文学 おはなし
私は幼いころから、おはなしに接することを、大きな喜びとしてきました。 絵本を読み聞かせてもらうことに始まり、テレビの子ども向けアニメ、さらには漫画や児童文学、長じて文学や映画・舞台芸術など。 あらゆる形態の物語に接して思うのは、物語は素朴さを失ってしまったのかな、ということです。 神話や恋物語、怪談などは、浮世離れした、いわば面白いだけ、美しいだけのものでした。 それが生きる苦悩や現実社会の矛盾をテーマにする物語が主流となり、むしろそういう物のほうが上等であるかのような風潮になりました。 私は作り物めいたホラ話が好きなので、浮世離れしたお話しが復権すればいいのにな、と思います。 古く、平安中期の「蜻蛉日記」に、次の一文が見えます。 世の中におほかるものがたりのはしなどをみれば、世におほかるそらごとだにあり(後略) 世の中で流行している物語を読むと、事実とは思えない絵空事ばかりだ、と嘆いています。 ここから、著者は現実の結婚生活の困難、例えば夫の浮気やそれに伴う嫉妬、それに肉親との死別の悲しみなど、日記という形をとったリアリズムの私小説と読むことが可能かと思います。 この日記文学が成立し...