頃にはもう真っ暗。  冬の空気は澄んでいるのか、帰宅の車から見る月は、ひときわ鮮やかに感じます。  風光る 師走の空の 月夜かな  正岡子規の句です。子規句集 (岩波文庫)高浜 虚子岩波書店 関東の冬は北風が厳しいですから、風光る、というのも実感として理解できます。 寒い寒いと愚痴をこぼさず、冬にしか味わえない風情を味わいたいと思います。にほんブログ村人気ブログランキング
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教団X

昨夜、中村文則のベストセラー長編、「教団X」を読み終わりました。教団X (集英社文庫)中村 文則集英社 自分の元から突如失踪した彼女を追って、カルト教団と思われる団体にたどり着いた男。 しかしそこはカルト教団と言えるような者ではなく、宗教や量子力学を学ぶゆるやかな団体。 その団体にかつていた男が、名前の無い、性の解放を謳うセックス教団を組織しています。 公安は彼等に目を付け、Xと呼んでいます。 仏教、量子力学、キリスト教、アフリカの土俗宗教などについての考察が延々と語られ、中だるみします。 そして、性、貧困、全体主義、平和への理想、テロなどが、これでもかと詰め込まれ、小説として破綻しているように感じました。 魅力的な題材を扱っているのに、もったいないと思います。 もう少しテーマを絞り込むべきでした。 お勧めできない一冊です。にほんブログ村本・書籍ランキング
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土の中の子供

昨夜は中村文則の「土の中の子供」という小説を読みました。土の中の子供 (新潮文庫)中村 文則新潮社 芥川賞受賞作で、その後は大活躍している作家ですが、読むのは初めてです。 主人公である「私」と暴力をめぐる物語ですが、近代以降の、わが国の、いわゆる「純文学」の悪い伝統を引きずっているように感じました。 「私」が、延々と暗くて絶望的な物語を語る、と言う。 「私」は子供の頃親に捨てられ、遠戚の夫婦に引き取られますが、激しい虐待にあい、そのことが「私」の精神をゆがませています。 山中に埋められる、という生きるか死ぬかの経験まで積んでいます。 その後施設に引き取られ、遠戚の夫婦は逮捕されてしまいます。 陰鬱で悲惨な一人語りが続きます。 正直、共感できません。 しかし、読み進むうち、これは再生と希望を描こうとしているのではないか、と気づかされます。 20代の「私」はタクシードライバーとして生計を立てていますが、暴走族を挑発してボコボコにされるなど、やたらと恐怖体験を求めます。 不思議なことに、そこに、一種の希望が見えてきます。 私が望んでいたのは、克服だったのではないだろうか。自分に根付いていた恐...
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飛ぶ夢を見たくて

師走を迎えたせいか、このところ忙しい日々が続いています。 仕事中も、なんだかイライラしています。 そのせいか、仕事をほっぽりだして、どこかへ消えたいなどと、実現不可能な夢を見ます。 折りも折り、先般45歳以上の職員全員に早期退職を促すメールが人事担当部署から届きました。 人件費の高い中高年の職員には早く辞めてほしいようです。 しかし、少々退職金が上乗せされたところで、それだけで一生食っていけるわけもありません。 手を挙げたいと思いながら、ぐっと堪えています。 私は、どこかへ飛んで行きたいのでしょうか。 飛ぶ夢を 見たくて 夜の金魚たち という俳句がありましたっけ。 黛まどかの句で、「聖夜の朝」という句集に載っていたように覚えています。聖夜の朝 (講談社文庫)黛 まどか講談社 一生を狭い水槽で過ごす金魚たち。 その金魚たちですら、いやだからこそ、飛ぶ夢でも見て慰めを得たいのでしょうか。 私は悲しいかな飛ぶ夢をみたことがありません。 せめて夢の中ででも、浮世のよしなし事を忘れて、自由に羽ばたいてみたいものです。にほんブログ村 人気ブログランキング
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追われる

師走も4日目を迎えました。 今のところ寒さはそれほどでもありませんが、なぜか気が急く月ですね。 うしろから 追はるゝやうな 師走哉 正岡子規の句です。 師走の慌ただしい感じがストレートに表現されています。子規句集 (岩波文庫)高浜 虚子岩波書店 今上陛下のご退位が再来年の4月末と決定し、平成の御世も残りわずかとなりました。 そのことも、なんとなく気持ちが焦る要因になっているのかもしれませんね。 私は昭和44年の生まれ。 平成の御世が始まった時、大学生でした。 世はバブルのまっただ中。 私はバブルに浮かれる人々を、冷ややかに見ていました。 その後バブルの反動か、20年以上に及ぶ冬の時代が続いています。 最近は景気が良いと聞きますが、給料が上がらないのでそんな実感はありません。 次の元号がどんなものになるのかはまだ分かりませんが、3つの時代を生きることになるのは間違いなさそうです。 もしかしたら、4つの時代になるかもしれませんね。 皇太子殿下は私より年上ですし。 なんだか無駄に歳月を過ごしてきたような気がします。 目の前の為すべきことを、ただ機械的に為してきただけのような。 多分これからも...
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Nのために

今日は静かに読書をして過ごしました。  湊なかえの「Nのために」を読みました。 知りませんでしたが、ドラマ化もされているんですね。Nのために (双葉文庫)湊 かなえ双葉社【Amazon.co.jp限定】Nのために DVD-BOX(コースターセット付)榮倉奈々,山本剛義,阿南昭宏TCエンタテインメント 高級高層マンションで、夫婦が殺されます。 その現場に居合わせた人たちが、それぞれ一人称で事件について語る、という構成になっています。 第一章では、警察の質問に答える形で、それぞれの証言の食い違いはありません。 しかし第二章以降、現場に居合わせた者たちが、真相を語りだしたとき、警察に話した内容とは全く異なる事件の全容が明らかになります。 一人称ですから、当然、主観で語られます。 そうなると、同じ事件が異なった様相を呈します。 ちょうど、芥川龍之介の「藪の中」のように。藪の中 (講談社文庫)芥川 龍之介講談社 それぞれの生い立ちなども判明し、読後感の悪い作品になっています。 Nとは、登場人物6人全員を指しています。 6人ともが、苗字か名前のイニシャルがNなのです。 それぞれが、自分とは違うNの...
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悪魔の舌

昨夜、青空文庫で遊んでいたら、村山槐多という作者の「悪魔の舌」という短編をみつけ、読んでみました。悪魔の舌村山 槐多メーカー情報なし悪魔の舌 (青空文庫POD(ポケット版))村山槐多青空文庫POD 村山槐多、大正時代の画家で、詩や小説も書き、わずか22歳で夭折した、という人でした。 「悪魔の舌」、なかなかに興味深い作品でした。 なにやら楳図かずおの恐怖漫画を読むような楽しみがありました。 金子という25歳の詩人の物語です。 物語は、金子が自殺して後、友人が遺書をみつけ、その遺書に奇っ怪なことがつづられている、という構成になっています。 金子はある時を境に、何を食っても不味く、どうしたのかと思っているうちに、悪食に走ります。 悪食とは、土、ミミズ、毛虫などを食すのです。 そしてそれらは、とてつもない美味、いや、美味というより麻薬のような恍惚をもたらす食い物と感じます。 そんな食生活を続けているうちに、なぜか金子の舌にはびっしりと針が生えてしまうのです。 悪食はさらに進んで、人肉を食いたいという欲望につながります。 そしてある晩、谷中墓地で若く美しい女の死肉を喰らい、もはや止まらなくなり、...
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