文学

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秋の不気味

おのが身の 闇より吼えて 夜半の秋 今日は雨風強く、家で蕪村全集などめくっていました。 冒頭は、秋の句です。犬に吼えられる情景を詠んだものですが、己自身の闇を感じさせて、どこか不気味な感じもあり、秀逸だと思います。 秋は急激に陽が短くなり、夜の世界がこの世を支配するような、不気味な感じがありますね。冬になってしまうと、逆に寒くて外に出られず、冬ごもりの暖かさが感じられます。 しかし秋は、生命力が奪われていくかのごとくです。 蕪村には秋の句は少ないですが、これは秀句だと思います。 私は少年の頃、晩秋の宵闇を散歩するのが好きでした。街へ出れば明るく、公園などに行くと心細いほど暗いのです。思えばそんな風にして、己の闇を見つめていたのでしょうか。 中年となった今でも、闇の正体は不明ですが。
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乙女の港

先週、弥生美術館で「少女の友」展を観たことはブログに書きました。 歴代「少女の友」に連載された小説でも、最も人気が高かったという、川端康成の「乙女の港」を読みました。川端作品は多くが文庫化されていますが、戦前に多く発表された少女小説は絶版が多く、やむなく、図書館で全集を借りるほかありませんでした。 戦前の女学生の間で流行したS(sisterの略)と呼ばれる女学生同士のプラトニックラブを描いたものです。 その言葉遣いなど、現代から見ると違和感がありますが、お話としてはなかなか興味深いものです。 当時はすべて別学でしたし、良家の子女が恋愛沙汰など許されなかったでしょうから、その代替として流行したものと思われます。男子校でも、似たようなものだったでしょう。古来わが国では、同性愛は普通のことでしたからね。 昭和12年の発表ですから、今から思えば、わずか四年後には、米英蘭との戦が始まり、少女たちも時代のうねりのなかに放り込まれ、牧歌的な生活はできなくなるのだと思うと、切なくなります。 川端康成は女性を描くのが得意で、よほどの女好きだったと思われます。「眠れる美女」などは、きりきりするような、究極...
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木枯らし

木枯らしが吹きましたね。いよいよ冬が近づいています。 ボードレールは、「人工楽園」で「カナダのような冬、ロシアのような冬であればあるほどよい。それだけ彼の住む巣は暖かく、甘美に、いとしいものとなろう」と、寒い冬を賛美しています。 極寒のなか、暖かい部屋でくつろぐのは至福のひと時ですね。 本朝では、蕪村が、「屋根ひくき宿うれしさよ冬ごもり」と詠んでいます。 見事なまでの、ボードレールとのシンクロですね。 さらに、三好達治は、 「太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。」 と、歌っています。 18世紀の俳人、19世紀ヨーロッパの詩人、近代の日本詩人と、冬ごもりを幻想的なもの、暖かいものとして憧憬するその精神は、脈々と続いています。 冬ごもりの幻想的風景は、家にこもることを介して、己れの内面に深く沈滞するかのごとくです。 冬は酒が旨くなる、というのも、この冬ごもりの暖かさに由来すると言えましょう。 人工楽園 (角川文庫クラシックス)与謝蕪村の本三好達治
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少女の友

昨日は弥生美術館に「少女の友」展を観に行きました。 「少女の友」は、明治41年から昭和30年まで、実業乃日本社から刊行されていた少女向けの雑誌です。 美しい表紙、川端康成や吉屋信子などの充実した執筆陣による、少女の心のひだや女学生生活を描いた小説、さらには投稿欄や付録の充実など、今見ても豪華な内容です。 今でも、年配の方のみならず、多くの若いファンを惹きつけています。 ただ、戦時中、軍の広報雑誌のようになってしまったのは、展示を見ていても痛々しい感じがしました。 時代が暗ければ暗いほど、少女は幻想の美に酔いたいものなのに。 美術館には、和服の女性や女子高生など、多くの女性が訪れていました。 中年男の私は、場違いに苦しみながら、美しいイラストや時代背景の解説に酔いました。『少女の友』創刊100周年記念号 明治・大正・昭和ベストセレクション実業之日本社,遠藤 寛子,遠藤 寛子,内田 静枝実業之日本社
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霧の中

激しい雨が降っていますね。こんな秋の日には、怖ろしい事件が起きそうな予感がします。 もう三十年も前になりますか、パリで日本人留学生がオランダ人の女子大生を殺害のうえ肉を食らう、という「羊たちの沈黙」のような事件がありました。犯人の佐川一政はフランスの裁判で心神喪失が認められ、無罪となって日本に帰ってきました。 そして書き上げたのが、「霧の中」です。事件のことを、グロテスクなまでに、細々と描写しています。 なぜこんな文章が書ける人が心神喪失なんだ、と中学生ながら不思議に思った記憶があります。そのうえ、カニバリズムの大家を自称して、様々な評論活動を行っています。判決は確定していますから、無罪である以上、法律的に何の問題もないのですが、遺族の感情を考えると、いやな気持ちになります。 いやな気持ちになりたいときには、お勧めの一冊です。霧の中佐川 一政彩流社
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