文学

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入らずの森

昨夜、「入らずの森」というホラー小説を読みました。入らずの森 (祥伝社文庫)宇佐美 まこと祥伝社 帯の、夜、一人で読んではいけない、という宣伝文句に興味を持ち、購入したものです。 愛媛の山中の過疎の村。 足を怪我してオリンピックへの出場を断念して中学教師になり、あえて田舎の学校を希望して赴任した青年の鬱屈。 サラリーマン生活に嫌気がさし、有機農業へ憧れを抱いてIターンでやってきた初老の夫婦の葛藤。 両親の離婚をきっかけに、東京から祖母の家に身を寄せた不良少女。 そしてなぜか、埼玉県の病院で死の床に着く老婆と介護する娘。 愛媛の寒村をめぐる様々な人々の物語が重層的に語られ、最後にはその関係性が判明する、という構成。 横溝正史を思わせるような因習的な田舎に、わが国らしい、湿った感じが雰囲気を盛り上げます。 森に住む邪悪な生き物。 平家の落人伝説。 この数十年、時折起こる残忍な事件。 和製ホラーらしい道具立てが整っていて、きれいにまとまった小説です。 ただし、決定的な欠陥があります。 怖くないのです。 ホラー小説としては完璧と言えるほどの道具立てと、かちっとまとまった物語が、かえって不気味さ...
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秋の長雨

今日も冷たい雨。 今年は夏からずうっと雨が多いように感じます。  週末も雨の予報。 しかも今週末は台風の予報で、珍しく、2週連続して週末、台風となりそうです。 クサクサします。 秋萩を 散らす長雨(ながめ)の 降るころは ひとり起き居て 恋ふる夜ぞ多き 「万葉集」に見られる短歌です。 秋の長雨の晩、一人起きだして、人恋しく思う、といったほどの意でしょうか。万葉集 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)角川書店角川書店 さすが、万葉歌人が歌うと、私のように「クサクサします」とはならず、なぜか風情を感じさせるのですねぇ。にほんブログ村 人文ランキング
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花の鎖

台風が近づいているとかで、朝から本降りです。 どこへも出かける気にならず、無聊をかこって、小説を読むことでおのれを慰めて過ごしました。 当代随一のストーリー・テラー、湊かなえの「花の鎖」を読みました。 文庫本で350ページほどですが、面白くて、一気に読みきってしまいました。花の鎖 (文春文庫)湊 かなえ文藝春秋 梨花・美雪・紗月という、3人の女性の物語が並行して描かれます。 それぞれに興味深いものですが、3人のつながりがよくわかりません。 それぞれの名前から、雪月花、にちなんでいることが覗えるだけです。 そしてそれぞれ、雪・月・花という章に分かれて進んでいきます。 しかし物語の後半にいたって、時系列が分かってきます。 つまり、紗月が娘、梨花が母親、美雪が祖母、と言う具合。 それが同時並行で描かれるので、最初は同時代を生きる3人の若い女性の話なのかと勘違いさせられます。 そして、梨花に毎年送られる豪勢な花と、その送り主、K。 Kとは何者なのか、美雪に起こった因縁が娘の梨花、孫の紗月にまで及ぼすことになった元とは何なのか。 謎解きのような面白さと、号泣必至の結末。 あまり多くは語りますまい...
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瑠璃の海

昨夜、小池真理子先生の「瑠璃の海」を読了しました。 文庫本で500頁ちょっとの長編でしたが、わりあいすんなり読めました。 相変わらず平易で読みやすい文章です。瑠璃の海 (集英社文庫)小池 真理子集英社 で、読後感。 これは好悪が分かれる小説だろうな、と思いました。 高速バスの事故で夫を失った30代後半の萌。 同じ事故で小学生の娘を失った40代前半の売れない小説家。 小説家は、とうの昔に離婚していて、娘を一人で育てていました。 萌と小説家は、遺族の会で知り合います。 そして、急速に魅かれあっていきます。 耐えがたい喪失感を抱えた二人は、その喪失感を共通項にして、結びつきを強くしていったのでしょうか。   売れないとはいえ一応小説だったため、事故後1年も経たないうちに付き合い始めた二人を週刊誌が面白おかしく取り上げたり。 すでに事故死した夫が、生前浮気していたのではないかと萌が疑ったり。 さらには、結婚前に少し付き合っていただけの男に、萌が体の関係を迫ったり。 小説家との情交に溺れて会社をさぼったり。 小説家はふらっといなくなって、酔っぱらって喧嘩したあげく、怪我を負ったり。  およそ道徳...
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楽園は兄妹を地獄に落とすか

昨夜、ずいぶん昔に読んだ夢野久作の「瓶詰の地獄」を読み直しました。瓶詰の地獄 (角川文庫)夢野 久作角川グループパブリッシング ごく短いながら、強烈な印象を、少年の頃の私に残したことを覚えています。 なぜか昨夜、急に読み返したくなって、パソコンを開き、青空文庫を検索したところ、アップされていたのを確認した時は、嬉しくなりました。 内容はいたってシンプル。 ある島の村に、ビール瓶が3本、流れ着いているのが発見されます。 中にはそれぞれ鉛筆で書かれた手紙らしきものが入れられています。 そのことを海洋研究所に報告し、提出する旨の村役場による候文が最初に置かれます。 その後、難破してその島に流れ着いたと思しき兄と妹の2人の手紙が、それぞれに入っています。  その島に流れ着いた時、兄は11歳、妹は7歳。 島にはパイナップルやバナナ、鳥の卵などが豊富にあり、食うに困りません。 難破した時に避難に使ったボートを建材にして、小屋を作り、2人は幸せに暮らします。 そこはまさしく、二人だけの楽園でした。 二人は聖書を大事にしていることから、クリスチャンであることが示されます。 数年経つうちに、2人はたくま...
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