文学

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女流官能文学者

斎藤綾子という官能の世界を描く作家がいます。 私は「愛より速く」という自身の性遍歴を綴った自伝的作品と、バリの森の奥で女性ばかり4人の小さなコミュニティーで夜な夜な互いの体を貪り合う女たちと、東京から恋人を亡くして傷心旅行に着た女性との不思議な関係性を描いた幻想的作品「ルビー・フルーツ」を読みました。 私には少々性描写がきつくて、この2作だけで充分だと感じるほどでした。 ただ、性愛を描く女流作家が、えてして肉体的愉悦以上に、人間同士の愛情みたいなものをちらつかせて、私を白けさせるのとは逆に、この作家の作品はどこか明るく、乾いていて、ドロドロの女流官能作家とは一線を画しています。 「愛より速く」は高校生の時読んだのですが、官能小説というもの、どこか喜劇めいているな、という印象を持ちました。 それは団鬼六の「花と蛇」シリーズなんかも同様で、どこか滑稽で不思議な味が、官能小説の本質なのではないかと感じたことを覚えています。 性体験を秘め事とか言いますね。 秘めているからそこには神秘性や神聖さが内在しているのであって、文章で表に出し、秘することを止めれば、滑稽に思えるのは言わば当たり前です。 ...
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阿呆陀羅経

昨夜書いた記事で、「リピーターズ」と石川淳の「至福千年」の類似を指摘しました。 その際、「至福千年」をぱらぱらと読み返し、止められなくなってしまいました。 戯作調の文体で難解な高い思想性を、幻想的な物語の中で語りつくす手法はこの作家特有のもので、後にも先にも例をみない、極めて特異な文学世界を紡ぎだす驚嘆すべきものです。 代表作にして最高傑作「紫苑物語」をはじめ、戦前の共産党の暗闘を描いた「普賢」や、戦後の焼け跡に神を見る「焼跡のイエス」など、私はかつて夢中になって読んだ記憶があります。 三島由紀夫や野間宏など、石川淳と同世代の作家たちは、石川淳をどう評価してよいものか戸惑ったらしく、敬して遠ざけるような態度をとっていました。 もし石川淳を批判したなら、その批判の刃はそっくりそのまま自分に返ってくると恐れたのかもしれません。 そしてまた、文学的評価が高いにも関わらず、あまり売れなかったことは、ひとえにわかりやすい語り口とは裏腹に、難解な思想を含んでいたためと思われます。 そんな中、はるか下の世代の文芸評論家、江藤淳は石川淳の文学世界を、一言、阿呆陀羅経と言い放ち、論評すらしようとしません...
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冷たい雨

今日はなんだか冷たい雨が降って、体がだるい一日でした。 良くないコンディションのなか、来週の会議資料作成やら、2時間の会議出席やら、かなり無理やり働いた感じです。 精神科医も、リワークでも、体調が悪い時は勇気をもって休め、と言いますが、働いている以上、体調が悪くても無理しなければならない場面はけっこう多いですね。 程度の問題で、その日の仕事の重要度と自分の体調を秤にかけて決めるということでしょうか。 仕事をする=無理をすることだと、働き始めて20年、実感します。 加齢による体力の衰えにプラスして、精神障害による衰えがあるのでなおさらなのでしょうねぇ。 40代前半でこんなに疲れやすくて、定年までもつのか心配です。   大寒や 転びて諸手 つく悲しさ 俳句の魔術師、西東三鬼の句です。 大寒にこけるとは寂しい句です。 一方、 大寒の 薔薇に異端の 香気あり  という、まさに言葉の魔術師らしい、俳句としては反則ともいうべき美しい句もあります。  明日は大寒。 この寒い冬を乗り切れば、少しは精神上の脆弱さが改善されるのでしょうか。にほんブログ村本・読書 ブログランキングへ↓の評価ボタンを押してラ...
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ひねくれ芥川賞作家

先日芥川賞受賞が決まった田中慎弥氏、素敵な会見でしたね。 仏頂面で「自分がもらって当然」という意の発言をして爆笑を誘ったかと思うと、石原都知事が最近の芥川賞受賞作を「馬鹿みたいな作品ばかり」と言ったのが気に障ったのか、「(受賞を)断って(石原氏が)倒れたら都政が混乱する。都知事閣下と都民各位のためにもらってやる」、と不機嫌そうに言い放ちました。 世間では大人げないと評判が悪いようですが、このくらいの矜持を持っていなければ、どこの組織にも属さず、筆一本(今はパソコン1台か?)で生きていくことなど叶わないでしょう。 あの会見を見て受賞作を読む気が失せた、という人もいるようですが、私は俄然、読みたくなりました。 タイトルは「共喰い」というらしいですね。 凄絶な親子の話だとか。 いずれにせよ、アクの強いひねくれ者と見えました。 私は一緒に働くのは嫌ですが、小説を読む分にはひねくれ者のほうが面白いと思います。 そう思うのは私自身がひねくれ者だからかな? 共喰い田中 慎弥集英社切れた鎖 (新潮文庫)田中 慎弥新潮社にほんブログ村本・読書 ブログランキングへ ↓の評価ボタンを押してランキングをチェッ...
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尾崎紅葉祭

今日は尾崎紅葉祭だそうですね。 なんでも「金色夜叉」で貫一がお宮を足蹴にしたあの有名な場面は、1月17日だったからだそうです。 三島由紀夫の憂国忌や太宰治の桜桃忌、芥川龍之介の河童忌などに比べると、多分に商売のにおいが漂います。 ファンによって自然発生的に生まれた物というより、温泉旅館の旦那衆が客寄せのために寄り合いで決めたような感じがします。 当日は熱海の芸者が例の場面を寸劇にして演じたり、踊りを踊ったりしてお祝いするそうです。 しかし自分を裏切った女を若者が足蹴にしたことがなんで目出度いのかはよくわかりません。 熱海に人が大勢くることが目出度いんでしょうね。 尾崎紅葉と言う人、わずか35歳で亡くなってしまいましたから、長生きしたらどんな大作家になったか分かりませんが、後の自然主義文学や私小説の影響で、不当に低く評価されているような気がします。 華麗な雅俗一致の文体は、他に例をみない、ほとんど生理的快感を生むような名文ですし、巷間言われているような通俗的な作品ではないと思います。 仮にそういう面があったとしても、食っていけないような小説、もっと言えば誰も読まないような小説を書いたとこ...
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