文学

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春風

春風吹きさぶ。 そが音聞きつつ、我深酒す。 酒、我をして物思い、いたらざずべからず 我、中年より初老に至り、酒、我が魂(たま)、若き日々に誘わざるなし。 酒、誘うまま、若き日に至れば、そは真、愚かなる精神なり。 愚かなること知りたるまま、我が愚か懐かしむとは、如何に?  愚かほど、そは若さなり。 我、若さ失うとて幾年。 幾年、長き故思う。 若さ、美し。 されど、皺また美し。 おのが皺、鏡に感得、我、美くしと思わざる能わず。 我、後、春、覚ゆる幾度? 幾たり春訪れようと、我、若かりし愚、懐かしむこと限りなし。
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機巧のイブ

昨夜はSF時代伝奇ロマンとも言うべき小説、「機巧のイブ」を読みました。機巧のイヴ (新潮文庫)乾 緑郎新潮社 江戸幕府をモデルにしたと思しき天府。 そこに仕える天才機巧師によって生み出された、人間そっくりの美しいロボット、伊武。 天皇家を思わせる、しかし女系しか皇位を継げない天帝家。 二つの巨大な権力が、女系でしか皇位を継げないがゆえに、女児ができない場合を想定して天帝の身代わりとして生み出されたロボットをめぐって、暗闘を繰り広げます。 そして天才機巧師の弟子が、美しい女性にしか見えない伊武に恋心を抱きながら、魂とは、心とは何なのか、深い思索を巡らせます。 人間にしてからが、愛する両親や、友人、恋人、配偶者との関係性の中で、性格が形作られ、心や魂らしきものを手にします。 それならば、ロボットもまた、愛し愛されることによって、心や魂を得ることが出来たとて、何の不思議もありません。 あるいは逆に、人との接触を持たなかったロボットが、単に命令どおりにしか動けなくても。 そしてまた、その命令がどんなに残虐なものであろうとも。 奇想天外な物語が、エンターテイメント性豊かに語られる、なかなかの逸品...
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祝山

昨夜はホラー小説を読みました。 加門七海という作家の「祝山」です。祝山 (光文社文庫)加門 七海光文社 スランプに悩む女流ホラー作家が主人公で、作者自身がモデルかと思われます。 低い山の奥にある元材木工場の跡地に、知り合い4人と夜中に肝試しに繰り出し、廃工場から材木のかけらをいくつか持ち出し、その後様々な怪現象に襲われます。 調べていくうち、その山がかつて祝山と呼ばれており、その語源が位牌山であったことを知り、霊山もしくは呪われた山であり、山の草木一本持ち出したら呪われる、と考えて怪現象を止めるため、持ち出した材木を山に返しに再び山を訪れる、というお話。 ホラーとしてはありがちな展開で、そこそこ怖いのですが、なんというか、文章が稚拙で陳腐です。 そしてやたらとしょっちゅう腹を立てる主人公に苛立ちを覚えます。 まぁ、子供向け、でしょうか。にほんブログ村 本・書籍ランキング
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無貌の神

恒川光太郎の短編集、「無貌の神」を読みました。無貌の神恒川 光太郎KADOKAWA 今年の1月に刊行された最新作。 12冊連続で恒川作品を読み続け、ついに、後は新刊を待つばかりとなってしまいました。 寂しいかぎりです。 「スタープレイヤー」、「ヘヴンメイカー」と、壮大なファンタジーが続いた後、今作は先祖がえりしたというか、この作者の真骨頂とも言うべき、不思議な、美的で幻想的な短編が6編収められており、それらはみな、それぞれに愛おしい小編です。スタープレイヤー (角川文庫)恒川 光太郎KADOKAWA ヘブンメイカー スタープレイヤー (角川文庫)恒川 光太郎KADOKAWA / 角川書店 「無貌の神」は、人の体を癒す力を持った神が、しかし時折人を喰らう怖ろしい側面を持っています。 生まれ変わり死に変わりする人の世を描いて、息苦しいほどの緊張感を持っています。 「青天狗の乱」は、明治初期の東京及び伊豆諸島を舞台にした、魔が活躍する物語。 明治初期という混乱期ならではの、猥雑な空気が魅力的です。 その他、「死神と旅する女」・「十二月の悪魔」・「廃墟団地の風人」・「カイムルとラートリー」の4...
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逆戻り

昨日は啓蟄だったのですねぇ。 それなのに今日は冬に逆戻り。 啓蟄の 風さむけれど 石は照り  加藤楸邨の句です。加藤楸邨句集 (岩波文庫)森 澄雄,矢島 房利岩波書店 なるほど、今日も寒いながら、午前中の日差しは力強いものでした。 この時期の寒さというのはそうしたもので、寒さの中にも春の力強さが潜んでいるのですねぇ。   私は寒い早春の日を、憂鬱に沈みながら過ごしています。 春愁の気にあてられたこともあるでしょうし、年度末のざわざわした雰囲気に呑まれていることもあるでしょう。 処方された倍の量の抗不安薬を飲んで、なんとかやり過ごしています。 今年で今の部署も丸3年。 3月下旬になれば分かることですが、私はおそらく異動なんでしょうね。 今まで同じ部署に4年いたことは1度もありませんから。 3年か、早いと2年で異動するのが役人の世界の常識です。 どの部署に行っても必ず嫌なことはありますが、それでも相対的に楽な部署としんどい部署というのは明らかにあります。  極楽のような部署は存在しませんが、相対的に楽な部署で心に余裕をもって勤務したいものです。 にほんブログ村 人文ランキング
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