文学

スポンサーリンク
文学

冬の伽藍

小池真理子先生の「冬の伽藍」を読み終わりました。冬の伽藍 (講談社文庫)小池 真理子講談社 美しい背徳、激しい恋情、そして肉欲。 美しくも残酷な物語の世界に酔いました。 三年前夫を交通事故で亡くした28歳の悠子。 彼女は夫との思い出が詰まった東京を捨てて軽井沢の小さな診療所で薬剤師として働き始めます。 診療所の医師は、やはり三年前に妻を亡くした科目な義彦。 義彦は世捨て人のように、他人との接触を絶って暮らしています。 そして、義彦の義父で東京でクリニックを開業する英二郎。 英二郎は軽井沢に巨大な別荘を持ち、たびたび軽井沢診療所を訪れます。 英二郎は異常なまでの女好きで、悠子を誘惑します。 しかし、悠子と義彦はいつしか互いに惹かれあい、恋に落ちています。 義彦との恋におぼれながら、英二郎の誘惑にも惹かれる悠子。 義彦の妻は自殺しており、義彦は英二郎が妻を手込めにしたため、それを苦に自殺したのだと信じています。 英二郎が妻にしたのと同じように、悠子を誘惑していると知った義彦は、激情に駆られ、義父を殺害してしまうのです。 刑務所に収監された義彦と悠子は手紙のやり取りを始めます。 しかし、義彦...
文学

迷妄

今年は桜をゆっくりと鑑賞する時間がとれませんでした。 先週末は桜は満開でしたが、土日ともあいにくの雨。 通勤の車から見る桜、早くも散り始めています。 今週末、散り乱れる花見を楽しむことができるでしょうか? 散る桜 残る桜も 散る桜 良寛はそう嘆きました。訳註 良寛詩集 (ワイド版 岩波文庫)良寛,大島 花束,原田 勘平岩波書店 桜は必ず散るもの。 短い文句のなかに、諸行無常を詠みこんだのでしょうか。 人もまた、必ず死に行くもの。 40代後半になって、近しい人の訃報に接することが多くなりました。 はるか年上の先輩ならまだしも、後輩が心筋梗塞で突然死したり、自殺したり。 その都度、私自身の未来を思うとともに、来し方を振り返らずにいられません。 私のこれまでの生き方は間違っていたのではないか、少なくとも為すべきことを為さず、ただ生きるため、いや、死なないためだけに職にしがみついてしまったのではないか、という後悔の念に捕らわれることが多くなりました。 それというのも、ここまで来てしまっては、今の生き方を変えることは出来ないのだという、深い諦念の為せる業のような気がします。 しかし、人は未来にむ...
文学

隠れキリシタン

先日、テレビで爆笑問題が隠れキリシタンの末裔を追った番組を見ました。 明治維新後、キリスト教禁教が解かれてから、隠れキリシタンは普通に教会に通うキリスト教徒になったのだと思っていましたが、驚いたことに、今もなお、昔ながらの信仰を保ち続けている人々が存在するそうです。 さすがに隠れる必要はありませんが、隠れキリシタンが信仰したというマリア像、観音様です。 また、墓石の上には小石がいくつも置いてあり、拝むときにその小石を十字の形に並べ替え、拝んだ後、またバラバラにすることで、キリシタンの墓だということが分からないようにしたそうです。 隠れキリシタンであることが発覚すれば、命を落としかねない状態で、よくも信仰を捨てなかったものだと思います。 それらの行為から感じられるのは、隠れキリシタンたちの切ないばかりの願望。 苦しい生活が続く今生を、信仰を貫いて生きとおしたなら、天国に行き、永遠の平安を得られるという、普通の仏教徒が聞いたら詐欺かと思われるような教義を、ひたすらに信じることで、この世の苦しみに耐えようとしたのですねぇ。 よほど毎日が辛かったのでしょう。 仏教にも浄土信仰というのがあり、キ...
文学

オールド・テロリスト

今日から4月だというのに、冷たい雨が降っています。 せっかくの土曜日だというのに。 で、読書など楽しみました。 村上龍の長編「オールド・テロリスト」です。オールド・テロリスト村上 龍文藝春秋 簡単に言ってしまえば、歪んだ現代日本のシステムをリセットしようと、老人たちが過激なテロを繰り広げるというお話。 村上龍らしいといえばこれほどらしい作品はないでしょう。 抜群に面白いエンターテイメントに仕上がっています。 私は、村上龍の頂点は「五分後の世界」かなと思っています。 多くは語りませんが、これは間違いなく名作です。 その後、ゆるやかに筆が衰えてきたような。五分後の世界 (幻冬舎文庫)村上 龍幻冬舎 「オールド・テロリスト」は久々の快作です。 ただ、どこか冗長というか、繰り返しが多い感じは否めません。 扱っている題材から、何か社会派のような意味を汲み取る必要はないでしょう。 単に面白いエンターテイメントとして楽しむのが肝要かと思います。にほんブログ村 本・書籍ランキング
文学

ノスタルジア

午前中、小池真理子先生の小説「ノスタルジア」を読みました。 文庫本で350ページほどですが、一気に読んでしまいました。 小池真理子先生というと、恋愛譚が多いような気がしますが、モダン・ホラーや幻想譚、怪異譚など、幻想文学と呼ぶべき作品も残しています。 「ノスタルジア」は、恋愛幻想文学とでも言うべき趣の作品です。ノスタルジア (講談社文庫)小池 真理子講談社 22歳から31歳までの9年間、父親と同い年で作家の雅之と道ならぬ恋に生きた繭子。 雅之の突然死で不倫相手と死に別れ、その後15年間、東京郊外で一人ひっそりと暮らしています。 それは今を生きているというより、激しい恋に溺れた9年間の思い出に生きているかのごとくです。 突然、雅之の息子、俊之を名乗る男から、父親の真実の姿を知りたいので会いたい、という手紙が届きます。 会ってみると、息子は父親と瓜二つ。 ちょうど雅之が亡くなった46歳。 繭子も46歳になっています。 そして、まるで雅之との恋愛を反芻するごとく、繭子と俊之は恋に落ちていくのです。 ゆっくりとしたペースで、物語は進みます。 それはまるで、中年男女が、性急に異性を求める能力を失...
スポンサーリンク