文学

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紅旗征戎(こうきせいじゅう)

私はこのブログで、政治や社会的事件のことを書き連ねていますが、藤原定家の「名月記」を読んでいて、つくづく修行が足りぬわい、と実感しました。 「名月記」に、次のような件りがあります。 世上の乱逆追討、耳に満つといえども、これを記さず。紅旗征戎、わが事に非ず。 源平の合戦が始まった頃の言葉です。 藤原定家といえば、「新古今和歌集」を編んだ当時一流の歌人。 京のみやびに生きた人です。 その彼が、世の中の政治的なことは耳に入ってきても、自分には関係がない、というのです。 ただの腐れ公家ではなく、気骨のあった人と見えます。 私も彼に倣って、世の中のことなど知らぬ、と言ってみやびの世界に生きたいものですが、所詮は貧乏サラリーマン。 なかなか高踏的な態度で生きていくことはできないのです。 「新古今和歌集」を文庫で読もうとすると、今まで岩波文庫しかありませんでしたが、これは注や訳がなく、素っ気無いものでしたが、近頃角川ソフィア文庫から出たものは、解説つきで面白いですね。 近頃古典というと角川ソフィア文庫にはまっています。 古典の入門書としてお勧めの文庫です。新古今和歌集〈上〉 (角川ソフィア文庫)久保...
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蝿の王

英国のノーベル賞作家、ウィリアム・ゴールディングの「蝿の王」を映画化したものを昨夜見ました。 飛行機が海に墜落、乗っていた陸軍少年兵学校の生徒たちが、ゴムボートで命からがら南洋の無人島にたどり着きます。 最初は、ルールに則り、規則正しく生活しますが、やがて、規律を守ろうとする一派と、無人島の主として狩りや釣りを楽しみ、好きなように生きていこうとする一派とに分かれ、しかもどんどん好きにやっていこうという派の人数が増えていきます。 彼らは顔に赤と黒のペイントをし、木の槍を持ち、豚をとらえては豚を丸焼きにしながら踊り狂います。 英国紳士たるべき陸軍少年兵学校の生徒にあるまじき行為です。 残りわずかになった規律派ですが、話し合いを持とうとしていさかいを起こし、ついには殺されてしまいます。 四面楚歌となった規律派のリーダーは、ジャングルの中を必死で逃げます。 そしてそれを追う顔にペイントをし、槍をもった軍団。 大人顔負けの紛争を戦っている彼ら、海辺に現れた軍のヘリコプターを見て、急にあどけない子どもに戻ってしまいます。 小説では、規律正しい英国軍人の卵たちが、やがて崩壊し、ついには殺人にまで手を...
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牧水先生

今年の夏は各地で花火大会や祭りが中止になり、なんとなく寂しいですね。 もっとも、人ごみが苦手な私は、花火やお祭りの賑わいは苦痛でしかありませんが。 中止の理由は震災の影響なんでしょうねぇ。 やむを得ざる仕儀というわけです。 野末なる 三島の町の あげ花火 月夜のそらに 散りて消ゆなり 若山牧水が珍しく詠んだ、花火の歌です。  どうということもない歌ですが、なぜか、閑散とした花火会場の景が浮かびます。 もっともそれは、隅田川や江戸川やの、混雑激しい花火会場と比較して、という意味ですが。 北南 あけはなたれし わが離室(はなれ)に ひとり籠れば 木草(きぐさ)見ゆなり こちらは暑さに参って風通しの良い離れでのんびり横になっている風情でしょうか。 今でいえば、休暇をとって冷房を効かせた部屋から一歩も出ずに日を過ごす怠け者の喜びといったところでしょう。  なまけつつ こころ苦しき わが肌の 汗吹きからす 夏の日の風 牧水先生、のんびり夏の日を部屋にこもって酒でも喰らっているのかと思ったら、人並みに罪悪感なんか感じちゃってるんですねぇ。 だらだら過ごすことに罪悪感を感じるのは、わが国の国民性でし...
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懐古

九段の昭和館をはじめとして、青梅の昭和レトロ商品博物館や映画では「ALWAYS 三丁目の夕日」やら「20世紀少年」やら、昭和を懐古する物が溢れるようになったのは、ここ5年ばかりのことでしょうか。 平成の御世も23年目を迎え、長すぎる不景気の中、右肩上がりの経済成長を続けた頃に小中学生だった団塊の世代も定年を迎えて久しく、もはや昭和は懐古の対象でしかないのですね。 しかし、今ノスタルジックに懐古する昭和は、いわば架空の過去。  昭和という時代のイメージを道具に、人々が作り出した美しい嘘。  過ぎ去った時代を美化する感傷に過ぎません。 「徒然草」22段に、 何事も、古き世のみぞ慕はしき。今様は、無下にいやしくこそなりゆくめれ。 とあります。 鎌倉時代を生きた兼好法師も、自らが生きる時代をつまらないと考え、昔の文化風俗を懐古しているのですね。 多分そういう意識は古今東西を問わず、多くの人が持つ感慨なのでしょうね。 あと50年もすれば、平成23年の文化風俗、例えばスマート・フォンだとかRPGだとかが古くて懐かしいものになるんでしょうねぇ。  いつの時代も、只今現在が時代の最先端。 石器時代には...
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まだまだ暑い日が続きますが、昨日は立秋だったのですね。 今日から暑さも残暑。 過ぎる時の早さを嘆くのは私のよくするところではありませんが、そういう気分も理解できなくはありません。 秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる  藤原敏行 立秋の頃の気分を詠んだ歌といえば、この歌にとどめを指すでしょう。  古今和歌集に所収の、あまりにも有名な歌です。 秋の気配を風に求めた斬新な歌で、さぞかし良い涼風が吹いたのでしょうね。 和歌の世界で立秋に秋を感じても、日々の生活を送るうえでは、まだまだ暑くて不快です。  それでも、仕事帰りなど、確実に陽が短くなっているのを感じます。 冬がしつこいのに比べ、夏は儚いですねぇ。 もっとも夏がしつこかったら、暑くてやれませんが。新版 古今和歌集 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)高田 祐彦角川学芸出版 ↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
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