文学

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言葉の乱れ、あるいは儚い恋

世の中には恋の歌が引きも切らず、少々食傷気味です。 それもあまりにストレートで稚拙な歌詞が目立ち、辟易します。 美しい日本語を紡ぎ出す能力の無い者が無理やり詞を書くからでしょうねぇ。 かつて、作詞家・作曲家・歌手はほぼ分業が確立されており、それがゆえ、高い作詞能力を持った人しか作詞しませんでした。 歌手も歌唱力が優れていたり、味わい深い声をもっていたりする人だけがプロとなったのでしょう。 それが1970年代あたりから、シンガーソングライターと呼ばれる、作詞作曲を一人でこなし、さらには自分で歌っちゃうという人が増え始め、それと比例して聞くに堪えない幼稚な詞が出回り始めたように思います。 これにより、日本語による美的な歌の崩壊を生じ、ついには俵万智とかいう、自由詩を無理やり定型の短歌に押し込めたような人がちやほやされるに及んで、日本語は壊滅的打撃を受けました。 嘆かわしいことですねぇ。 さらにはら抜き言葉が横行し、もはやら音をきちんと発音しただけでお年寄り扱いです。 時代の流行を嘆くのはいつの時代もお年寄りのくだらぬ愚痴とはいえ、私はせっかちなのか、早くも感覚が老齢に近づいたらしく、嘆かわ...
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ここだけが現実の世界じゃないのよ

ぐずついたお天気の土曜日。 大人しく読書などして過ごしました。 昨年、御大・筒井康隆が8年ぶりに出版したという短編集「繁栄の昭和」を楽しみました。 あなたのいるここだけが現実の世界じゃないのよ、というキャッチ・コピーも魅力的。繁栄の昭和筒井 康隆文藝春秋 怪人二十面相誕生の秘密を独自の解釈で繰り広げた「大盗庶幾」。 あっと驚く内容でした。 登場人物で探偵小説好きの法律事務所の事務員が、自分たちの存在は執筆中の探偵小説の登場人物であり、いつまでたっても年をとらず、町並みも古びないことをもって、執筆が中断されているに違いないと気付く幻想譚「繁栄の昭和」。 戦前だったり高度成長期だったり、昭和と言う時代を舞台にしたノスタルジックな作品群は、私を圧倒させました。 御大も80歳を超えて、かつての「虚人たち」や「虚構船団」のような、とてもついていけない実験的な作品に挑む力は失せ、筆力の衰えを隠そうともせず、ノスタルジックな作品を物すとは、なかなか良い年の取り方とお見受けします。虚人たち (中公文庫)筒井 康隆中央公論社虚航船団 (新潮文庫)筒井 康隆新潮社 もう一冊、最近出たばかりの最新の短編集も...
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永遠の0

久しぶりに長い小説を読みました。 「永遠の0」です。 永遠の0 (講談社文庫)百田 尚樹講談社 正直、私の言語感覚から言うと、美しい文章ではありませんでした。てにをはも変でしたし。 それでも、読ませる力技は見事なものでした。 これがエンターテイメントの力かと思いました。 お話は、特攻隊で亡くなった祖父の人となりを追って、孫の姉と弟が当時の知りあいを訪ね歩き、祖父の零戦乗りとしての生活を知って行くという単純なものです。 ある人は臆病者と罵り、ある人は海軍一の操縦士と誉めそやします。 いずれにしろ、祖父は当時としては珍しく、軍国主義の風潮に染まることなく、堂々と、家族のために生きて帰りたい、と口にするのです。 その一方、零戦は太平洋戦争当初、無敵の怪物でしたが、末期にいたって米国は零を凌駕する飛行機を作り、特攻を行う頃にはもはや老兵でした。 しかし祖父は、あまたの同僚や部下を戦闘で失ううちに心が変わったのでしょうか、家族のために生きて帰ると露骨には言わなくなります。 司令部において、特攻は多く、経験の浅い学生あがりが命じられてきましたが、ついに、日中戦争の頃から敵機と渡り合い、10年近くも...
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花橘に

今日から5月。 ひと昔前だったらメイ・デイの馬鹿騒ぎをしていたでしょうか。 しかし左がかった運動はめでたく衰亡し、今や瀕死の状態です。 もっとも、労働運動で血と汗を流してくれた先人たちの苦労のおかげで、7時間45分労働に有給休暇やら病気休暇やらを現在の私たちが享受出来ることを思えば、メイ・デイを馬鹿騒ぎの一言で済ませてしまうのは畏れ多いと言うべきかもしれませんね。 昭和27年のメイ・デイは死者が出るほど激しいものだったようです。 血のメーデー事件と呼ばれています。 それにしても、平和な法治国家となっていたはずのわが国で、たかがと言っては語弊がありますが、メイ・デイごときで命を落としたのでは、本人も遺族もやりきれないでしょうねぇ。 そういえば古今和歌集に、 誰かまた 花橘に思ひ出でむ 我も昔の 人となりなば  という和歌がありました。 まだ花橘には早いですが、かつて激しかった左がかった運動の犠牲者を思い、ふと、浮かびました。新版 古今和歌集 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)高田 祐彦角川学芸出版 花橘です。 花橘は昔のことを思い出したり、亡くなった人を思い出すきっかけとされた花。  自...
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初夏だ

初夏を思わせる昭和の日でした。 私は午前中、長い朝風呂に疲れて、ごろごろしていました。 お昼が近付き、少し元気になって、自室を整理していたら、もう7~8年前に書きかけて、そのままうっちゃっていた小説の原稿が出てきました。 原稿用紙250枚くらいで仕上げる予定だった作品で、40枚ほどで留まっています。 その小説のことは気にかかっていたのですが、精神障害に苦しめられたり、その後の復職に気を取られたりで、そのままになっていました。 で、読み返してみると、私が書いたとは信じがたいほど、面白いもので、早く続きを読みたいと思ったのですが、それには私が書かなければなりません。 それは大層おっくうなことで、弱りました。 で、私は夏が苦手。 夏の訪れを感じ始めた今、過酷な季節に七面倒な小説執筆など出来るかと、先延ばしにした次第です。 初夏だ初夏だ 郵便夫にビールのませた  北原白秋にしては珍しい、自由律俳句です。白秋 青春詩歌集 (講談社文芸文庫)三木 卓講談社 自由律俳句は明治の終わり頃から昭和初期に流行った独特の俳句で、五七五及び季語にとらわれず、人生を率直に詠うことを旨とします。 種田山頭火や尾崎...
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