文学

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神の子供たち

村上春樹の短編集に、「神の子供たちはみな踊る」という作品集があります。 米国で映画化もされました。 阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件にまつわる物語群です。 ストレートに両事件を扱ったわけではありませんが、これらを契機として作者が感じた圧倒的な暴力に対する予感が、神話的に語られます。 このたびの震災でも、私たちは自然が発する圧倒的な暴力の前に、人があまりにも無力であることを痛感させられました。 しかしおそらく、古来、私たちは災害にあうたびにたくましくなり、いわば災害を喰らって進歩してきたのでしょう。 今回、地震・津波・原発事故の三重苦という未曽有の災厄に襲われたわけですが、時間はかかっても、日本人は見事によみがえるでしょう。 今回学んだことの一つに、弱い内閣では危機に対応できない、ということでした。 それは誠に不幸な学習方法でしたが、起きてしまったことはどうにもなりません。 最近、枝る、という言葉がネット上で流行っているそうです。 枝野官房長官の働きぶりからきた言葉で、①寝る間も惜しんで働く、②無能な上司の下で必要以上に苦労する、の二つの意味があるそうです。 これもまた、危機に接してわか...
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満開

職場近くの公園の桜が、満開になっていました。 春なんですねぇ。 しかし満開の桜はどこかさびしげです。 命のはかなさを知っているからでしょうか。 もろともに あはれと思へ山桜 花よりほかに 知る人もなし 百人一首にも取り上げられた有名な 大僧正行尊の和歌です。 私が山桜をなつかしく思うのと同じように私のことをなつかしくおもってくれ、こんな山奥では花よりほかに知る人もいないのだから、といった意味かと思います。  この歌はさびしさを歌っていますね。  それは桜の本性であるかのごとくです。 では「山家集」所収の西行法師のあまりにも有名な歌。 願はくは 花の下にて春死なん そのきさらぎの望月の頃  この歌ほど日本人に愛され、人口に膾炙されてきた歌も珍しいでしょう。 数寄の極地をあらわしているともいえます。 しかし桜を賛美しているようで、満開の桜の下で死にたいと、桜は滅びゆくものの象徴であることを暗示してもいます。 では、桜が散った後の歌を、「新古今和歌集」から。 式子内親王の歌です。  花は散り その色となくながむれば むなしき空に 春雨ぞ降る  桜の花は散ってしまい、その様子を眺めていると春雨...
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吃音

今日会った業者の若者、ずいぶんひどい吃音でした。 しゃべらんでよろしい、と思うほど。 私はこれまで、小学生のころ一人、大学のころ一人、ひどい吃音者を友人に持ちました。 鶏が先か卵が先か、二人とも女性が極端に苦手でした。 小島信夫に「吃音学院」という短編があります。 吃音矯正施設での、恋あり、犯罪ありのドタバタ・コメディーですが、小島信夫自身が吃音だったということもあり、障害を負った者の悲しみが底流に流れていたように思います。 吃音矯正施設では、女性が苦手な主人公が同じ吃音者の女性と付き合うことで、吃音をも女性恐怖をも克服しようとします。 彼には吃音ながらプレイボーイのライバルがいます。 言葉が出ない分手が早いんだそうです。 この三角関係を軸に、盲滅法電話をかけて喋ったり街頭で怒鳴ったりの吃音矯正、それに吃音矯正所の指導者の裏の顔などがちらついて、ドライな感じがよく出ています。 私は高校三年生の時は選択科目の関係で女子生徒40人に対し男子生徒5人のクラスだったり、大学も文学部のためか女性が多く、採用された職場も女性が多いため、女性恐怖というのは理解できません。 男だ女だと意識する前に、同...
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桜にあけて

例年より一週間ほど遅かったでしょうか。 桜が咲き始めました。 記録的な猛暑、そして平凡な冬、そして1,000年ぶりという東北の震災と津波。 それら自然の猛威を受けながらも、今年も桜は咲きました。 花は桜木、人は武士。 桜は日本人の自然受容の象徴的存在です。 寒い日が続いても、我慢していればやがて花は咲く、そういった忍耐をもって、私たち日本人は自然に順応することを選び、自然を克服しようとは思わなかったのですね。 桜の季節は一年で最も華やかで浮かれ騒ぐころ合い。 新入生歓迎コンパで毎年死人が出るほどの狂騒ぶりです。 春の夜は 桜にあけて しまひけり 俳聖、松尾芭蕉もこの時期は桜に明け暮れたようです。 私も今週末は花見に繰り出したいものです。芭蕉全句集 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)雲英 末雄,佐藤 勝明角川学芸出版 ↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
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明治大帝の御製

世と共に かたりつたへよ 国のため いのちをすてし 人のいさをは 明治天皇の御製です。 国家国民のために命がけで尽くした人の名誉は後の世まで語り伝えたい、というほどの意かと思います。 今、まさに原発事故や遺体の収容、がれきの除去など、危険な任務に就いている人々こそ、語り伝えなければならないのでしょう。 逃げることばかり考えている私からみれば、頭がさがります。世の中の 人のつかさとなる人の 身の行ひよ ただしからなむ これも明治大帝の御製です。 人の上に立つ人は身の行いをただしくしなければならない、といった意味かと思います。 現在の危機にあって、民主党政権や東京電力幹部には、耳が痛いんじゃないでしょうか。やすくして なし得がたきは 世の中の ひとの人たる おこなひにして またもや明治陛下の御製です。 簡単なようで人間らしい行いをすることはむずかしい、と嘆いています。 しかし今回の震災で被災者が示した態度は、ひとの人たるおこなひと呼んでよいのではないでしょうか。明治天皇は和歌や読書が大好きだったとか。しかし公務が忙しく、なかなか古今の書物をひもとくことができなかったようです。 最後にそんな...
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