文学

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vita sexualis

私にとっての性的な事件は、誰でもそうだと思いますが、若い頃に集中しています。 物心ついたとき、私にはすでに好きな子がいました。 小学校1年生、7歳の頃です。 その女の子とは気が合って、互いの家を訪問したりして、遊んでいました。 遊ぶといっても、私は普通の男の子のように外を駆け回るのは好みませんでしたから、もっぱら家の中でおしゃべりをしたり、じゃれあったりして遊んでいたのです。 お医者さんごっこなんかして、まだ役に立たないはずの幼い性器が勃起したりして、戸惑ったものです。 じゃれあっている時に、なんとなく、口づけしたのですよねぇ。 7歳というのはちょっと早いような気もしますが、「好色一代男」の世之介は6歳で初体験を済ませていますから、私なんか可愛いものですねぇ。 小学校4年生から6年生にかけて、私の心をときめかす女子は現れませんでした。 しかし、私を困らせる女が登場しました。 4年生のときに隣の席になり、なんとなく仲良くなったのですが、そのうち彼女はストーカーまがいの行為にでました。 ラブレターをよこす、風邪で休めば花束をよこす、写真をくれ、と言ってくる。 私は終始、無視し続けていました...
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残暑

ここ数日非常に厳しい残暑が続いていますね。 まだエアコンなしでは眠れません。 夏はあんまり暑くなかったように感じますが、残暑がしつこい感じがします。 秋暑き 猫の横顔 たけだけし  日野草城 猫の横顔がたけだけしいだなんて、よけい暑くなっちゃいますよ。 うそでもいいから日向で気持ちよさそうに寝ていなさい。  友を葬る 老の残暑の 汗を見る  高浜虚子 これはまだ私にはわからない心境ですねぇ。 友人の葬式というのは出たことがありません。 ていうか、友人で死んだやつはまだいません。 しかしそれでも、ドスのきいた、迫力ある句であることはなんとなくわかります。 ぢりぢりと 向日葵枯るる 残暑かな  芥川龍之介  これはまた、なんとも不気味な句ですねぇ。 向日葵が枯れる風情というのは、他の花と違い、荒々しくて無様です。 向日葵が、死そのもののような無残な姿をさらし、なお、暑い、というのですから、うんざりします。 向日葵のグロテスクな花が枯れていくとは、句を読むだけで怖気がふるいますねぇ。 残暑が厳しいからと、残暑の句ばかり見ていたら、よけい暑くなってしまいました。 エアコンが普及する前、人々は暑...
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今宵は仲秋の名月。 秋と言うには少々暑いですが、良く晴れて、月がよく見えそうです。 暗くなれば、ぐっと涼しくなるでしょう。 秋の月は、春の桜と並んで、わがくにびとが愛でてやまない風流の象徴。  西洋では、今宵、狼男が出没し、殺戮を繰り返すとか。  私の著作「荒ぶる」の表紙も月です。荒ぶるとびお 暢宏日本文学館 室町幕府八代将軍、足利義政は、応仁の乱をきっかけとする乱世に嫌気がさしたのか、東山に銀閣寺を建て、酒を飲んでは月に見惚れていたと聞きます。 銀閣寺観音堂は、月が夜どおし見えるように設計されており、月の動きに合わせて二階に登ったり、廊下を伝ったりしたようです。 銀閣寺です。 NHK大河ドラマ「花の乱」では、市川團十郎が絵空事の芸術世界に現実逃避する頼りない足利将軍を、三田佳子が夫とは打って変わって頼りがいのある日野冨子を演じて見事な対比でした。NHK大河ドラマ 花の乱 完全版 第壱集 三田佳子,市川團十郎,野村萬斎,佐野史郎,草刈正雄ジェネオン エンタテインメントNHK大河ドラマ 花の乱 完全版 第弐集 三田佳子,市川團十郎,野村萬斎,佐野史郎,草刈正雄ジェネオン エンタテインメン...
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ゆで卵

元ジャーナリストで芥川賞作家の辺見庸は、地下鉄サリン事件に遭遇、サリンを吸っているのだそうですね。 幸い一命を取り留め、その時の体験を小説にしています。 タイトルは「ゆで卵」。 不思議なタイトルだなぁ、というのが率直な感想でした。 地下鉄サリン事件の体験談が、「ゆで卵」なんてねぇ。  で、読んでみると、なるほど、ゆで卵をいくつも喰らっています。 地下鉄サリンという異常な体験をした後、家に帰り着き、その事件がどういう背景のもとに行われたのか、また、何者によって引き起こされたのか、何も情報がないまま、修羅場と化した地下鉄日比谷線を呆然と抜け出し、家に帰ってしたのは、ゆで卵を食うことでした。 サリンの異臭よりも、むせかえるようなゆで卵のにおいのほうが強烈だなぁ、などと呑気なことを考えつつ。 意味不明の異常事態が起きた場合、人は物を食うか寝るか性交するか、とにかく原初的な行動をとるのかもしれませんね。 本能的に生きるための栄養や休養を欲したり、種の保存を目指したりするのでしょうか。 食うシーンを、ぽくぽくと食う、と表現していたのが印象的でした。 一般に、小説家がやってはいけないこととして、造語...
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待つ

近現代の作家はあまたあれど、物語作者としての才能が豊かであったのは、三島由紀夫と太宰治ではないかと思います。 不幸なことに、三島由紀夫は大の太宰嫌いで、ファンも三島が好きなら太宰が嫌い、太宰が好きなら三島が嫌い、という傾向があるように思います。 太宰治の自己憐憫的な甘ったれた点は鼻につきますが、気力体力充実していた壮年期には、見るべき作品がたくさんあります。 一つ、太宰治の特徴として面白いと思うのは、少女もしくは人妻の告白スタイルの短編小説が見られることです。 「女生徒」とか、「待つ」とか。 あまりにも短く、あまり取り上げられることのない「待つ」について感じたところを述べたいと思います。 「待つ」は、毎日家で母親と針仕事をして過ごしている20歳の娘が、太平洋戦争の開戦とともに、家でじっとしていることに罪悪感を覚え、何かしなくては、という強迫観念に駆られ、夕方の買い物帰り、毎日毎日駅前のベンチに座って、何者かを待つ、というお話です。 彼女は人間嫌いで、知らない人とあいさつを交わすことさえ恐怖を感じるというタイプですが、誰かは知らぬ誰かを待たねばならぬ、と決意するのです。 もちろん、そんな...
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