文学

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横道世之介

昨夜は吉田修一の長編「横道世之介」を読みました。 平易な読みやすい文章と、テンポ良く転がる物語の世界に引き込まれ、文庫本で470頁強の小説を、少々夜更かしして最後まで読んでしまいました。 青春小説ということになるんでしょうね。 主人公の横道世之介はバブル全盛期に長崎県の片田舎から大学進学のため上京します。 時に18歳。 大学名は明記されませんが、武道館で入学式をやったとか、武道館から歩いて大学に戻るとかいった描写があり、法政大学で間違いないと思います。 作者のプロフィールを見ると長崎県出身で法政大学卒業とありますから、かなりデフォルメしてあるにせよ、作者自身がモデルになっているものと思われます。 18歳から19歳の、大学一年生の1年間が月ごとに章立てされ、描かれます。 バイトやサークル、恋に友情等、青春小説のエキスとでも言うべきものがたっぷりと盛られ、飽きさせません。 バブル全盛期に大学生活を送ったのは私と同じ。 作者の年齢が55歳、私が54歳ですから、あの狂乱の時代をともに大学生として生きていたわけです。 嫌でも親近感がわくというものです。 時折横道世之介をめぐる人々、友人だったり恋...
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夜想曲集

昨夜はカズオ・イシグロの短編集「夜想曲集」を読みました。 この作者の短編集は初めて読みました。 というか、私の知るかぎり、短編集はこれ1冊だけだと思います。夜想曲集 (ハヤカワepi文庫)カズオ・イシグロ早川書房 いずれも音楽家が主人公になっています。 酒場で演奏する売れないバンドからかつてスターであった老歌手まで、さまざまです。 この短編集の刮目すべき点は、ユーモアが前面に出されているところです。 しかしそのユーモアは、人生というものへの辛辣さが隠されていて、そこが深い味わいものになっています。 エンターテイメントのようでいて、文学になっている、素敵な短編集でした。
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消滅世界

昨日は村田沙耶香という作家の小説を読みました。 「消滅世界」です。消滅世界 (河出文庫)村田沙耶香河出書房新社 人類の生殖は人工授精で行うことが当然になり、性行為は不潔とされ、忌み嫌われるようになった世界。 さらに進んで、実験都市というのを作り、楽園(エデン)システムという気色の悪い方法で人間社会を変革させようと試みます。 すなわち、男は人口子宮というものを取りつけ、男でも女でも出産を可能にし、生まれた子供は父母ではなくエデンシステムが育てる。 子供は社会全体の物として、男も女も老いも若きも成人は全ての子供のおかあさんとなり、家族という概念は消滅してしまう。 一種のSFであり、ジェンダー・レス社会を描いた作品と言えます。 非常に興味深い内容で、感銘を受けました。 もう10年も前になるでしょうかか、この人の芥川賞受賞作「コンビニ人間」を読みましたが、あんまり面白くないという印象を受けました。コンビニ人間 (文春文庫)村田 沙耶香文藝春秋 それが「消滅世界」を突然読んでみる気になったのは、本屋で偶然手にとり、面白そうだと思ったからです。 思い返してみれば、コンビニでの仕事に耽溺する中性的と...
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遠い山なみの光

今日は昨日とは打って変わって静かに過ごしています。 まずは朝一番で散髪。 夕方16時30分から精神科へ行く予定。 その間にカズオ・イシグロの処女長編「遠い山なみの光」を一気に読みました。遠い山なみの光 (ハヤカワepi文庫 イ 1-2)カズオ イシグロ早川書房 舞台は終戦後間もない長崎。 そこで若い妊婦と彼女を囲む人々との日常が淡々と綴られます。 その中に異色の人物が登場します。 米国人の愛人から一緒に米国に行こうと誘われ、それに夢を抱きながら、いつまでも渡米がかなわない女です。 主人公はそれを愚かな考えだとしています。 しかし、その主人公自身が、その経緯は語られませんが、家族を捨てて英国人の夫と子供を抱えて英国に移住しています。 主人公と他の登場人物たちとの間で交わされる会話が印象的です。 そこはかとなく漂う時代の変化に伴う諦念だったり哀愁みたいなものが物語に深みを与えています。 カズオ・イシグロは長崎で生まれ、5歳の時に親の仕事の関係で英国に移り住みます。 そのまま英国で過ごし、英国籍を取得。 日本語はほとんど出来ず、英語で小説を書き始めます。 その作品群は英文学として高く評価され...
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湖の女たち

昨夜は吉田修一の「湖の女たち」という小説を読みました。 吉田修一といえば、芥川賞受賞作「パーク・ライフ」が非常に印象に残っていますが、なぜかその後この作者の小説を読むことはありませんでした。パーク・ライフ (文春文庫)吉田 修一文藝春秋 この小説、文庫本で400頁足らずですが、とにかく登場人物が多い。 あまりにも多いので、相関図のような物を作ってしまいました。 そうでないと混乱するからです。 この小説では湖と言えば琵琶湖と戦前の満州国に作られた人造湖、平房湖を指しています。 琵琶湖のほとりに建つ老人ホームでの事件とも事故ともつかない老人の死から物語は始まります。 真相を追う刑事と施設で働く介護師との異常な性的関係、平房湖で起きた少年と少女の死、それらが複雑に絡み合って、ついには老人の死は731部隊の蛮行にまで繋がっていることが示唆されます。 しかし、全ては示唆であって、真実とも虚構とも語られません。 複雑な物語で、しかも読後感は最悪。 嫌な気分にさせらてしまい、しかも逆説的ですが、それが心地よいあたり、いわゆるイヤミスに近いのかもしれません。湖の女たち(新潮文庫)吉田修一新潮社
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