文学

スポンサーリンク
文学

追わないで

男というものは一般的に言って追う性で、追われることが嫌いな傾向があるようです。 少なくとも私はそうです。 追われてる、とかしつこい、とか感じたら、100年の恋も覚めるというものです。  もっとも近頃草食性と称されている男性陣は、積極的な女性を待っているらしいですが。  高橋幸宏の曲に、 愛されすぎると、逃げたくて、 というフレーズがあり、わが意を得たりと思いました。 永井荷風の「墨東綺譚」では、主人公の小説家が、玉ノ井の私娼と馴染みになって、私娼からおかみさんにしてくれ、と頼まれると、もう通うのを止めてしまうというストーリーになっていました。 永井荷風は独身を貫きましたが、きっと女性関係は色々あったのだろうな、と思わせる私小説風の作品です。 小説ではあまりしつこく描かれていませんが、津川雅彦が主人公を演じた映画「墨東綺譚」では、彼を思い、何年もきっと迎えにきてくれるはずだ、と私娼窟でその人を待ち続ける女の執念を、墨田ユキというAV出身の女優が演じていて哀れと恐怖を誘いました。 津川雅彦と墨田ユキの濃厚な濡れ場もあって、文芸作品のような、ポルノのような映画に仕上がっています。 私はさして...
文学

ガレージ

私が車を駐車しているのは、マンションのすぐ横に建つ立体駐車場です。 夏、暑くならず、雨が降っても汚れないのは良いですが、車を出すとき2分ほど待たなければなりません。 また、私の前に出そうとしている人がいれば、当然その分待ち時間は長くなり、軽くストレスです。 私はマンションを購入する際、一戸建ての購入は全く検討しませんでした。 防犯上も危ないし、庭なんかあっても手入れする気はないし、メンテナンスも面倒だと思ったからです。 ただ一つ、一戸建てで良いなと思ったのは、ガレージを設置できることです。 できればアメリカ映画に出てくるような、三台も四台も駐車できるような、大きなガレージが欲しいと思いました。 車は一台だけで、自転車やら、発電機やら、芝刈り機やら、チェーンソーやら、雑多なメカニック的なものが置いてあり、少し油のにおいがする町工場のような空間。 私は書斎より、そんなガレージで、読書したり、物思いにふけったりしたいと思ったのです。 じつはそれには、理由があります。 中学生の頃読んだ日野啓三の「天窓のあるガレージ」に影響されたのです。 車がないガレージを自分の空間と定めた少年。 天窓から降り...
文学

甦れ、ハルキ社長

私はかつて、角川春樹社長に畏敬の念を持っていました。 硬い出版社だった角川書店を、映画とエンターテイメント小説で巨大商業書店へと転換させ、俳人としても飛ぶ鳥落とす勢い。 横溝正史のシリーズ物や、薬師丸裕子・原田知世・渡辺典子ら、いわゆる角川三姉妹を大々的に売り出したり。 そうかと思うとヒトラーの信奉者を公言し、世界最強の人間を自称し、さらにはおのれを芭蕉を越えた俳人と呼んで恥じない図々しさ。 そういう芸術家っぽいぶっ飛んだ所と、映画や本でヒットを飛ばす商人としての能力が共存している点がおもしろいと思うのです。 向日葵や 信長の首 切り落とす  「信長の首」より 黒き蝶 ゴッホの耳を 殺ぎにくる  「カエサルの地」より 流されて たましひ鳥と なり帰る  「流され王」より いずれもかつて私が熱狂した角川春樹社長の句です。 男らしい言い切り系の、力強くも幻想的な句風を特徴とします。  しかし1993年に麻薬取締法違反で逮捕され、数年間の実刑をくらってから、社長にはかつての、おのれ一人を恃むような、力強さが失せてしまったように思います。 出所後も、「男たちの大和」を大ヒットさせたり、新たにハ...
文学

みじか夜

今日から6月。 すっかり日が長くなり、帰宅時でも明るくて、なんとなく良い気分です。 サマータイム制を導入しようという声が上がるのも、さもありなむと言ったところです。 しかしサマータイム、ある日突然時計を一時間早くするわけですから、体がそれについていかず、体調を崩す人が多いと聞きます。 今までどおりゆるーくやっていけば良いでしょう。 日が長いということは、当然ですが夜が短くなるということ。 短い夜というのは、なかなか風情のあるものです。 夜為事(よしごと)の あとの机に置きて酌ぐ ウヰスキイの杯(こぷ)に 蚊を入るるなかれ 大酒飲みだった若山牧水の歌です。 夜の仕事の後といっても、外はうっすら明るいんでしょうね。 日本酒のイメージが強い牧水ですが、洋酒も嗜んだようです。 何となくユーモアを感じる歌ですね。 みじか夜の いつしか更けて 此処ひとつ あけたる窓に 風の寄るなり これも牧水の歌です。 私は前の歌に続いて読もうと思います。 ウィスキーをしたたか飲んで横になり、深夜に目を覚ますと開けた窓から入ってくる風が心地良い、といったところでしょうか。 ウィスキーで火照った肌には涼風がよけいに...
文学

梅雨

関東地方は今日梅雨入りだそうですね。 例年に比べてずいぶん早い梅雨入りです。 梅雨というのは多分、季節の豊かなわが国において、最も嫌われている時季でしょうね。 じめじめしているし、外出も億劫だし、春の花や夏のホトトギス、秋の月だのといった、その季節を象徴する名物が冴えないんですよねぇ。 紫陽花と雨ですからねぇ。 近代以降はともかく、古典の部類に入る和歌に、紫陽花や梅雨を読んだ歌が極端に少ないというのも、日本人の梅雨嫌いの表れでしょうか。 もっとも梅雨嫌いは日本人に限ったことではなく、ロシア人の奥さんをもらった友人がいるのですが、その奥さん、梅雨を、絶望的な季節と呼んで帰国し、10月まで戻らないそうです。 数少ない梅雨の歌の中から、比較的有名なものを。 「千五百番歌合」から。 夏もなほ 心はつきぬ あぢさゐの よひらの露に 月もすみけり   藤原俊成  夏であっても心が尽き果てるようなあはれを感じさせるものだ、あじさいの花についた露に澄んだ月の光が宿っているのを見ていたら、といったほどの意でしょうか。 あぢさゐの 下葉にすだく 蛍をば 四ひらの数の 添ふかとぞ見る  藤原定家  日が暮れ...
スポンサーリンク