文学

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桃の節句

今日は雛祭りですね。 私には三つ下の妹がいたため、毎年この時期は7段飾りの豪華なお雛様を飾りました。 あれ、飾るのも仕舞うのも大変なんですよねぇ。 人形一つ一つが箱に入ってしますし、7段の段を組むのも疲れるし。 それでも飾り終えると、ずいぶん華やかな気分になります。 雛まつる 都はづれや 桃の月  与謝蕪村 雛祭りを詠んだ句としては、完成度№1なんじゃないかと思います。 都はづれでも、華やかな感じが出ています。 すこし艶っぽいのを。 消えかかる 燈(ひ)もなまめかし 夜の雛  大島蓼太 元々女の子のお祭りですから、艶っぽい句がたくさんあってもいいんですけどねぇ。 この句しか思い浮かびません。 哀れを誘うのを。 石女(うまづめ)の 雛かしづくぞ 哀れなる   服部嵐雪 子がいない女性の雛祭りを詠んで、哀調を帯びていますね。  いずれも江戸時代に活躍した俳人の句です。 並べてみると、同じ雛祭りを詠んだ句でも、様々な趣があることに気付かされます。 じつは我が家にも、お雛様がいます。 不二家のおまけでもらった、ぺこちゃんとぽこちゃんのお雛様です。 我が家は毎年、ぺこちゃんとぽこちゃんでお雛様を...
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殉教

先日、阿川弘之がエッセイやインタヴューなども含め、すべての作家活動から引退する旨が報じられました。 太平洋戦争中に青年将校として青春時代を送った彼は、多くの戦争を題材とした小説を執筆しましたね。 齢90、第三の新人と言われた同世代の作家たちも多くは逝き、潮時といったところでしょう。 今では娘の阿川佐和子のほうが一般に知られているかも知れません。 娘といってももう50代後半ですが。 独身の娘のことが唯一心配だ、と言っていましたが、結婚していたって、子どもに恵まれず、相手に先立たれれば生涯独身を貫いた者と同じこと。 一人に慣れていないためかえって喪失感に責められるかもしれません。 第三の新人のなかでは、私は安岡章太郎の小説を最も愛読してきました。 怠け者な感じが良いのです。 しかし、その世代の最高傑作は何かと問われれば、遠藤周作の「沈黙」を挙げるでしょう。 日本に宣教に行ったポルトガル人司祭が棄教したとの報告を受けて、ことの真偽を確かめに来た弟子の司祭の顛末を描いた小説で、キリスト教を題材にしたわが国の文学のなかでは、他の追随を許さない名作です。 拷問に耐えかねて棄教した日本人信者が、自分...
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春の雪

先般、南関東の平野部にもうっすらと雪が積もりました。 雪国と違って、南関東の雪は春の前触れでもあります。 幸い私は通勤の足に不便はありませんでした。 春たてば 花とやみらむ 白雪の かゝれる枝に うぐひすのなく 「古今和歌集」にみられる素性法師の歌です。  春めいてきて、白雪がかかる枝を、花が咲いていると思い込んで鶯が鳴いているというのでしょう。 早春らしい、まだ冷たい空気に、太陽の光が暖かく降り注ぐさまが思い浮かびます。 もう梅が咲き始めているとか。 これからもの思わしい春の到来ですね。 春は春愁、秋は愁思といいます。 春や秋のような、人にとって最も過ごしやすい季節にもの思いに沈んだり、悲しいような焦るような気持ちになるとは不思議なことです。 私は秋はそうでもありませんが、春はなんとなく気鬱に襲われます。 長いこと会計事務をやってきて、春は殺人的な忙しさで、桜を見ると条件反射のように気分が沈みます。 それでも最近数年は、会計事務から離れて、人並みに花見を楽しむ余裕ができました。 今は体調もよく、精神病薬を服薬していることを除けば、まるっきり普通に過ごしています。 人生山あり谷あり。 ...
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村上春樹のふるさと

かつて近代日本文学者は、ふるさとを詠いました。  室生犀星の、 ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたうもの(後略) しかり。 石川啄木の、 ふるさとの訛なつかし 停車場の人ごみの中に そを聴きにゆくしかり。 田舎から東京に出てきた文学者というものは、良くも悪くもふるさとへの思い入れがたっぷりです。 しかし、マス・メディアの発達によるものか、現代文学者はあまりふるさとを意識しないようです。 その最たる例が村上春樹でしょう。 彼は京都で生まれ西宮で育ち神戸で高校時代をおくった生粋の関西人です。 しかし彼の作品からはその匂いがしません。 そもそも一連の小説群は日本ですらなく、無国籍なものに感じます。 両親が国語教師で、始終日本文学の話をするのに嫌気がさして西洋文学にのめり込んでいたとは言いますが、言葉というものは本来民族や土地に根差したものでしかありえず、バタ臭いのを売りにするのは嫌味ですらあります。 村上春樹のふるさとは、どことも知れぬ無機質な人工世界なのではないでしょうか。 村上春樹という人にまつわる存在の希薄さは、以前このブログでも書きました。 それが海外から高い評価を受け...
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今年は異常な大雪だそうですね。 南関東に住まいしていると、全然実感がわきません。 ほとんど毎日乾燥した晴れですから。 テレビで雪国の様子を見ると、背より高く積った雪を毎日毎日雪かきしています。 さぞかし骨の折れることでしょう。 私は東京東部で生まれ育ちましたので、雪は一年に一度か二度ふる程度で、積雪も10センチを超えることはまずなく、一種のお祭りのような心地がしました。 町が白く化粧した姿というのは、幻想的で美しいものです。 でも翌日には、もう雪は人や車の往来で醜く黒ずんでしまいます。 その儚さが、南関東の人間にはまるで桜のように愛おしく感じるのです。 この国に 雪も降らねばわがこころ 乾きにかわき 春に入るなり  若山牧水 若山牧水は宮崎県の生まれだったと記憶していますから、やはり雪は珍しく、心浮き立つものであったようです。 一方、雪には雪女とか雪男とか、怖ろしい伝承がありますね。 雪が障子をなでる音が、雪女が手で障子を叩いているようにかんじたのでは、と某民俗学者が言っていました。 雪男はなんだか怪物じみていて、物理的な恐怖しか感じませんが、雪女には、ぞっとするような心理的な恐怖があ...
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