文学

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トンデモドクター、第3弾

デブで子供のように無邪気な精神科医、伊良部先生が活躍する連作の第3弾を読みました。 「イン・ザ・プール」、「空中ブランコ」に次いで、「町長選挙」を読みました。イン・ザ・プール (文春文庫)奥田 英朗文藝春秋空中ブランコ (文春文庫)奥田 英朗文藝春秋 明らかにナベツネをモデルにしたと思われる短編やホリエモンを擬したと思われる作品に続いて、離島の診療所に2か月限定で赴任した伊良部医師と島の町長選挙の珍騒動を描いた表題作など、ますますパワーアップしてくれちゃってます。 また、胸の開いたミニのナース服に身を包んだクールなナース、じつはパンクロックのバンドをやっていて、何かと金がかかることが初めて明かされます。 今回もまた、大いに笑わせてもらいました。 いやぁ、愉快。町長選挙 (文春文庫)奥田 英朗文藝春秋
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せみ啼くや

久しぶりに涼しい朝を迎え、午前中は窓を開けるだけで、冷房を使わずに済みました。 このくらいなら楽ですねぇ。 しかしお昼をいただく頃には太陽が顔をだし、私はそれを恨めしく眺めました。 せみ啼くや 行者の過る 午の刻 わが敬愛する与謝蕪村の句です。 セミがうるさく啼き騒ぐ真昼時、仏教だか修験道だか知りませんが、行者のいでたちの者が通り過ぎていくさまを詠んでいます。 カンカン照りの太陽、それをさえぎる物とて無い往来のイメージと、行者という言葉が醸し出す神秘的な要素、それに、いっそ不気味でさえあるセミの大音声が、逆に静けさを感じさせ、夏の陽射しにぼうっとなった頭が見せる幻のような、絵画的印象を感じさせる句です。 与謝蕪村は絵描きでもあり、句の多くが絵画的であることを思えば、当然なのかもしれません。蕪村句集 現代語訳付き     (角川ソフィア文庫)玉城 司角川学芸出版 近年の流行歌では、夏の恋を扱ったりして、夏休みとあいまって夏は楽しい季節であるかのように歌いますが、本来日本人にとって夏は過酷な季節であり、おそらくは疾病に罹る者や亡くなる者が多かった、死の季節であったろうと推測します。 そのよ...
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ヨルの綱渡り

昨夜は「告白」で大ベストセラーをとばした湊かなえのミステリーを読みました。 じつは「告白」は読んでいないのですが、映画で観て、非常な感銘を受けました。告白 【DVD特別価格版】 松たか子,岡田将生,木村佳乃東宝 昨夜読んだのは二人の仲の良い女子高生の夏休みを描いたものです。 タイトルは、ずばり、「少女」。 ブログのタイトルは、作中小説の題名です。 この二人の他に、ほとんど登場しませんが、ミステリアスな転校生がからみ、物語は重層的でいくつもの仕掛けを隠し、あっと驚く内容になっています。 転校生は、前の学校で、親友の自殺に出くわします。 遺体の第一発見者になってしまったことにより、人の死ということに関し、愁いを帯びた口調で語ります。 それを聞いた二人は、猛烈に人の死に、それも死ぬ瞬間に立ち会いたいと願います。 夏休み中、一人は老人ホームでボランティア活動をし、一人が読み聞かせのボランティアで訪れた病院で難病の少年と知り合い、交流を深めます。 その中に恋愛めいたスパイスを効かせつつ、誰もが一癖も二癖もある人物であるということが分かり、終盤、予想もしなかった展開を見せます。 もちろん、中心とな...
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トンデモドクター、大活躍

昨夜は冷酒をちびちびやりながら、デブで幼児のように天真爛漫な精神科医、ドクター伊良部が活躍する、「空中ブランコ」を楽しみました。空中ブランコ (文春文庫)奥田 英朗文藝春秋 以前読んだ「イン・ザ・プール」の続編です。イン・ザ・プール (文春文庫)奥田 英朗文藝春秋 伊良部総合病院の跡取り息子、伊良部先生は一風変わった精神科医。 総合病院の暗い地下の診察室で、患者を待ち構えています。 患者が来ると、まずはビタミン注射。 打つのはミニスカートに胸の開いた白衣を着たクールなナース。 伊良部医師、注射を打つのを観るのが大好きな注射フェチなのです。  某サーカスで空中ブランコのエースを張っていた男が、失敗を積み重ねるのを苦に来診したり、ゴールデングラブ賞の常連の名野手が暴投ばかりするのに苦しんだり、恋愛小説のカリスマが創作に悩んだり、それぞれに深刻な悩みを抱えて伊良部先生の元を訪れますが、伊良部先生は能天気。 しかし逆説的な方法で結局は解決してしまうところをみると、伊良部先生は名医なのかもしれません。 ユーモア小説とはかくあるべし、というような、愉快な短編集です。 自分の悩みは深刻でも、他人の苦...
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嗤う

最近お気に入りの奥田英朗の小説を読みました。 「最悪」です。最悪 (講談社文庫)奥田 英朗講談社 町工場の社長、20歳のチンピラ、銀行に勤めるOLの3人の物語が交互に綴られ、大団円に向かって一つの事件に繋がっていくというミステリーです。 この作者、ユーモア小説からミステリーまで、幅広い守備範囲をお持ちで、しかも読みやすい文体で豊かなストーリーを紡ぎだせる稀有な才能をお持ちのようです。 誠に羨ましいかぎりです。 かつて小説家を目指していた私は、長いこと古典以外の小説を読むことが出来ませんでした。 嫉妬してしまうからです。 しかし長い精神障害のトンネルを抜けて、やっと素直に現代の優れた小説を楽しむ心の余裕ができました。 それは多分、諦めなんていう生易しいものではなく、私の人生が精神的に大きな転換を迎えたためだろうと思っています。 精神障害に対する差別はなお根強く、この先職場で出世する見込みはなく、小説家目指して大博打を仕掛けるタイミングはとうに失いました。 客観的には、堅い仕事に就いて、結婚もし、マンションも買いと、望む物は全て手に入れたように見えるかもしれません。 しかし主観的には、私は...
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