文学

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村上春樹の新作

村上春樹の新作短編集「女のいない男たち」を読みました。女のいない男たち村上 春樹文藝春秋 これは、生き別れや死に別れなどで大切な女性を失った男たちの喪失感を様々に描いた短編集です。 したがって、そもそも女性と付き合ったことがない、という意味での女がいない男は含まれていません。 短編集ですから、一作くらいはそういうのも入れて欲しかったですねぇ。 どれもどこかエキセントリックで、社会の枠にはまらない男たちの喪失感が、流麗に、切なく描かれ、さすが大御所と言う感じで、このところ長編ばかり物してきた作者の筆遊びのようなところもありますが、さすがに春樹節は健在でした。 恋人にふられる、あるいはふるという形で女を失うことはよくあることですし、死に別れということも、老いた夫婦では避けられないことでしょう。 そもそも恋人も妻もいたためしが無いという人も含め、すべての男は女のいない男であるか、あったと言っても良いでしょう。 また、恋愛が成就し、結婚という事態になったとしても、妻を得ることで恋人を失うわけで、その場合、女(=恋人)がいない男になり、間をおかずして女(=妻)がいる男になることで、それは本質的に...
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桜桃忌

今日は太宰治の命日、桜桃忌ですね。 私もご多分にもれず、通過儀礼のようにこの作家の作品に中学生の頃心酔しました。 何しろ読みやすいのと、自己陶酔のようなセンチメンタリズムが中学生の心をとらえたのでしょうね。 高校生になると、もうそのセンチメンタリズムが鼻につき、離れて行きました。 26歳で変死した尾崎豊にも通じるような、犯罪奨励、自殺奨励めいたところがあり、18禁にしたほうが良いかもしれませんね。 そうしたら売上激減でしょうし、冗談ですが。 今も桜桃忌には、墓参りに訪れるファンが絶えないそうで、根強い人気があるんですねぇ。 何度も心中未遂を繰り返しては自分だけ生き残ったため、成功した心中では相手の女性が彼を殺害してから体を赤い紐でくくりつけ、玉川上水に飛び込んだとの俗説があります。 太宰治の遺体を調べたところ、ほとんど水を飲んでいなかったことから、そういう説が生まれたそうです。 真相は闇の中ですが、それが仮に本当であれ、そんな下世話な話には乗りたくないものです。 生きていれば今年105歳。 生きていても不思議ではありません。 あの色男がどんなおじいちゃんになったでしょうね。 ご冥福をお...
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追悼 大西巨人先生

恥ずかしながらつい先日まで知らなかったのですが、戦後文壇の巨人、大西巨人先生が今年の3月に亡くなられていたそうです。 日頃このブログに親しんでおられる方々は、私の耽美主義的かつ浪漫主義的傾向から、先生のような理に勝った小説家を好まないのではないかと推測されるのではないかと邪推します。 さにあらず。 私はノーベル文学賞を受賞した大江健三郎は大嫌いですが、大西先生は深く尊敬しています。 なぜか? 大西先生は嘘八百でしかない小説に生命を吹き込み、一方大江健三郎はそこに愚かな思想信条を託したからだと言う他ありません。 小説は読んで字の如く、小さな説です。 天下国家を論じるものではなく、色恋だとか、諍いだとか、友愛だとか、そんなくだらないようでいて、人間の本質を描く、人の性をわざわざ嘘をついてまであぶりだす、因果なものです。 大西先生の作品と言えば、何をおいても「神聖喜劇」は外せません。 神聖喜劇〈第1巻〉 (光文社文庫)大西 巨人光文社神聖喜劇〈第2巻〉 (光文社文庫)大西 巨人光文社神聖喜劇 (第3巻) (光文社文庫)大西 巨人光文社神聖喜劇〈第4巻〉 (光文社文庫)大西 巨人光文社神聖喜劇...
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八十八夜

今日は八十八夜。 立春から87日目。 日本独自の雑節と言われていますね。 一説には、季節外れの遅い霜が降りたりする時季とかで、農民に注意喚起するために設定されたとやら。 また、この日摘んだお茶を飲むと長生きできるとも言われ、夏も近づく八十八夜、という唱歌がありましたね。 霜なくて 曇る 八十八夜かな 出流れの 番茶も 八十八夜かな いずれも正岡子規の句です。 やっぱり霜やお茶を詠んでいますね。 日本人にとっての八十八夜の代表的なイメージだったのでしょう。子規句集 (岩波文庫)高浜 虚子岩波書店 幸い、今朝、霜など降りず、暖かな日を迎えています。 普段珈琲ばかり飲んでお茶を飲まない私ですが、今日ばかりはお昼の供は暑いお茶です。 せっかく季節感を大切にする国に生まれたのですから、その時々の季節を楽しみたいものです。にほんブログ村 人文 ブログランキングへ
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御大のライトノベル

午後は御大、筒井康隆翁が執筆した初めてのライトノベル、「ビアンカ・オーバースタディ」を楽しみました。 もっとも、翁はライトノベルという概念が生まれるはるか以前から、「時をかける少女」などの名作を物しています。時をかける少女 〈新装版〉 (角川文庫)貞本 義行角川書店アニメ版 時をかける少女筒井 康隆,「時をかける少女」製作委員会金の星社 かつてはジュヴナイルなんて言われていた、中高生をターゲットにしたジャンルの小説ですね。 もっとも近頃では、ライトノベルの読者層は中年男女にまで広がっているとか。 ゲームやアニメのファンが50過ぎの方にまで伸びていることを思えば当然かもしれません。ライトノベル完全読本 (日経BPムック)日経キャラクターズ日経BP社 さらに遡れば、戦前には少年小説とか少女小説とか呼ばれるジャンルがありましたし、もっと昔はお伽話なんて言いました。 いつの時代もそういうジャンルがあるものです。 ライトノベルという言葉は20年ほど前に生まれたもので、今でも明確な定義はなく、中高生向けの新書や文庫本で、読みやすく、オタクっぽい挿絵が入っていて、恋愛物、SF、ホラー、推理物など、多...
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