文学

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「夜市」と「風の古道」

昨日は「夜市」という小説を読みました。 ホラー小説大賞受賞作、「夜市」と、受賞第一作の「風の古道」の2作が掲載されています。夜市 (角川ホラー文庫)恒川 光太郎角川グループパブリッシング 2作品とも、ホラーっぽくありません。 ふとしたことから異界へと足を踏み入れる話ですが、非常に平明な文章で、切なくも美しい、不思議なストーリーが展開されます。 起承転結がはっきりしていて、すんなりと物語の世界に入り込めました。 これはホラーというより、泉鏡花など、幻想文学の系譜に連なる文学作品と言ったほうが良いでしょう。 私としては、「風の古道」のほうが気に入っています。 恒川光太郎という作家、初めて読みましたが、もっと読んでみたくなりました。 特殊な物語を紡ぐ才能にあふれていると見えました。にほんブログ村本・書籍ランキング
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不道徳ゆえに価値が上がる?

かつてナチは、多くの近代美術作品を押収し、ドイツ全土を巡回して退廃芸術展を開催しました。 これは、表現主義、抽象絵画、新即物主義、ダダイズム、シュルレアリスムなど、20世紀美術の主要な動向にかかわる作品群を、退廃芸術として弾圧し、晒し者にすることを目的としたものです。 この展覧会は多くの観客を集め、現代にいたるも、これ以上の観客数を誇った展覧会は、ドイツでは開催されていません。 しかしおそらく、多くの観客は、退廃だ、唾棄すべきものだと口にしながら、じつはその美に酔っていたのではないかと推測します。 何もナチが政権を取ったからと言って、ドイツ人の多くが近代絵画を嫌ったわけではありますまい。 芸術と倫理をめぐる考え方は、様々なものがあり、ナチのように単純化することは出来ません。 美的判断と倫理的判断とが同じ芸術作品に適用されると、ややこしいことになります。 美的だけど倫理的じゃない、あるいはその逆、なんていうことは、芸術作品には非常に多く見られる現象です。 代表的な考え方に、自律主義と道徳主義と言われる立場があります。 自律主義は、作品に不道徳な面があったとしても、美的価値には一切影響しな...
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風光る

師走も21日を迎えました。 今年最後に残った年休を、26日(火)に取ることにしました。 私の職場の仕事納めは28日。 もう、今年出勤するのは4日だけです。 定時で帰っても、帰る頃にはもう真っ暗。  冬の空気は澄んでいるのか、帰宅の車から見る月は、ひときわ鮮やかに感じます。  風光る 師走の空の 月夜かな  正岡子規の句です。子規句集 (岩波文庫)高浜 虚子岩波書店 関東の冬は北風が厳しいですから、風光る、というのも実感として理解できます。 寒い寒いと愚痴をこぼさず、冬にしか味わえない風情を味わいたいと思います。にほんブログ村人気ブログランキング
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教団X

昨夜、中村文則のベストセラー長編、「教団X」を読み終わりました。教団X (集英社文庫)中村 文則集英社 自分の元から突如失踪した彼女を追って、カルト教団と思われる団体にたどり着いた男。 しかしそこはカルト教団と言えるような者ではなく、宗教や量子力学を学ぶゆるやかな団体。 その団体にかつていた男が、名前の無い、性の解放を謳うセックス教団を組織しています。 公安は彼等に目を付け、Xと呼んでいます。 仏教、量子力学、キリスト教、アフリカの土俗宗教などについての考察が延々と語られ、中だるみします。 そして、性、貧困、全体主義、平和への理想、テロなどが、これでもかと詰め込まれ、小説として破綻しているように感じました。 魅力的な題材を扱っているのに、もったいないと思います。 もう少しテーマを絞り込むべきでした。 お勧めできない一冊です。にほんブログ村本・書籍ランキング
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土の中の子供

昨夜は中村文則の「土の中の子供」という小説を読みました。土の中の子供 (新潮文庫)中村 文則新潮社 芥川賞受賞作で、その後は大活躍している作家ですが、読むのは初めてです。 主人公である「私」と暴力をめぐる物語ですが、近代以降の、わが国の、いわゆる「純文学」の悪い伝統を引きずっているように感じました。 「私」が、延々と暗くて絶望的な物語を語る、と言う。 「私」は子供の頃親に捨てられ、遠戚の夫婦に引き取られますが、激しい虐待にあい、そのことが「私」の精神をゆがませています。 山中に埋められる、という生きるか死ぬかの経験まで積んでいます。 その後施設に引き取られ、遠戚の夫婦は逮捕されてしまいます。 陰鬱で悲惨な一人語りが続きます。 正直、共感できません。 しかし、読み進むうち、これは再生と希望を描こうとしているのではないか、と気づかされます。 20代の「私」はタクシードライバーとして生計を立てていますが、暴走族を挑発してボコボコにされるなど、やたらと恐怖体験を求めます。 不思議なことに、そこに、一種の希望が見えてきます。 私が望んでいたのは、克服だったのではないだろうか。自分に根付いていた恐...
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