文学

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自助

最近、平日の晩酌をしなくなったことは前に書きました。おかげで夜が有意義に過ごせていることも。 私の場合、べつだん医者に禁じられたとか、血液検査の数値が悪化したとか、そういう健康上の理由ではなく、あくまで私の気分が乗らない、というだけの話です。ですから興が乗れば、いつでも飲むでしょう。 酒好きな文学者や芸術家は枚挙にいとまがありませんが、毎日一升の酒を飲み、43歳で死んだ若山牧水ほど、無類の酒好きを知りません。 医者に酒を禁じられて、それでも飲み続けたわけですが、禁酒を試みたことはあるらしく、ずいぶんうらみがましい、酒恋しい歌を詠んでいます。 人の世に たのしみ多し然れども 酒なしにして なにのたのしみ 酒やめむ それはともあれ ながき日の ゆふぐれごろにならば何とせむ 朝酒は やめむ昼酒せんもなし ゆふがたばかり少し飲ましめ 私も酒は嫌いではありませんが、上記三首はなんだか和歌というより愚痴にちかいですね。 若山牧水には抒情的な歌が数多くありますが、このような煩悩丸出しの歌もあります。 ファンの一人として、少し残念。 世のアルコール依存症患者の自助グループに、断酒会とAA(Alcoho...
文学

世にルポルタージュというジャンルがありますね。 ふんだんに金を持っているくせにわざと襤褸を着て数日間ホームレス生活を送り、その経験を文章にして金儲けをしたりする、あれです。  明治時代にも似たようなことを試みた人がいて、「東京闇黒記」という本を出版しています。今は絶版になっているようですが、目にする機会に恵まれました。 そこで驚いたのは、乞食とホームレスの違いです。  現在のホームレスは、アルミ缶や雑誌を拾って売ったり、地見屋と称して落ちている金を拾ったりして、まがりなりにも、自力で稼いでいますね。ところが明治時代には、今日は浅草、明日は両国橋と、人の多いところに出かけて行って、身体障害者のふりをして、「右や左の旦那様~」とかいうことを実際にやっていたそうです。  しかも結構稼ぎがよくて、2~3時間もそれをやれば、木賃宿に泊まれて、酒も肴も手に入ったというから驚きです。「乞食は三日やったらやめられない」とのたまっておりました。  そして面白いことに、金持ちよりも、ちょっと貧乏なくらいの人が、よく施しをしてくれるというのです。貧乏の悲惨さがよくわかるのでしょうかね。  そういえばインドに...
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蒸し暑い

今朝は蒸し暑いですね。 これからの梅雨の季節、ある在日ロシア人は「絶望的な季節」と呼んでいました。ロシアのような北国からみれば、なおさらそうでしょうね。 梅雨は、暑さのみならず湿気に苦しめられる季節でもあります。 私は、梅雨どきというものに、湿気の色気のようなものを感じます。 汗や髪など、体の匂いが鼻につき、ときにそれは魅惑的でさえあるのです。 身近かなる 男の匂ひ 雨季きたる 多く肉体を感じさせる句を残した桂信子の句です。 どこか汗ばんだ不快のなかに、色気を感じます。 元来日本は夏が過酷で、そのために日本家屋は夏をしのぎやすいようにできています。京都の町家しかり、古い農家しかり。 現代ではエアコンが普及しており、内勤であれば夏でもほとんど快適に過ごせます。蛇口をひねればお湯がでるので、いつでも汗を流せます。しかしほんの数十年前の日本では、夏は暑いものと決まっており、昼は炎天下で労働し、夜は寝苦しかったことでしょう。風呂も毎日は入れなかったのではないでしょうか。 だからこそ、様々な工夫をして、夏を楽しもうとしたのでしょうね。 今さらエアコンのない生活など想像もできませんが、ときにはエア...
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まぼろし

幻想文学というくくりがあって、これはずいぶん大雑把な分類で、SFやミステリーから、ホラーやらファンタジーやら、様々な分野の作品を包含しています。そのものズバリのタイトルを冠した雑誌もあって、幻想文学はわが世の春を謳歌しているかの如くです。 その起源は神話に求めるのが一般的ですが、今ではサド侯爵もマゾっホもその仲間に入れられて、「指輪物語」などと一緒くたにされて、惨状目をおおうばかりでもあります。 あまたある幻想文学の中でも、「家畜人ヤプー」は最高峰に位置するものでしょう。沼正三という作者は決して表に出ることはなく、この天下の奇書をものしたのはどういう人物なのか、今だに謎です。一説には渋澤龍彦ではないか、という噂も流れましたが、不明です。 その渋澤龍彦や三島由紀夫が絶賛し、ベストセラーにもなったこの小説は、じつに奇怪でグロテスクな内容です。 遠い未来、日本人は白人の家畜となっていて、高度なバイオテクノロジーにより、用途別に改造されているのです。 たとえば便器。便座型に改良された哀れなヤプー(日本人の未来)は、「セッチン」と白人に命じられると、口をあけて大小便を飲み込むのです。 その他掃除...
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読了

「1Q84」BOOK3をやっと読み終わりました。 BOOK1・BOOK2と比較して、どことなく冗長な感じがしました。謎の美少女、ふかえりの登場シーンが極端に減り、その代わりぶさいくな中年探偵、牛河が頻繁に登場します。おそらくこの小説では魅力のない人物として描こうとしていると思いますが、私には興味深い人物に思えました。学歴の高さからくる優越感と、外貌からくる劣等感に揺れ動くおじさんです。 私自身、就職して19年、すっかりくたびれたおじさんになってしまったので、何となくシンパシーを感じるのです。 この小説は、後世、村上春樹の失敗作として名を残すことになると思います。 しかし失敗作であればこそ、その作家の持ち味が存分に現れる、ということもあります。例えば、三島由紀夫の「鏡子の家」のように。 そしておそらく、作者はBOOK4を用意していると思います。伏線はまだ未解決で、話の続きはいかようにもつけられましょう。この際、失敗をの穴埋めのために戦線を拡大する愚かな司令官のように、どこまでも続ければよいでしょう。私はどこまでも付き合います。 私は意外と魅力的な失敗作が好きなのです。1Q84 1-3巻セ...
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