文学

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遊園地

色川武大の短編に、「少女たち」という佳品があります。 「離婚」という短編集で読むことができます。離婚色川 武大文藝春秋 この小説では、訳ありの少女たちと共同生活を送る男が描かれますが、共同生活は終りを告げることになります。 それを惜しむ少女たちに、男は一言、「もう遊園地は終り」と宣言します。 少女たちとの幻想的とも言える現実離れした生活とその終りを描いて、少女たちの成長の物語とも、男の孤独を表す物語とも読める、切なくも美しい作品でした。 今夜、私は日本橋人形町の懐石の店で、15年来の付き合いになる女友達2人と一杯やる予定になっています。 一応、遅い新年会ということで。 今思えば、15年前、私が激務を強いられる職場で耐えられたのは、この2人を始めとして、多くの気の合う同僚に恵まれたからだろうと思っています。 激務の合間に飲みに行ったりカラオケに行ったり。 私は行きませんでしたが、スキーなんかにもグループで行っていたようです。 地獄の中の小さな遊園地のようでした。 1人は都内に1LDKのマンションを購入して一人暮らし。 もう1人は長いこと内縁関係にある男と暮らし、未だに籍を入れようとしませ...
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桜の樹の下

昨日、今日と、馬鹿に暖かい日が続きます。 私が執務する部屋は西陽があたるので、午後は暖房いらずです。 こんな風に、寒い日があったかと思うと暖かい日が訪れて、少しずつ、春になっていくのですね。 今年は梅が遅いようで、まだ咲きませんが、この調子なら、梅ももうじきでしょう。 わが国では季節感を大切にする文化が育まれ、手紙では必ず時候の挨拶を文頭に置きますし、女性の着物などでは季節を表す柄が入っている場合、その季節にしか着用することができません。 俳句では自由律でないかぎり季語を入れるのが約束になっていますね。 四季の変化が劇的であればこそ、このような文化が生まれたのでしょう。 北国の人はまた異なるのでしょうが、ひと冬中ほとんど晴れている太平洋側で生まれ育った私には、春は待ち遠しいようで、どこか寂しい季節です。 春の愁いについては、このブログでもたびたび指摘してきました。 その愁いがどこから来るのかは分りません。 しかし例えば、桜の樹の下には死体が埋まっている、と喝破した梶井基次郎の「櫻の樹の下には」のように、美の裏には不気味な死、穢れとしての死が存在するという予感を、多くの日本人が共有し、そ...
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大人の絵本「図書館奇譚」

今日は昨日とは打って変わって弱い雨が降りました。 私は雨に閉じ込められて、絵本を楽しみました。 村上春樹の小説にドイツ人の画家が幻想的な挿絵を描いた、豪華で美しい絵本「図書館奇譚」です。 オスマン・トルコの収税政策について知りたくなった少年が、行き着けの図書館を訪れます。 レファレンスで本を調べると、地下に行くよう司書に指示されます。 100回以上通って、初めてその図書館に地下があることを知ります。 地下では気が短い老人が本を探してくれ、迷路のような複雑な道を通って、閲覧室に案内されます。 しかし、着いたところは監獄で、少年は足に鉄球をつけられ、収監されてしまうのです。 何が起きているのか分からない少年。 少年の世話をするのは、羊男と口が聞けない美少女。 2人は老人に支配されています。 老人の目的は、少年に本を読ませて知識を与え、しかる後少年の脳みそを吸うこと。 知識が詰まった脳はじつに美味なのだそうです。 脳みそを吸われると、人は悩みの無い、夢のような世界でぼんやり暮らすことになるというのです。 新月の晩、少年は羊男と美少女とともに、脱出を試みるのです。 奇妙で幻想的で読みやすい小説...
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張りぼての城

天気予報では、首都圏は大雪だと騒いでいましたが、千葉市周辺はただの雨です。 千葉県北西部には大雪警報が出ていますが、千葉市も大きくくくれば北西部だと思いますが、いったいどこに雪が降っているのでしょうねぇ。 不思議です。 まぁ、降らないと言って降るより、降るぞ降るぞと脅しておいて降らないほうが気分的にはよろしいようです。 去年はひどく降りましたからねぇ。 実際の雪は、とくに出勤しなければならないサラリーマンにとって、なかなか恨めしいものですが、観念上の雪となるとまた趣を異にします。 例えば、私が敬愛してやまない若山牧水のこんな歌。 おとろへし わが神経に うちひびき ゆふべしらじら 雪ふりいでぬ 当時流行りの神経衰弱を患っていたのでしょうか、あるいはまた、純粋に芸術上の問題で憂愁に沈んでいたのでしょうか。   雪が衰えた神経にさわるというのは、おそらく精神上のことであろうと思います。 そう思うと、辛い雪が歌人を責めているというより、歌人はどこか心地よいメランコリーに浸っているようにも感じられます。 ひとしきり あはく雪ふり 月照りぬ 水のほとりの 落葉の木立  こちらは先ほどの歌と比べて...
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春を待つ

今日は馬鹿に寒いですね。 寒さは今日あたりが底でしょうか。 明日は雪になるかもしれないと、天気予報では言っていました。 去年は雪でひどい目にあいました。 首都圏は極端に雪に弱く、すぐに電車は止まるし、タクシーは事故を恐れてか、休むドライバーが多いように感じます。 稼ぎ時だと思いますがねぇ。 私は冬タイヤもチェーンも持っていないので、雪が降ったら公共の交通機関に頼らざるを得ず、それが結構なストレスです。 去年、ごつい長靴を買ったので、電車が動いてさえいればとくだん問題はありません。 去年は履物が悪く、何度もこけました。 寒さが底を迎えれば、もう春はすぐ。 私は春愁の気にあてられて、春には憂鬱に沈むことが多いですが、さすがにこう寒いと春が待ち遠しく感じられます。 啓蟄や 日はふりそそぐ 矢のごとく 高浜虚子の句です。 啓蟄は例年3月初旬。 それまではまだ一か月以上ありますが、降り注ぐ日を待ちわびながら、日々の雑事をこなしていきたいと思っています。虚子五句集 (上) (岩波文庫)高浜 虚子岩波書店虚子五句集 (下) (岩波文庫)高浜 虚子岩波書店
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