文学

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おはなし

私は幼いころから、おはなしに接することを、大きな喜びとしてきました。 絵本を読み聞かせてもらうことに始まり、テレビの子ども向けアニメ、さらには漫画や児童文学、長じて文学や映画・舞台芸術など。 あらゆる形態の物語に接して思うのは、物語は素朴さを失ってしまったのかな、ということです。 神話や恋物語、怪談などは、浮世離れした、いわば面白いだけ、美しいだけのものでした。 それが生きる苦悩や現実社会の矛盾をテーマにする物語が主流となり、むしろそういう物のほうが上等であるかのような風潮になりました。 私は作り物めいたホラ話が好きなので、浮世離れしたお話しが復権すればいいのにな、と思います。 古く、平安中期の「蜻蛉日記」に、次の一文が見えます。 世の中におほかるものがたりのはしなどをみれば、世におほかるそらごとだにあり(後略) 世の中で流行している物語を読むと、事実とは思えない絵空事ばかりだ、と嘆いています。 ここから、著者は現実の結婚生活の困難、例えば夫の浮気やそれに伴う嫉妬、それに肉親との死別の悲しみなど、日記という形をとったリアリズムの私小説と読むことが可能かと思います。 この日記文学が成立し...
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貴女流離

いつの時代も、人はユートピアがどこかに在ると信じ、その地を求めてきましたね。 明治の近代化以降、多くの日本人が一旗挙げようと、アメリカやブラジルに渡りました。 満州に渡ったひともいたでしょう。 しかしそれらは、言わば経済上のやむにやまれぬ理由から。 松尾芭蕉や種田山頭火が日本国中を旅したり、西行法師が京から離れないながら、風雅の世界に魂が遊離していたのとは自ずと違いましょう。 江戸時代、上州で日野大納言資枝卿の息女、衛門姫が捉われました。 6年前に歌枕を訪ねると言って京都の屋敷から家出したことが判明したそうです。 当時、公家の姫が6年も放浪すれば、どういう目にあったかは、おおよそ見当がつきます。 歌を何首か詠んでいますが、意味不明です。 おそらく錯乱状態になっていたのでしょう。 この後どこかの寺に入って尼になったとも、上州の宿場町で飯盛り女になったとも。 京都で静かに暮らしていた姫が、歌枕を訪ねて放浪の旅に出るとは驚きです。  人には、ここではないどこか、もっと自分がしっくりくる居心地の良い場所があるのではないか、という夢想を楽しむ悪癖があるように思います。 それが叶えられないから、人...
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冬ごもり

昨日今日と、急に寒くなりましたね。 まだ10月だというのに、厚手のコートを着て出勤しました。 最高気温は10度前後。 猛暑の影響で残暑が長引いた関東の者には、辛い木枯らしです。 一方、冬はお家にこもる楽しみがありますね。 熱い湯に入って、暖房を効かせた部屋で熱燗でもやれば、身も心もぽっかぱか。 外が吹雪だと、冬ごもりの快感はますます高まります。 この世に一つだけの快適空間という感じがして、うれしくなります。 冬ごもりの句が多いのは与謝蕪村ですね。 私はこの俳人を偏愛しています。 それには冬の句に見るべきものが多いということが大きく寄与しています。  屋根ひくき 宿うれしさよ 冬ごもり    冬ごもり 母屋へ十歩の 縁づたい    冬ごもり 妻にも子にも かくれん坊     冬ごもり 仏にうとき こころかな    居眠りて 我にかくれん 冬ごもり    埋火や ついには煮る 鍋の物   埋火や ありとは見えて 母の側    埋火や 春に減りゆく 夜やいくつ  うずみ火や 我かくれ家も 雪の中 冬ごもりの快感を詠んだ句が、こんなにあります。 なかでも、うずみ火や我かくれ家も雪の中は、出色の...
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古今和歌集

神戸の甲南大学で、「古今和歌集」の完全な写本がみつかったと発表されました。 鎌倉時代初期の写本と見られ、現存する最古のものだそうです。 1982年に都内の古書店で甲南大学が購入したもので、2008年9月に図書館内の貴重書庫に在るのがみつかったとか。 ずいぶんうかつな話ですね。28年も前に購入しておきながら、それがあることすら分からなかったとは。 しかも428万円も払って。 まあ、それは良いとして。 これから研究者が甲南大学詣でをして、色々と研究するんでしょうねぇ。 甲南大学では重要文化財への申請も検討しているとか。 重要文化財なんかに指定されちゃうと、扱いが面倒ですよ。 古今和歌集 (岩波文庫)佐伯 梅友岩波書店新版 古今和歌集 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)高田 祐彦角川学芸出版↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
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ワイセツな俳人

「どうもワイセツだからもう一度生やしてください」 男が見てワイセツなら、女が見たら― と私は慄然として、また口髭を培養した。 俳句界きってのダンディな紳士または好色漢、西東三鬼の自伝的作品「神戸」に見られる記述です。 口髭を剃ったら顔がワイセツだと言うんですから、どれだけ好色な人だったのでしょうね。 恋人が35人いたとか、よく知らない看護師に子どもがほしいから種だけくれと頼まれて実際に父になったとか、にわかには信じがたいエピソードが残っています。 かくし子の 父や蚊の声 来たり去る 前述のエピソードを知った上で想像すると、怖いですねぇ。 恋猫と 語る女は 憎むべし 憎むべしだなんて、お上手。猫好きな女とも関係していたようです。 中年や 遠くにもれる 夜の桃 なんとも香り高い、エロティックな句ですねぇ。いい年をしても、女色は止められなかったようです。 趣をがらりと変えて、 水枕 ガバリと寒い 海がある 西東三鬼自ら、この句を得たことで俳句の眼を開いた、と言った句です。 高熱の中、うなされながらひらめいた句というだけあって、どこか不気味な、異界へ通じるような海の迫力が感じられます。 海に関...
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