文学

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夏、夏、夏、

週末は梅雨の晴れ間。 梅雨の晴れ間はもう夏ですねぇ。夏、夏、夏、露西亜ざかひの黄の蕊(しべ)の 花じゃがいもの大ぶりの雨 北原白秋の和歌です。 大きな歌ですねぇ。 夏の三連発、これ、反則じゃないでしょうか。 蕊(しべ)とはおしべめしべのこと。 それが花ジャガイモの大ぶりの雨に降り注ぐというのです。 なんとも力強い、生命力に溢れた和歌ではありませんか。 やや抒情的なイメージが強い北原白秋ですが、このような生命賛歌のような歌も詠むのですねぇ。 ちょっと驚きました。 打って変わって、北原白秋らしい和歌を。病める兒は ハモニカを吹き 夜に入りぬ もろこし畑の 黄なる月の出 これはまた、異様なまでに美的で繊細な歌ですね。 病気の子どもがハーモニカを吹きながら夜の中に入っていく、そこはモロコシ畑で黄色い月が出ているというわけです。 ハーモニカ、もろこし畑、黄色い月、小道具がすべて良いですねぇ。 これは必ずしも夏の歌ではないかもしれませんが、私はあえて夏の歌だと読みたいと思います。 だってこのシチュエーションで肌寒い時期ではやれんじゃありませんか。 私も一つ、酔眼をぎらつかせて、伊達ハーモニカでも持...
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桜桃忌

今日、6月19日は太宰治の命日、桜桃忌ですね。 今も若者を中心に多くの愛読者を持つ不世出の天才作家です。 毎年この日にはお墓参りを欠かさないファンも多いと聞きます。 私も中学生の頃、文庫本で読める作品はすべて読みました。 当時は「人間失格」やら「斜陽」やらのいわゆる代表作にのめり込みましたが、今思えば、彼の精神が最も安定していた中期の短編群が小説としての完成度が高いように感じます。 太宰治が「駆け込み訴え」を口述筆記した時その場に居合わせたという編集者曰く、酒を含みながら、よどみなく一気に話し、しかも文字に起こすと完璧な文章になっていた、と言いますから、やはり天才だったのでしょうね。 ただ、彼の私生活をみると、どうしても人物としては好きになれません。 心中未遂を繰り返してそのたびに女が亡くなって自分だけが生き残ったり、妻子がありながら浮気を繰り返して不義の子をもうけたり、芥川賞欲しさに川端康成などに泣きついたり、いわゆるだらしのない人ですね。 高校、大学と古典文学や擬古典的な近代浪漫文学に魅力を感じるようになり、自然と、太宰治の作品からは離れて行きました。 でも今、自分が中年になってみ...
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梅雨はげし

今日も雨模様。 そのうえ梅雨寒。 職場は寒くて、あったか下着を着てさらに上着を着、密かに股引きを履いています。 それでも半袖シャツ一枚の人がいるから不思議です。  こんな梅雨を、激しいととらえた句があります。 梅雨はげし 百虫足殺せし 女と寝る西東三鬼 女は百足を踏みつぶしてしまったのでしょうか。 その女と寝るとは、なるほど梅雨は激しい道理です。 なんだか雨にぬれた虫の死骸や女体の臭気が匂ってくるようで、不気味ですねぇ。 梅雨富士の 黒い三角 兄死ぬか   西東三鬼 梅雨の富士を黒い三角と見立てているのが面白いですねぇ。 そして唐突に出てくる兄の死。 黒い富士に死を暗示させているのでしょうか。 一般に俳句では病は詠んでも死は詠まないように思います。 それを俳句であえてやると、不気味さが増すようです。 梅雨はなんとなく体が重く、気分が沈みますが、梅雨をこんな風に句にすることができれば、なかなか楽しい季節のような気がしてくるから不思議です。西東三鬼句集 (芸林21世紀文庫)西東 三鬼,橋本 真理芸林書房神戸・続神戸・俳愚伝 (講談社文芸文庫)西東 三鬼講談社にほんブログ村 本・書籍 ブログ...
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入梅

昨日は入梅だったそうで。 道理でこのところ大気の状態が不安定です。 うっとうしい季節ではありますが、梅雨の雨がわが国の稲作を支えてきたのは事実で、近年米食が減ってきたとはいえ、今も変わらずわが国民が最も多く食する穀物であることに変わりはありません。 梅雨の時期、梅雨寒という言葉があるくらい、思いがけず肌寒い日がありますね。 今日もけっこうひんやりしていて、上着が手放せません。 まして体重が三カ月余で10キロも落ちてしまった身であれば、寒さは耐えがたいものがあります。 先日半袖姿でスーパーに行ったら、冷凍食品売り場で遭難しそうになりました。 スーパーの冷凍食品売り場は冬山のようです。 その肌寒い感じが、どこか物寂しくも感じられ、正岡子規は、  入梅の中 人静かなり 法花堂 という句を物しています。 法花堂は奈良東大寺にあるお堂。 観光客でにぎわっている東大寺であっても、梅雨寒の時期には静かな感じがするというわけでしょうか。 梅雨といえどもわが国の豊かな四季を構成する重要な要素。 あはれもをかしも感じられませんが、この時季ならではの風情を楽しみたいと思うのです。子規句集 (岩波文庫)高浜 ...
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時の力

わが国の精神文化には無常観が深く刻まれ、時とともに万物は流転していくという感覚を、この国に生まれ育った人々は自然に身につけていくようです。 過去を懐かしむのも過ぎ去った時の力によるものであり、未来に希望を抱くのも時が輝かしい時代をはこんでくれるという、時の力を信頼したものでしょう。 私はうつ病発症時、時の力によってしか、この苦しみから解放されることはないのだと知りつつ、しかし病を克服したからと言って輝かしい時を迎えるわけでもないことをも知っていました。 今、精神症状はほぼ治まって、ずいぶん楽になりましたが、平凡に過ぎいく時に感謝するほど老成してはいません。 私ははるか遠く感じられる定年の時を迎えるまで、健康で生き延びたいと願うばかりです。 亡父の蔵書から「花のもの言う 四季のうた」という本を引っ張り出しました。 文字通り四季の名歌を取り上げたものですが、巻末に、時間という章立てがなされていました。 自然を歌った悠久の時間を取り上げた歌もあれば、時間に対する個人的な感想のような歌もありました。 私は時間に対する個人的な思いを詠んだ歌に心惹かれました。 まずは三条院の、 こころにも あらで...
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