文学

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橋を渡る

体調が良くなって、吉田修一の「橋を渡る」を一気に読みました。 不思議な小説です。橋を渡る吉田 修一文藝春秋 「春ー明良」、「夏ー篤子」、「秋ー謙一郎」と、それぞれ異なる主人公の物語が綴られます。 そして最終章でそれぞれが繋がる、というパターンの群像劇で、この作者の作品としては珍しくない構成です。 しかし、「そして、冬」、「エピローグ」にいたって、びっくり仰天。 それぞれの物語の主人公が繋がることはたしかなのですが、その舞台が70年後の近未来という設定です。 うーんと、うなりました。 面白いといえば面白いですが、描かれる70年後があまりに突飛で、面食らいます。 「秋ー謙一郎」で登場した学者が研究中の、IPS細胞から精子と卵子を作り出し、それを合わせて人間の生み出すという技術が開発され、それによって生み出された人間はサインと呼ばれ、明らかに差別されています。 また、70年後には100歳くらい当たり前ですが、サインは40歳くらいまでしか生きられません。 正直、どの人物にも感情移入できませんでした。 吉田修一という作家、どうもむらっけがあるようです。にほんブログ村 本・書籍 ブログランキングへ
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裏切り

今日は裏切りの日なんだそうですね。 なんでも本能寺の変で明智光秀が織田信長を裏切った日だから、だそうで。 裏切りという行為、おそよあらゆる宗教や道徳律の中でも、最も卑しい行為とされているようです。 それでいて、人は裏切りという行為を止めることはありません。 重大な裏切りから、ちょっとしたものまで、じつにさまざまです。 キリスト教の司祭が教えを捨てるという重大な裏切りを描いた小説に、遠藤周作の「沈黙」があります。 映画化もされ、近々、マーティン・スコセッシ監督がリメイク版を製作すると聞いています。沈黙 (新潮文庫)遠藤 周作新潮社沈黙 SILENCE 篠田正浩,遠藤周作,遠藤周作東宝 江戸初期、日本に布教に来ていた高名な司祭であるフェレイラが転んだとの報告を受けて、彼の弟子であった若い司祭、ロドリゴが日本に密入国します。 密入国の手引きをしたのがキチジロー。 ロドリゴはキチジローの密告によって、長崎奉行に捕えられます。 キチジローはこの裏切りを悔い、泣き叫んでロドリゴへの面会を望みますが、かないません。 ちょっとキリストを裏切ったユダを連想しますね。 ロドリゴは夜中、激しい鼾に悩まされま...
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ナオミとカナコ

昨夜、奥田英朗の長編「ナオミとカナコ」を読了しました。 知りませんでしたが、ドラマ化もされているようです。 この作者の作品はかなり読んでいます。 大きく分けて、ユーモア小説と、犯罪に材をとったものに分けられるかと思います。 しかし犯罪の小説もいわゆる謎解きを主眼とする推理小説ではなく、一種の心理劇の様相を呈し、そこはユーモア小説と一脈通じるところです。 で、「ナオミとカナコ」は犯罪を題材にしたもの。 大手百貨店に勤めるナオミは東京で独り暮らし。 学芸員になりたかったナオミは、百貨店が運営する美術館での勤務を望みますが、29歳になる今もかなえられません。 ナオミの学生時代からの親友、カナコは大手都市銀行勤務のエリートサラリーマンと結婚し、専業主婦におさまりますが、夫はDV野郎で、カナコはいつもどこかに傷や痣を負っています。 久しぶりに会ったナオミとカナコ。 ナオミがカナコの顔の痣に気づき、問い詰めると、カナコは夫の暴力癖を告白します。 それに衝撃を受け、憤慨するナオミ。 離婚を勧めますが、カナコはそんなことを言い出したら暴力どころか殺されてしまう、とおびえるばかり。 百貨店の大得意で認知...
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わたしを離さないで

昨日は一日かけて、日本生まれの英国人作家、カズオ・イシグロの長編「わたしを離さないで」を一気に読了しました。 読み始めたら、I can’t stop という感じで、引き込まれました。 ヘールシャムという特別な施設で育った女性、キャシーの独白という形式で、物語は進んでいきます。 ヘールシャムというのはいかなる施設なのか、最初は分かりません。 そこで保護官と呼ばれるどこかぎこちない態度の教師たちに、もっぱら絵画や詩の製作を教わる生徒たち。 彼らの将来は、すでに決まっています。 それは介護人と呼ばれる仕事に就き、その後は提供者と呼ばれる存在になること。 ネタバレになってしまいますが、ミステリーではないので良いでしょう。 ヘールシャムとは、臓器提供のために生み出されたクローン人間の教育施設なのです。 クローン人間とはいえ、そこは人間。 嫉妬や妬み、恋愛、人間関係の悩みなど、当たり前の人間の感情が、精緻に、しかも抑えた筆致で淡々とつづられます。 提供者などになりたくない、普通に働きたい、という切実な悩みが描かれたり、真に愛しあっているカップルは、それが真の愛だと証明されれば、提供を猶予される、な...
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いやぁな感じ

今日もすばらしい陽気でしたね。 今朝は7時に起きてシャワーを浴び、ハムエッグとお新香で朝飯を食いました。 少し食休みをして、洗濯をし、掃除機をかけ、さらに便所掃除もして、布団を干しました。 なんとなく仕事ちっくですが、9時半には一とおり済ませました。 同居人は朝が苦手なので、日曜日の家事は大方私がやることになります。 その後、読書を楽しみました。  なんとなく嫌な感じのする男を主人公にした中篇3編を収めた吉田修一の「熱帯魚」です。 子連れの美女と、子供の頃親が再婚し、連れ子どおしだったために義理の弟となった青年と、奇妙な同棲生活を送る大工の青年。 ゲイの大学教授と仲良しで、それがスパイスになっています。 義理の弟は引きこもりがちで、熱帯魚を飽きずに眺めています。 で、この大工、なんというか心が狭いというか、自分ひとりの鬱屈にとらわれて、乱暴を働いたりします。 これが「熱帯魚」。 彼女にDVを働き、怒った彼女が主人公の親友と浮気してしまいながら、許さない、ということの意味がどうしても分からないひねくれ者を描いた「グリーン・ピース」。 会社の休暇を利用して房総の民宿でバイトし、その間に民宿...
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