文学

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テロリストの詩

我、その時を待ちわびたり。 時満つれば、その時が来たらむは必至なればなり。 我が一日千秋の思いで待ちたるは、現世の終末に他ならず。 義務たる教育を受けし折、日輪はやがて牙をむき、我らの住みたる世界を飲み込み、生きとし生けるものは滅するが必定なりと教わりし。 そを知りたる日の幸いは、言の葉にならず。 ただ我、夢見の心地して、如何にして日を過ごしたか定かならず。  しかれども、我が存命のうちにその時が来たらむべくもなきことを知りたり。 日輪の時は悠久にして、我らの時はあまりにも短かければ、日輪の怒り爆発すを待つは、釈迦の説く劫にも等しき時が経るを待ちたる他なし。 我が嘆き筆舌に尽くし難し。 嘆き、にわかに怒りに変じ、我が怒髪は天を突く。 ならば取るべき道は唯一つ。  願いを成さんに、我が力と謀をもって、生きとし生けるものに引導を渡すべからず。  これ、我が宿願にして、テロルに深く共鳴したる所以なり。 我、而していわゆるテロリストと呼ばれたり。 しかれども我に思想信条のあるべきか。 ただ破壊の王たるを願うのみ。 砂漠の国に出向きて破壊を為し、駅舎空港、人の集まりたる場所に出向きて火薬を揮う。...
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仇敵 -ボード-レール「悪の華」よりー

早いものでもうじき9月も終り。 すっかり涼しくなりました。 時の流れを嘆く言葉はあまりに多く、聞き飽きた感がありますが、ボードレールの「悪の華」に所収の「仇敵」の一部には心打たれます。 時は生命をくらい、 この見えざる仇敵は、 われらの心を蝕みて、 とくとく生血をすすり、 肥りはびこる。 時は金なりとか、光陰矢のごとしとか、時間を大切にするよう戒める言葉はあまたありますが、時を仇敵となじった詩篇は他に知りません。悪の華 (新潮文庫)堀口 大學新潮社 ボードレールの面目躍如といったところでしょうか。 確かに中年期にさしかかると、疲れやすくなったり、太ったり、髪が薄くなったり白くなったり、明らかに老化と言うべき現象に見舞われます。 私の場合、髪の変化や中年太りはありませんが、明らかに疲れやすくなったし、集中力も持続しくなったし、近くの物を見るときには近眼鏡を外すようになりました。 これは誰にでも訪れる加齢による現象で、如何ともしがたいものですが、やっぱり気持ちが良いものではありません。眼鏡を取って新聞を顔に近づけて読む様を見て、同居人は「爺くさい」と笑いますが、その同居人も、書類仕事では眼...
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酒は静かに

すっかり秋めいてきましたね。 自宅に到着する18時頃には、すっかり暗くなっています。 それは寂しいに違いありませんが、気温が下がると酒の味をひと味上がるのも事実。 日々の晩酌が心地よい時季でもあります。 白玉の 歯にしみとほる 秋の夜の 酒は静かに 飲むべかりけり あまりにも有名な、大酒飲みの若山牧水の歌です。 私もまた、秋の夜の酒を楽しみに、日々の雑事に精を出しています。 それはとても疲れる作業ですが、わずかな酒が、疲れを癒してくれます。 酒は百薬の長ともキチガイ水とも言われる自己矛盾をはらんだ飲料です。 私の肝臓は今のところ正常値を保っていますが、このままいくと、きっと酒で死ぬんでしょうねぇ。 好きな酒で死ねれば本望と言うべきでしょうか。にほんブログ村 人文 ブログランキングへ
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戦艦大和ノ最期

吉田満の「戦艦大和ノ最期」を読みました。 この作品の存在は中学生の頃から知っていましたが、戦争賛美だの、軍国主義的だのという的外れの評判を耳にし、これまで敬遠してきました。 しかし、先日某文芸評論家が、これを近現代の日本文学最高の作品と紹介していたのを読み、テにしたというわけです。 全編漢字とカタカナの流麗な文語体で、自身が体験した大和の悲劇と、死ということ、国家ということ、戦争ということについて、学徒出陣で大和に乗り込んだ若い将校の苦悩が綴られます。 私が驚いたのは、大和の若い将校たちがかなり自由闊達に議論していることです。 例えば、世界の3大無用の長物として、万里の長城・ピラミッド・大和、と自嘲したり、海軍を救う唯一の方法は少佐以上全員銃殺、と言ってみたり。 彼らがそれで罰せられることはありません。 ただ黙殺されるか、同じ階級の将校同士で喧嘩になるか、です。 そしておそらく助からないであろう沖縄救援のため、片道分の燃料を積み、航空機による護衛もなく、駆逐艦9隻とともに特攻に出るという作戦ともいえない無謀な作戦に駆り出されるとき、それぞれが死ぬ意味を考え抜きます。 沖縄にたどり着く前...
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人にはとかじ

今日もまた、季節を先取りしたような涼しい一日でした。 こういう季節外れなら、大歓迎ですねぇ。 最近には珍しく、今日はなんとなく調子の良い日でした。 これを維持したいものです。 神秘(じんぴ)そも 人にはとかじ 氷室守 与謝蕪村の晩夏を詠んだ句です。 かつて製氷技術が無かった時代、冬の間にできた氷を融かさず保存するための施設がありました。 それが氷室。 氷室を維持管理するのが氷室守。 夏には氷室から氷を江戸に運んだりしたそうです。 氷は大層貴重であったものと思われます。 そしてその貴重さゆえ、氷室は神秘的存在としてとらえられ、氷室守は氷室を維持管理するのみならず、氷室の神秘を守るべき存在でもあったのでしょうか。 不気味なような、涼しいような、不思議な味わいをもった句ですね。 氷は将軍家に献上されるのみならず、玉川上水の水に氷を浮かべて氷水を売る水屋という商売があったとか。 しかし必ずしも衛生的とはいえず、年寄りなどはよく腹をこわしたため、年寄りの冷や水という言葉が生まれたとも。 私は氷をガリガリかじってしまうようなワイルドなことをよくしますが、腹をこわしたことなどありません。 衛生的な、...
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