文学

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ザ・ベイ

昨夜はわりとよくできたパニック映画を鑑賞しました。 「ザ・ベイ」です。 米国の海辺の田舎町。 ある時、魚が湾内で大量死しているのが発見されます。 どうやら新種の寄生生物の仕業のようです。 ついに人間が感染。 一気に何百人という単位で感染が広がり、しかも体中に水ぶくれのような発疹ができて、その日のうちに亡くなってしまうという怖ろしい病気です。 寄生虫は小さな幼虫の状態で人間の体に入り、内部の肉を食いながら成長し、大きくなると7センチにもなるのです。 感染者がパッと見ゾンビに見える点や、なんとなく安っぽい感じを差し引いても、スピード感があり、ぐいぐいと引き込まれます。 何より怖ろしいのは、米国政府の対応。 田舎町につながる道路を全て封鎖し、誰も感染地帯から逃げられないようにしてしまいます。 町の医師が政府の保健機関に必死でテレビ電話を使って応援要請をしますが、保健機関の回答は、すべての患者を置き去りにして逃げろ、というもの。 しかし、医師本人が自身の体に浮かんだ発疹を示すと、保健機関は沈黙します。 そこで死ねということだと理解した医師は、体が動く限り、患者の撮影を続けます。 後世にその田舎...
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「灰色の虹」あるいは天意

昨夜、貫井徳郎のミステリーを読了しました。 「灰色の虹」です。灰色の虹 (新潮文庫)貫井 徳郎新潮社 顔に大きな痣があり、性格も内気で、彼女が出来たことがないサラリーマン。 しかし、同じ部署の、やはり内気で、お世辞にも美人とは言えない女性と職場の宴会で隣り合い、言葉を交わしたことから、二人は交際を始めます。 二人とも恋愛沙汰は初めて。 初めての喜びに、二人とも舞い上がり、至福の日々を過ごします。 しかしある時、日頃から部下に当たり散らして嫌われている上司が、彼女の悪口を言ったことからサラリーマンがブチ切れ、襟を掴んで謝罪を要求するという小さな事件が勃発。 反省して翌日どうしようかと思案していたところ、上司が何者かに殴られ、頭を地面に打って死亡するという事件が発生。 サラリーマンは無実の罪で逮捕されてしまいます。 威圧的な警察にびびりまくり、検察が無実を見抜いてくれるだろうと期待を寄せて嘘の自白をしてしまいます。 結局、検察も有罪と認定し、裁判に。 最高裁まで争いますが、有罪が確定。 男は7年の懲役に服します。 出所後、彼を待っていたのは母親だけ。 父親は出所前にうつ病を患って自殺、姉も...
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星に願いを

昨日は七夕でしたね。 織姫と彦星が年に一度逢瀬を楽しむ日。 そして私たちにとっては、星に願う日。 願い事は人それぞれでしょうが、ロマンチックな伝説に彩られた一夜、切実な願いを抱えている人もいるでしょう。 私はといえば、しがない木端役人の中年男ですから、願い事といっても宝くじが当たりますように、程度の、俗っぽい願い事しかありません。 神聖な短冊をそんな世俗の垢にまみれた願い事で汚すわけにはいかず、曇り空の向こうに輝いているであろう二つの星に、心の奥深くで欲望が叶うことを願いました。 天の川 遠き渡りに あらねども 君が舟出は 年にこそ待て 歌聖、柿本人麻呂の和歌です。 「和漢朗詠集」に見られます。 天の川はそれほど大きな川ではないけれど、一年にたった一度の渡りを待ち焦がれています、と言ったほどの、織姫の切ない恋情を表したものと思われます。和漢朗詠集 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)三木 雅博角川学芸出版 その昔は短冊ではなく、梶の葉に願い事を書いたとかで、与謝蕪村は、 梶の葉を 朗詠集の しをり哉 と詠んでいます。 七夕の夜、「和漢朗詠集」を繙いて、和漢の古人を友として一時の慰めを得た...
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噂の女

午前中、雨がぱらついていたので、読書を楽しみました。 読んだのは、奥田英朗の「噂の女」です。 糸井美幸という魔性の女をめぐる連作短編集で、重層的に物語が積み上げられ、最初のうちは大した女ではないと思わせておきながら、連作が進むにつれてとんでもない女であるらしいことが仄めかされて、唐突に終わります。 これはあくまで女糸井美幸をめぐる物語であり、糸井美幸の物語ではありません。 岐阜県の田舎町を舞台に、狭い町ならではの、濃密で因習的な人間関係を背景に、貧しい境遇から抜け出すべく、女の色香を武器に奮闘する様が、あるいは友人の口から、あるいはパトロンの代議士の事務所に勤める秘書の口から、また、サラりーマンから、零細企業の社長から、語られます。 最初は適当に連作を連ねているのかと思わせておいて、じつは緻密な計算のもとに紡ぎだされた物語だと判明するという仕掛け。 文章はあまり品がありませんが、テンポが良くて読みやすい。 この作者の作品を読むのは初めてですが、他のものも読んでみたくなりました。噂の女 (新潮文庫)奥田 英朗新潮社にほんブログ村 本・書籍 ブログランキングへ
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涙な添へそ

7月の初日は朝から雨。 梅雨であればやむを得ません。 雨が降ると、それだけで気分が沈むのを、どうすることもできません。 むかし思ふ 草の庵の 夜の雨に 涙な添へそ 山ほととぎす   藤原俊成 「新古今和歌集」に所収の和歌です。 草庵で昔を偲ぶ雨の夜、悲しい声で涙を誘ってくれるな、ホトトギスよ、といったほどの意味かと思います。  独り寂しい草の庵で雨音を聞きながら昔を思い出すというのは、寂しい状況のはずですが、私はこの歌に、どこかメランコリックな快感を覚えます。 憂愁というもの、辛いようでいて、それがメランコリーにとどまっている限り、なぜか心地よいものです。 寂しい歌や悲恋の物語などが好まれるのも、メランコリーの快感を覚えるからではないかと推測します。 こんな日は私も暗い快感に沈むとしますか。
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