文学

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永遠の0

久しぶりに長い小説を読みました。 「永遠の0」です。 永遠の0 (講談社文庫)百田 尚樹講談社 正直、私の言語感覚から言うと、美しい文章ではありませんでした。てにをはも変でしたし。 それでも、読ませる力技は見事なものでした。 これがエンターテイメントの力かと思いました。 お話は、特攻隊で亡くなった祖父の人となりを追って、孫の姉と弟が当時の知りあいを訪ね歩き、祖父の零戦乗りとしての生活を知って行くという単純なものです。 ある人は臆病者と罵り、ある人は海軍一の操縦士と誉めそやします。 いずれにしろ、祖父は当時としては珍しく、軍国主義の風潮に染まることなく、堂々と、家族のために生きて帰りたい、と口にするのです。 その一方、零戦は太平洋戦争当初、無敵の怪物でしたが、末期にいたって米国は零を凌駕する飛行機を作り、特攻を行う頃にはもはや老兵でした。 しかし祖父は、あまたの同僚や部下を戦闘で失ううちに心が変わったのでしょうか、家族のために生きて帰ると露骨には言わなくなります。 司令部において、特攻は多く、経験の浅い学生あがりが命じられてきましたが、ついに、日中戦争の頃から敵機と渡り合い、10年近くも...
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花橘に

今日から5月。 ひと昔前だったらメイ・デイの馬鹿騒ぎをしていたでしょうか。 しかし左がかった運動はめでたく衰亡し、今や瀕死の状態です。 もっとも、労働運動で血と汗を流してくれた先人たちの苦労のおかげで、7時間45分労働に有給休暇やら病気休暇やらを現在の私たちが享受出来ることを思えば、メイ・デイを馬鹿騒ぎの一言で済ませてしまうのは畏れ多いと言うべきかもしれませんね。 昭和27年のメイ・デイは死者が出るほど激しいものだったようです。 血のメーデー事件と呼ばれています。 それにしても、平和な法治国家となっていたはずのわが国で、たかがと言っては語弊がありますが、メイ・デイごときで命を落としたのでは、本人も遺族もやりきれないでしょうねぇ。 そういえば古今和歌集に、 誰かまた 花橘に思ひ出でむ 我も昔の 人となりなば  という和歌がありました。 まだ花橘には早いですが、かつて激しかった左がかった運動の犠牲者を思い、ふと、浮かびました。新版 古今和歌集 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)高田 祐彦角川学芸出版 花橘です。 花橘は昔のことを思い出したり、亡くなった人を思い出すきっかけとされた花。  自...
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初夏だ

初夏を思わせる昭和の日でした。 私は午前中、長い朝風呂に疲れて、ごろごろしていました。 お昼が近付き、少し元気になって、自室を整理していたら、もう7~8年前に書きかけて、そのままうっちゃっていた小説の原稿が出てきました。 原稿用紙250枚くらいで仕上げる予定だった作品で、40枚ほどで留まっています。 その小説のことは気にかかっていたのですが、精神障害に苦しめられたり、その後の復職に気を取られたりで、そのままになっていました。 で、読み返してみると、私が書いたとは信じがたいほど、面白いもので、早く続きを読みたいと思ったのですが、それには私が書かなければなりません。 それは大層おっくうなことで、弱りました。 で、私は夏が苦手。 夏の訪れを感じ始めた今、過酷な季節に七面倒な小説執筆など出来るかと、先延ばしにした次第です。 初夏だ初夏だ 郵便夫にビールのませた  北原白秋にしては珍しい、自由律俳句です。白秋 青春詩歌集 (講談社文芸文庫)三木 卓講談社 自由律俳句は明治の終わり頃から昭和初期に流行った独特の俳句で、五七五及び季語にとらわれず、人生を率直に詠うことを旨とします。 種田山頭火や尾崎...
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世をそむけり

すべてあらぬ世を念じ過ぐしつゝ、心をなやませることは、三十餘年なり。 その間をりをりのたがひめに、おのづから短き運をさとりぬ。 すなはち五十の春をむかへて、家をいで世をそむけり。 もとより妻子なければ、捨てがたきよすがもなし。 身に官祿あらず、何につけてか執をとゞめむ。 むなしく大原山の雲に臥して、また五かへりの春秋をなん経にける。 「方丈記」にみられる一節です。 現代語では、以下のようなところでしょうか。 生きにくい世の中、無事を祈りつつも、心を悩ませること三十年あまり。 その間、人生の節目節目に行き違いがあってうまくいかず、運が無いことを悟った。 そこで五十歳の春、家を出て世を捨てた。 もともと妻子もなければ、家を出ることを思いとどまるような親類も無い。 官位もなく、禄も無い。 世に執着する理由など無い。 何をするでもなく、大原山の雲の下で過ごし、五年の月日が経った。方丈記 現代語訳付き (角川ソフィア文庫)簗瀬 一雄角川学芸出版 筆者の鴨長明は、もともと京都の賀茂御祖神社禰宜の次男に生まれ、跡を継ごうと様々に画策しますがうまくいかず、世をはかなんで世捨て人となり、京の田舎に庵を結...
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世界で最も影響力のある100人

米誌タイムが発表した「世界で最も影響力のある100人」の一人に、村上春樹が選出されたそうですね。 ここ何年もノーベル文学賞候補に名が上がり、諸外国でも多くの読者を抱える身であれば、当然とも言えるでしょう。 そこで、彼のデビュー作「風の歌を聴け」をぱらぱらと読み返してみました。 デビュー作というのは、その作家の持ち味がすべてつまっているものです。 村上春樹本人は、デビュー作とそれに続く「1973年のピンボール」・「羊をめぐる冒険」の、通称鼠3部作を、未熟だとしてお気に召さないようですが、私はこれら最初期の作品群にもっとも強く惹かれます。風の歌を聴け (講談社文庫)村上 春樹講談社1973年のピンボール (講談社文庫)村上 春樹講談社羊をめぐる冒険 文庫 上・下巻 完結セット (講談社文庫)クリエーター情報なしメーカー情報なし 「風の歌を聴け」は、都内の大学に通う「僕」が夏休みを利用して故郷の神戸に長期間帰省し、「鼠」というあだ名の友人と酒を飲んだり、奇妙な恋愛沙汰に巻き込まれたりという、広い意味での青春小説です。 ドライな文体にウェットな内容を含んだ、軽い感傷が心地よい作品でした。 ペー...
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