文学

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永久未完

宮沢賢治の童話は、子どもの頃誰でも一度は読んだことがあるのではないでしょうか。 私はあまり好みませんでしたが。 宮沢賢治は発表した後の作品でも、何度もしつこく加筆訂正を加え、後に全集を編む時、担当者は非常に苦労したそうです。 そのことから、彼は物語に終わりはない、という特異な見方をしていたのではないかと言われています。 発表された物語もすべて未完で、どういう変容を遂げるか誰にもわからないというのは、なんとも思わせぶりで、読者は困っちゃいますね。 よくひどい出来事が有った時、米国映画などで「それでも人生は続く」と諭されるシーンがありますね。 自分が死なないかぎり、両手両足を切断して達磨さんみたいになっても、人生は続くんですよねぇ。 寺島しのぶの「キャタピラー」なんて、まさしくそれでした。 しかし発表した物語というのは、言わば作者にとってはもう死んだものなのですよねぇ。 完成、といって出版社に送ったのなら、それはもう公のもの、作者が勝手にいじってよいはずがありません。 砂浜に自分が作った砂粒を落とす、というのが、物語を作るときの実感ですかねぇ。 多分宮沢賢治は、あまたの砂粒にまぎれ、どれが...
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五月雨

今朝は小雨が降ってじめじめしていましたが、晴れてきました。 昨日ほど暑くもなく、まずまずの一日だったのではないでしょうか。 五月雨の 雲まの月の はれゆくを しばし待ちける 時鳥かな 「新古今和歌集」所収の二条院讃岐の歌です。 五月雨というと五月の雨を思い浮かべるかもしれませんが、旧暦は現在の暦と一ヶ月半くらいずれていますので、これはちょうど梅雨どきの雨を指す言葉です。 梅雨どきの雨がやんで晴れてきて、月が出るのをホトトギスが待っている、というほどの意でしょうか。 五月雨に 花橘の かをる夜は 月すむ秋も さもあらばあれ 「千載和歌集」に見られる崇徳院の歌です。 梅雨どきの雨が降る中、橘の花が香る夜。こんな夜には、月が曇りなく輝く秋さえどうでもよいと思える、といったほどの意と思われます。 梅雨というとじめじめして不快だ、というのが現代人の常識であり、冷房の効いた部屋で快適にのんびり過ごしたい、というのが大方の意見でしょう。 しかし空調が普及したのはここ数十年ばかりのこと。 圧倒的に長い間、日本人は風鈴の音に涼を求めたり、襖や障子をすだれに代えたりして、過酷な夏を乗り切ってきました。 そ...
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夏至

今日は夏至ですね。 一年中で一番日が長い日。 明日からはもう、少しずつ夜が長くなっていくと思うと、夏とははかないものだと感じます。 そうは言っても、本当に暑いのはこれから。 今日首都圏は最高気温が30度を超えるとか。 節電の今夏、まだ冷房は入りません。 昨年の猛暑を思うと、これからが思いやられます。 夏の楽しみといえば、ビアガーデンでしょうか。 終業後でも薄明るいなかで飲む酒は、背徳の香りがしてまた格別です。 しかしビールは腹が張るのであまり好まない私は、蒸し暑いビルの屋上で不潔でまずいつまみを肴にビールを飲むよりは、冷房の効いた室内で焼酎のロックや冷酒をやるほうを好みます。 かんがへて 飲みはじめたる一合の 二合の酒の 夏のゆふぐれ  私が敬愛する歌人、若山牧水の歌です。 夏の夕暮れ、まだ明るいうちから飲んでもいいものか、と考えながら飲み始める、という酒好きの若山牧水らしい歌です。 彼は朝と昼に2合づつ、夜に6合で毎日一升の酒をくらい、友人がくればもっと飲んだといいますから、尋常ではありません。 43歳で亡くなった原因は、酒毒であったに違いありません。 今、彼の亡くなった年齢に近づい...
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追わないで

男というものは一般的に言って追う性で、追われることが嫌いな傾向があるようです。 少なくとも私はそうです。 追われてる、とかしつこい、とか感じたら、100年の恋も覚めるというものです。  もっとも近頃草食性と称されている男性陣は、積極的な女性を待っているらしいですが。  高橋幸宏の曲に、 愛されすぎると、逃げたくて、 というフレーズがあり、わが意を得たりと思いました。 永井荷風の「墨東綺譚」では、主人公の小説家が、玉ノ井の私娼と馴染みになって、私娼からおかみさんにしてくれ、と頼まれると、もう通うのを止めてしまうというストーリーになっていました。 永井荷風は独身を貫きましたが、きっと女性関係は色々あったのだろうな、と思わせる私小説風の作品です。 小説ではあまりしつこく描かれていませんが、津川雅彦が主人公を演じた映画「墨東綺譚」では、彼を思い、何年もきっと迎えにきてくれるはずだ、と私娼窟でその人を待ち続ける女の執念を、墨田ユキというAV出身の女優が演じていて哀れと恐怖を誘いました。 津川雅彦と墨田ユキの濃厚な濡れ場もあって、文芸作品のような、ポルノのような映画に仕上がっています。 私はさして...
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ガレージ

私が車を駐車しているのは、マンションのすぐ横に建つ立体駐車場です。 夏、暑くならず、雨が降っても汚れないのは良いですが、車を出すとき2分ほど待たなければなりません。 また、私の前に出そうとしている人がいれば、当然その分待ち時間は長くなり、軽くストレスです。 私はマンションを購入する際、一戸建ての購入は全く検討しませんでした。 防犯上も危ないし、庭なんかあっても手入れする気はないし、メンテナンスも面倒だと思ったからです。 ただ一つ、一戸建てで良いなと思ったのは、ガレージを設置できることです。 できればアメリカ映画に出てくるような、三台も四台も駐車できるような、大きなガレージが欲しいと思いました。 車は一台だけで、自転車やら、発電機やら、芝刈り機やら、チェーンソーやら、雑多なメカニック的なものが置いてあり、少し油のにおいがする町工場のような空間。 私は書斎より、そんなガレージで、読書したり、物思いにふけったりしたいと思ったのです。 じつはそれには、理由があります。 中学生の頃読んだ日野啓三の「天窓のあるガレージ」に影響されたのです。 車がないガレージを自分の空間と定めた少年。 天窓から降り...
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