文学

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幸福な瞬間

今年の3月、亡き父の七回忌を迎えます。 もうあれから丸5年が経とうとしています。 死の床にあって、父は浅草寺病院の病室から、雪が降る五重塔を観ながら、「京都のようだなぁ」と声を挙げたそうです。 末期の目は、ことさらに自然を美しく感じさせるのでしょうか? 芥川龍之介の「或旧友へ送る手記」という、遺書に近い書簡には、 自然の美しいのは僕の末期の目に映るからである、 という一節があります。或旧友へ送る手記芥川 竜之介メーカー情報なし また、芥川龍之介の弟子ともいうべき堀辰雄の「風立ちぬ」の一節に、 自然なんぞが本当に美しいと思へるのは、死んで行かうとする者の眼にだけにだ、 と言うものがあります。風立ちぬ・美しい村 (新潮文庫)堀 辰雄新潮社 芥川龍之介は遺書に自然の美を謳いながら、自殺してしまいます。 一方、堀辰雄は、病弱の体に鞭打って、死を避けるのではなく、それを超克しながら、一段と深い生を模索しました。 同じように末期の目に映る自然の美を称揚しながら、対照的な態度で人生に、あるいは死に向かった師弟の姿勢は印象的です。 また、夏目漱石は、亡くなる2年前に友人に宛てた手紙の中で、 天と地と草...
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秋の牢獄ほか

昨夜は恒川光太郎の短編集を読みました。 3編の小説が所収され、210頁ほど。 1時間半ほどで、一気に読みました。 掲載されているのは、「秋の牢獄」・「神家没落」・「幻は夜に成長する」です。秋の牢獄 (角川ホラー文庫)恒川 光太郎角川書店(角川グループパブリッシング) 前に読んだ「夜市」と「風の古道」の最強タッグが所収された「夜市」の鮮烈さに比べると、やや見劣りしますが、それでも味わい深い佳品揃いでした。夜市 (角川ホラー文庫)恒川 光太郎角川グループパブリッシング 「秋の牢獄」をはじめとする3編は、いずれも囚われる、ということを題材にしています。 「秋の牢獄」は、いわゆるタイムループ物で、SFに分類されるかと思います。 11月7日(水)を何度も繰り返す女子大生の物語。 面白いのは、リプレイヤーと呼ばれる、11月7日(水)を繰り返す人々がいて、彼らは不思議な縁で知り合い、しばし、交友を深めます。 しかし、やがてはそれぞれが一人になって、北風伯爵と名付けた白い物体に囚われ、消えていくのです。 消える先が翌日の11月8日(木)で、タイムループから解放されるのか、存在が消滅してしまうのか、誰に...
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「夜市」と「風の古道」

昨日は「夜市」という小説を読みました。 ホラー小説大賞受賞作、「夜市」と、受賞第一作の「風の古道」の2作が掲載されています。夜市 (角川ホラー文庫)恒川 光太郎角川グループパブリッシング 2作品とも、ホラーっぽくありません。 ふとしたことから異界へと足を踏み入れる話ですが、非常に平明な文章で、切なくも美しい、不思議なストーリーが展開されます。 起承転結がはっきりしていて、すんなりと物語の世界に入り込めました。 これはホラーというより、泉鏡花など、幻想文学の系譜に連なる文学作品と言ったほうが良いでしょう。 私としては、「風の古道」のほうが気に入っています。 恒川光太郎という作家、初めて読みましたが、もっと読んでみたくなりました。 特殊な物語を紡ぐ才能にあふれていると見えました。にほんブログ村本・書籍ランキング
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不道徳ゆえに価値が上がる?

かつてナチは、多くの近代美術作品を押収し、ドイツ全土を巡回して退廃芸術展を開催しました。 これは、表現主義、抽象絵画、新即物主義、ダダイズム、シュルレアリスムなど、20世紀美術の主要な動向にかかわる作品群を、退廃芸術として弾圧し、晒し者にすることを目的としたものです。 この展覧会は多くの観客を集め、現代にいたるも、これ以上の観客数を誇った展覧会は、ドイツでは開催されていません。 しかしおそらく、多くの観客は、退廃だ、唾棄すべきものだと口にしながら、じつはその美に酔っていたのではないかと推測します。 何もナチが政権を取ったからと言って、ドイツ人の多くが近代絵画を嫌ったわけではありますまい。 芸術と倫理をめぐる考え方は、様々なものがあり、ナチのように単純化することは出来ません。 美的判断と倫理的判断とが同じ芸術作品に適用されると、ややこしいことになります。 美的だけど倫理的じゃない、あるいはその逆、なんていうことは、芸術作品には非常に多く見られる現象です。 代表的な考え方に、自律主義と道徳主義と言われる立場があります。 自律主義は、作品に不道徳な面があったとしても、美的価値には一切影響しな...
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風光る

師走も21日を迎えました。 今年最後に残った年休を、26日(火)に取ることにしました。 私の職場の仕事納めは28日。 もう、今年出勤するのは4日だけです。 定時で帰っても、帰る頃にはもう真っ暗。  冬の空気は澄んでいるのか、帰宅の車から見る月は、ひときわ鮮やかに感じます。  風光る 師走の空の 月夜かな  正岡子規の句です。子規句集 (岩波文庫)高浜 虚子岩波書店 関東の冬は北風が厳しいですから、風光る、というのも実感として理解できます。 寒い寒いと愚痴をこぼさず、冬にしか味わえない風情を味わいたいと思います。にほんブログ村人気ブログランキング
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