文学

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姥捨

先週、義父が80歳になりました。 大手電機メーカーで技術屋として65歳まで働き、その後は年金生活をおくっています。 毎日2時間の散歩を欠かさない、元気なおじいちゃんです。 まぁ、今どき、元気な80歳なんて珍しくもないのでしょうけれど。 それにしても、少子高齢化はどこまで進むのでしょうね。 このままではわが国は衰退してしまいます。 しかし、かつて老人を山に捨てる、姥捨という風習があったと言います。 誠に怖ろしいことですが、ある意味合理的な選択であったのかもしれません。 姥捨て伝説を描いた深沢七郎の名作「楢山節考」は木下惠介監督によって映画化されました。 雪山に一人座り、合掌する老婆と、それを見ながら悲哀に沈む中年の息子の姿が印象的でした。楢山節考 (新潮文庫)深沢 七郎新潮社楢山節考 今村昌平,深沢七郎TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D) 能の「姨捨」では、中秋の名月の晩、姨捨山にやってきた旅人が、かつて捨てられた老女の幽霊から事の次第を聞き、老女は美しい舞を舞います。 一般に能では、恨みを残して死んだ霊が現れ、美しい舞を見せ、旅の僧が念仏を唱え、成仏する、というのが、一種...
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夜行観覧車

昨夜は当代随一のストーリーテラー、湊かなえの「夜行観覧車」を一気に読みました。夜行観覧車 (双葉文庫)湊 かなえ双葉社 ある地方都市の高級住宅地。 そこでエリート医師が妻に殺害されることから起こる、騒動を描いています。 母が殺人犯に、父が被害者となり、大学生の長男、高校生の長女、末っ子の男子中学生は途方にくれます。 そしてお向かいに住む両親と女子中学生の3人家族と、近所に住む老婆がからんで、物語はドロドロになって展開します。 広大なお屋敷が連なる高級住宅地にあって、お向かいは普通のサイズ。 高級住宅地に住むことに憧れた母親が無理に夫と娘を説得して建てた家で、母親にとっては家がすべて。 中学生の娘は私立中学の受験に失敗したことから、住宅地の住人にバカにされているように感じ、ひどい癇癪持ちになり、週に何度も家庭内で大暴れ。 老婆は老婆で、古くから高級住宅地に住む矜持からか、まわりに干渉します。 隣の芝は青く見える、と申します。  この小説には、嫉妬や怒りなどの感情がごちゃごちゃに詰め込まれ、いやぁな感じが漂います。 謎解きとか本格ミステリーとかいったものではなく、家族や近所のいやぁな感じを...
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光源氏にとっての死

今日は好天に恵まれましたが、北風が吹いて寒い一日でした。 事務室の中は暖房が効いて快適でしたが、タバコを吸おうと外に出ると、風がひどく冷たく感じられました。  すっかり晩秋ですねぇ。 そして、もうじき、冬がやってきます。 冬というのは、どこか死を感じさせます。 死と言えば、光源氏の生涯を思い起こします。 前半の華やかな女性遍歴から一転して、ついには出家。 光源氏亡き後も、物語は続きます。 多くの女性と浮名を流し、不遇な時代もあったものの、後に大きな権勢を誇りながら、晩年は最愛の妻、紫の上の死を悲しみ、出家して隠遁してしまいます。 思えば光源氏という人、多くの近しい人を失っています。 母である桐壷更衣、桐壷の母(源氏の祖母)、恋人である夕顔、最初の妻、葵の上、父である桐壷院、父帝の妻でありながら密通を交わし、源氏の子を産む藤壺、やたら嫉妬深い六条御息所、恋敵と言うべき柏木、最愛にして最後の妻、紫の上。 光源氏にとって最初に経験したのが、母、桐壷更衣の死。 この時光源氏、わずか3歳。 人の死がどういうものか分からず、周囲の異様な雰囲気を察し、あやし、と感じます。 要するに、変だ、妙だ、と感...
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欲望

小池真理子先生の「欲望」を読み終わりました。欲望 (新潮文庫)小池 真理子新潮社 中学生時代の同級生、類子と阿佐緒、それに正巳という3人をめぐる長い物語です。 阿佐緒は中学生時代から、男なら誰もが欲望を抱くような肉感的な美少女でしたが、彼女の精神は極めて幼稚です。 類子は読書が好きな文学少女で、容姿は十人並み。 正巳は逞しくも美しい少年で、文学少年です。 類子を語り手に、この3人の愛と欲望の物語が綴られます。 ポイントは、正巳が逞しい美青年に成長したにも関わらず、高校時代の事故により、性的不能に陥ってしまうこと。 類子は司書教諭として働きながら、同僚の妻子ある男性教師と肉体だけの関係を断ち切れずにいます。 しかし類子が恋焦がれてやまないのは、不能の正巳。 正巳は肉感的な阿佐緒に惹かれながら、どこか神々し過ぎて、類子に現実的な恋を求めます。 阿佐緒は30歳も年上の、耽美主義的傾向を持った精神科医と結婚し、セレブ生活を送りますが、夫が自分の体を求めないことから、住み込みの家政婦と出来ているのではないかと疑い、勝手に妄想を膨らませ、根拠の無い嫉妬に苦しみます。 類子は肉欲を不倫で解消し、正巳...
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贖罪

昨日は湊かなえの「贖罪」を読みました。贖罪 (双葉文庫)湊 かなえ双葉社 田舎の小学校で、東京から転校してきた女児が強姦されたうえ、殺されてしまいます。 一緒に遊んでいた4人の女児は犯人を目撃しただけでなく、短い会話を交わしています。 しかし、4人はどうしても犯人の顔を思い出すことができません。 それに怒った被害者の母親は、4人にひどい言葉を投げつけます。 あなたたちを絶対に許さない。必ず犯人を見つけなさい。それができないのなら、わたしが納得できる償いをしなさい、と。 この言葉に激しい衝撃を受ける女児たち。 15年後、4人それぞれの独白、さらには被害者の母親の独白という形で物語は進みます。 そして、4人ともが、怖ろしい事件を引き起こすのです。 このスタイル、映画化された名作「告白」によく似ています。告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)湊 かなえ双葉社告白 【DVD特別価格版】 松たか子,岡田将生,木村佳乃東宝 そして、最後に明らかになるあまりにも過酷な犯人の真実。 衝撃的なラストです なんとも後味の悪い作品です。 もっとも、この作者の作品は大抵後味が悪く、それこそが真骨頂だと...
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