文学

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寒露

今日は二十四節季の17番目、寒露ですね。 「暦便覧」では、陰寒の気に合つて露結び凝らんとすれば也と説明しいています。 また、他の辞書では、雁などの冬の渡り鳥が渡ってきて、蟋蟀が鳴きやむ頃、とも。 ひらたく言えば、秋が深まり、そろそろ冬が近付く頃ということでしょうが、毎度のことながら、旧暦の暦を新暦に合わせることなく、日付けをそのままにしているのは奇妙な感じがして仕方ありません。 新暦と二十四節季が合うようにしないと、二十四節季なんて、観念上の遊びに堕してしまいます。 新室に 歌よみをれば 棟近く 雁がね啼きて 茶は冷えにけり  正岡子規の和歌です。 ちょうど寒露の頃を詠んだものと思われます。 茶は冷えにけり、というのが、いかにも冬の到来を実感させますねぇ。子規歌集 (岩波文庫)土屋 文明岩波書店 しかし、今日の首都圏はかなり気温が上がりそうです。 多分25度は超えるでしょう。 実感としては、まだ初秋の気分です。 唯一、日が短くなったことが、秋を感じさせます。 秋から冬にかけて、なんとなく気分が沈む季節。 しかも年度末に向かって仕事量が増えて行きます。 ここは抗うつ薬を頼りに、出勤を続け...
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スーパー能「世阿弥」

今日はNHKで変わった能を観ました。 スーパー能「世阿弥」です。 梅原猛が書き下ろした全編現代語の能で、地謡や太鼓や鼓は能舞台に上がらず、オペラのオーケストラのように一段下に陣取っていました。 さらに、通常の能では照明を変化させることはありませんが、暗くしてみたり、青白くしてみたり、誠に奇異な能でした。 内容は、観世流の創設者にして能の大成者、世阿弥とその妻、さらには息子との情愛を描いたもので、現代語だけに分かりやすいものでしたが、どうしても能らしい幽玄の美のようなものが感じられず、中途半端な印象を受けました。 時の権力者、足利将軍に疎まれた世阿弥親子。 世阿弥の子、元雅は足利将軍が放った刺客に殺されてしまいます。 観世流が途絶えてしまう、と嘆き悲しんだ世阿弥は妻と心中することを決意しますが、そこに元雅の亡霊が現れて、自分は観世流を守るために死んだのだ、足利将軍の怒りはおさまり、まさか能の大成者である世阿弥まで殺害することはないでしょうから、どうか父上は長生きして観世流を復興させてほしい、と願い、去って行きます。 その噂を聞いた金春流など、他の流派の能楽師が世阿弥を訪ね、元雅から能の秘...
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内向の世代の終わり

文芸評論家の秋山駿先生の訃報に接しました。  83歳。 いわゆる内向の世代と呼ばれる作家や作品を肯定的に捉えた人でした。 内向の世代とは、全共闘運動がほぼ終焉した1970年代前半に生まれた文学上の流行で、全共闘の失敗からか、個人の内面を深く抉ることを旨とした文芸上の思潮です。 元々は文芸評論家の小田切秀雄が、それまでわが国で主流であった左翼的で元気一杯の文芸運動が、挫折感からか、個人の内面を描くしみったれたものに堕してしまった、という否定的な意味で名付けたものです。 それを肯定的に捉えたのが、秋山駿先生や柄谷行人でしたね。 私は中高生の頃、、古井由吉、後藤明生、日野啓三、黒井千次、高井有一ら、内向の世代と呼ばれる人々の作品群にのめり込んだことがあります。 なぜかと言えば、あまり面白くは無いものの、何か、深い意味があるのではないかと感じさせる雰囲気を持っていたからです。 しかし、大学に進んで、私はそれら作品群から、急速に興味を失っていきました。 要するに、文学作品というものが根源的に持っていなければならないエンターテイメント性を無視し、まるでオナニストが自慰によって垂れ流した精液を見るよ...
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秋の夜の酒

今週は月曜日が秋分の日でお休みだったせいか、短く感じました。 それでも、金曜日の夜飲む酒はひときわ旨いですねぇ。 秋から冬にかけて、酒の味が一段上がるように感じるのは不思議なことです。 そうであってみれば、ロシアなどの寒い国でアルコール摂取量が多く、インドや東南アジアなどでは低いというのもうなづけます。 憂あり 新酒の酔に 託すべく ある時は 新酒に酔て 悔多き いずれも夏目漱石の句です。 新酒とは、秋に新しい酒が出来たことから、秋の季語とされています。 今で言えばボジョレー・ヌーボーみたいな感じでしょうか。 夏目漱石と言う人、よほど愁いを帯びていたらしく、句をよくしましたが、明るい句とてありません。漱石俳句集 (岩波文庫)坪内 稔典岩波書店 一方、難解で幻想的な長編小説を多く残した小説家、石川淳も句を残しています。 鳴る音に まず心澄む 新酒かな こちらは憂愁の気配は感じられず、純粋に新酒を楽しもうと言うウキウキ感が感じられて、微笑ましく思います。 石川淳の小説には感じられない、素直さですね。 案外常識的な人だったのかもしれません。 わが国の多くの小説家や文芸評論家は、石川淳を正当に...
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秋めく

この2、3日、すっかり秋めいてきました。 涼しくて過ごしやすいのは有難いですが、陽が短いのはやれませんねぇ。 陽が短いと、なんとなく気分も晴れません。 しかし、わが国においては四季それぞれの楽しみを味わうのが伝統というもの。 秋から冬にかけて、酒の味も上がるというものです。 うしと思ふ わが身は 秋にあらねども 萬につけて 物ぞかなしき 和泉式部の和歌です。 これなどまさしく、春愁秋思の秋思をそのまま詠んだというべきで、なんでだか分からない、秋の物思いを素直に詠んでいて、好感が持てます。 秋ふくは いかなる色の 風なれば 身にしむばかり 哀なるらん これも同じ歌人の手によるものです。 和泉式部という人は歌詠みの中でも特に技巧的で、巧すぎるのが難点とさえ言われますが、秋の歌には素朴な情趣が感じられます。 たのめなる 人はなけれど 秋の夜は 月みで寝べき 心ちこそせね これも和泉式部の歌。 こちらは、彼女らしく、秋を詠って技巧的です。 安心感がありますねぇ。和泉式部集 (岩波文庫 黄 17-2)和泉式部,清水 文雄岩波書店和泉式部日記 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)川村 裕...
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