文学

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聖域

昨日は自宅で読書などして静かに過ごしました。 読んだのは、篠田節子の小説、「聖域」です。聖域 (集英社文庫)篠田 節子集英社 これは、小説内小説である「聖域」という作品をめぐる物語です。 文芸雑誌の編集者、実藤は、退職した先輩の机の引き出しから、大部の、しかし未完の原稿を発見します。 それを読んだ実藤は、力強く、幻想的な、平安時代の天台宗の僧侶が東北の邪神に苦しめられながらこれらと対決する物語に深く心奪われます。 実藤は作者である水名川泉と面識のあった先輩編集者や老作家のもとを訪れ、作者の居所を突き止め、小説を完成させようと決意します。 しかし、水名川泉と関わりを持った者は、あるいは悲惨な末路を遂げ、あるいは心に深い闇を抱えており、みな一様に関わり合いになるな、と警告します。 それでも諦めきれない実藤は、物語の後半、ついに東北で巫女となっている作者に巡り合うことができるのです。 巡り合ってからがまた大変です。 この世とあの世の橋渡しをする宿命を持った作者は、続きを書くことを拒否。 それかあらぬか、最近事故死した実藤の恋人をあの世から呼び寄せてしまいます。 それがため、恋人との甘い記憶に...
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我が家の問題

家族の悲喜こもごもを描いた奥田英朗の短編集「我が家の問題」を読み終わりました。我が家の問題 (集英社文庫)奥田 英朗集英社 以前読んだ「家日和」に連なる、おかしくも切ない短編群です。 じつは、その系譜に連なる「我が家のヒミツ」もすでに購入済みです。家日和 (集英社文庫)奥田 英朗集英社 我が家のヒミツ奥田 英朗集英社 突如、UFOと交信できるようになった、と言い張る夫を心配し、奇想天外な方法で夫を救出しようとする妻や、両親が離婚しようとしていると思い込んだ女子高生の葛藤など、様々な切り口で家族の問題を軽快なタッチで描き出して、爽やかな読後感です。 家族を題材にした小説といえば、重松清が有名ですが、それよりだいぶあっさりした感じですかねぇ。 全く嫉妬心を掻きたてられる小説家ですねぇ。
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憂国忌

今日は三島由紀夫の命日、憂国忌です。 森田必勝と市ヶ谷の自衛隊に乗り込み、檄を飛ばした後、自衛官のうち誰一人として呼応することがないことを知って、割腹自殺して果てました。 それから45年。 生きていれば90歳です。 あの事件が、偉大な文学者であった三島由紀夫を、スキャンダルに満ちた国粋主義者に変えてしまいました。 極めてシニカルな小説を書いた彼が、あのような激情に狂ったとしか思えない事件を起こすとは驚きです。 あの事件は、当時の左翼過激派にも衝撃を与え、新左翼から新右翼に転向する者を生み出しました。 憂国忌の語源となった「憂国」は、2.26事件の後、割腹して果てる青年将校と妻の後追い自殺、それにいたる長い情交が描かれ、それは魔的な美しさを誇ってはいても、右翼的でも国粋主義的でも、さらには憂国の情を感じさせるものでもありません。花ざかりの森・憂国―自選短編集 (新潮文庫)三島 由紀夫新潮社 自衛隊に乗り込む直前に書きあげた「天人五衰」にしても、極めて冷静な筆致で、これから腹を切りに行く人が書いたとは思えません。天人五衰―豊饒の海・第四巻 (新潮文庫)三島 由紀夫新潮社 一体作家の精神に何...
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ズル休み

3連休明けのせいでしょうか、朝起きたら猛烈に出勤したくない、という思いが強くなり、ズル休みしてしまいました。 午前中はぼんやり過ごし、午後は読書をしました。 篠田節子の短編集「家鳴り」です。家鳴り (集英社文庫)篠田 節子集英社 ホラー風味の短編集という触れ込みでしたが、どちらかというと人間精神の暗部を端的に切り取った感じでしょうか。 おいしそうに食事をする妻の顔を見るのが唯一の楽しみになった専業主夫の男が、妻にどんどん飯を食わせ、ついには起き上がることも出来なくなった妻が発作を起こして亡くなるのと同時に丹精こめた家が音を建てて崩れていく、一種の心中物の表題作。 中学生の少女に魅入られて破滅していくサラリーマン。 奇妙なようでいて、誰に起こってもおかしくない物語が、静かに、かつ不気味に綴られます。 なんとなく気分が沈むお休みの日には、ぴったりの内容かもしれません。
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アリス殺し

昨夜は小林泰三のダーク・ファンタジー仕立てのミステリーを堪能しました。 「アリス殺し」です。アリス殺し (創元クライム・クラブ)小林 泰三東京創元社 「不思議の国のアリス」や「鏡の国のアリス」は、誰もが知っている不思議なお話。 大学院生の亜理は、毎夜、その不思議の国で冒険する夢を見ます。 それも鮮明な夢。 しだいに不思議の国と現実との境界が曖昧になっていきます。不思議の国のアリス (角川文庫)河合 祥一郎角川書店(角川グループパブリッシング)鏡の国のアリス (角川文庫)河合 祥一郎角川書店(角川グループパブリッシング) 物語は、不思議の国を舞台にしたものと現実を舞台にしたものが交互に描かれながら進みます。 やがて、亜理以外にも、不思議の国の夢を見続けている人がいることを知ることになります。 共同してこの奇妙な事態を推理し、ついには不思議の国での存在と夢を見続けている人間がリンクしていることに気付きます。 彼らはこれを、アーヴァタールと呼びます。 要するに、アバターですね。 そして怖ろしいことに、アーヴァタールが不思議の国で殺されると、現実を生きる本体であるはずの人間も死んでしまうのです...
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