文学 殉教
先日、阿川弘之がエッセイやインタヴューなども含め、すべての作家活動から引退する旨が報じられました。 太平洋戦争中に青年将校として青春時代を送った彼は、多くの戦争を題材とした小説を執筆しましたね。 齢90、第三の新人と言われた同世代の作家たちも多くは逝き、潮時といったところでしょう。 今では娘の阿川佐和子のほうが一般に知られているかも知れません。 娘といってももう50代後半ですが。 独身の娘のことが唯一心配だ、と言っていましたが、結婚していたって、子どもに恵まれず、相手に先立たれれば生涯独身を貫いた者と同じこと。 一人に慣れていないためかえって喪失感に責められるかもしれません。 第三の新人のなかでは、私は安岡章太郎の小説を最も愛読してきました。 怠け者な感じが良いのです。 しかし、その世代の最高傑作は何かと問われれば、遠藤周作の「沈黙」を挙げるでしょう。 日本に宣教に行ったポルトガル人司祭が棄教したとの報告を受けて、ことの真偽を確かめに来た弟子の司祭の顛末を描いた小説で、キリスト教を題材にしたわが国の文学のなかでは、他の追随を許さない名作です。 拷問に耐えかねて棄教した日本人信者が、自分...