文学

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今から思えば

今から思えば、あなたがワーグナーの、シンフォニーを聴きはじめたのが、二人の別れていく、印になった。 さだまさしの「シンフォニー」に見られるフレーズです。 それこそ、今から思えば腹に落ちる歌詞であると言わざるを得ません。 男がシンフォニー、わけてもワーグナーのシンフォニーを愛好し始めたなら、もはや男女の関係は切れる他ないでしょう。 ワーグナーの音楽がどれほど男を魅了し、この世ならぬ世界に導くかは、あまりにも明白です。 ナチがワーグナーの音楽を常に宣伝に使ったことは歴史的事実で、第二次世界大戦の敵であった米軍でさえ、ベトナム戦争の際には、兵士の士気高揚にワーグナーの音楽を多用しました。 映画史上最高の戦争映画である「プラトーン」においては、歴戦の勇士である兵士が、基地で、一夜、酒とマリファナに溺れる場面があります。 明日をも知れぬ身であればこそ、酒やマリファナに溺れる気持ちも分かりますが、それを国家が出来ようはずもないので、せめてワーグナーの音楽で兵士の気分を盛り上げたというわけでしょうか。 はるか昔、23年も前のことで、もはや時効でしょうから、あえて告白しますと、私は一度だけ、酒とマリフ...
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謎のカスパール・ハウザー

70年代から80年代にかけて、渋澤龍彦とともにアンダーグランドの文化人として名を馳せた人に、種村季弘という独文学者がいます。 渋澤龍彦はSMのSのほうの創始者、サド侯爵の「悪徳の栄え」などを翻訳紹介したことで有名であり、また、正体不明の作家、沼正三の問題作「家畜人ヤプー」の作者ではないかという疑惑を持たれました。 この人は生涯在野のフランス文学者兼小説家として過ごし、大学などに宮仕えすることはありませんでした。悪徳の栄え〈上〉 (河出文庫)渋澤 龍彦河出書房新社悪徳の栄え〈下〉 (河出文庫)渋澤 龍彦河出書房新社家畜人ヤプー〈第1巻〉 (幻冬舎アウトロー文庫)沼 正三幻冬舎家畜人ヤプー〈第2巻〉 (幻冬舎アウトロー文庫)沼 正三幻冬舎家畜人ヤプー〈第3巻〉 (幻冬舎アウトロー文庫)沼 正三幻冬舎家畜人ヤプー〈第4巻〉 (幻冬舎アウトロー文庫)沼 正三幻冬舎家畜人ヤプー〈第5巻〉 (幻冬舎アウトロー文庫)沼 正三幻冬舎家畜人ヤプー 1 (バーズコミックス)沼 正三,江川 達也幻冬舎家畜人ヤプー 2 (バーズコミックス)沼 正三,江川 達也幻冬舎家畜人ヤプー(3) (バーズコミックス)沼 ...
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暗い日曜日

北原白秋は短い間でしたが、私のふるさと、江戸川区に住んでいたことがあります。 23区とはいえ東のはずれで、当時はずいぶん鄙びた感じだったようです。 夏浅み 朝草刈りの童らが 素足にからむ 犬胡麻の花 北原白秋が江戸川区在住の頃詠んだと伝えられる和歌です。 歌の内容からも、当時の江戸川区が牧歌的な雰囲気を持った田舎であったことが知れます。 西欧の文学にかぶれていたこともある北原白秋ですが、こんな牧歌的な、ノスタルジックな和歌を詠んでいたのですねぇ。 ちょっとびっくり。 江戸川区では、都内で唯一の手作りの風鈴を作っていたり、金魚が盛んだったり、奇妙なものが有名ですね。 しかし私は江戸川区に住んで都心の学校に通っている頃、江戸川区はとてつもなく都心から遠いド田舎で、なんでこんなところに住まなければいけないのだと嘆いていました。 で、周辺区から都心に通うしんどさに嫌気がさして、千葉に就職して東京から遁走しいたというわけです。 千葉市中心部から電車で二駅目に住んでいるせいか、住まい周辺は今の所のほうが都会的で利便性も高く、しかも人は少ないという、私にとって理想的な環境です。 しかし私にとって最も...
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そのこと

昨夜、ウィスキーのロックをちびちびやりながら、かつて傾倒した三島由紀夫の「鏡子の家」をぱらぱらと眺めました。 昭和30年代の東京を舞台にした青春群像劇で、夫と別居して信濃町で娘と暮らす鏡子の家に入り浸る4人の若者の成功と挫折を描いた作品です。 すでに「金閣寺」などで名声をおさめていた三島由紀夫が、いわゆるメリー・ゴーラウンド方式と言われる、複数の主人公が互いにあまり関わることなく物語が進んでいくという手法を採った意欲作ですが、当時の文芸評論家からは酷評されたようです。 読み手が三島由紀夫に追いついていなかったものと思われます。 メリー・ゴーラウンド方式と呼ばれる手法は映画でも使われ、名作「愛と哀しみのボレロ」などが製作され、私はこの手法の物語をわりと好んでいます。 野心あふれる若いサラリーマン、プロを夢見るアマチュアボクサー、売れない画家、売れない俳優の4人の青年が同格の主人公であり、戦後の高度成長を冷ややかに見ながら4人の希望あふれる若者に自宅をサロンとして提供する鏡子が狂言回しのような役割を担っています。 彼らはそれぞれに成功し、鏡子の家から離れていき、結局挫折するのです。 最後に...
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色彩

ようやっと、昼間は初夏を感じさせる陽気になりました。 季節の移ろいが今年はゆっくりに感じられましたが、それでも着実に季節は変わっていきます。 私は与謝野晶子の歌はあまりに情が強(こわ)すぎて好みませんが、初夏の訪れを祝って色彩感覚豊かな彼女の和歌を思い起こしました。 ああ皐月 仏蘭西の野は 火の色す 君もコクリコ われもコクリコ 明治末期、子供を日本に置き去りにして与謝野鉄幹を追って与謝野晶子はパリに渡ります。 コクリコとはひなげしの花。 コクリコの鮮やかな赤が、初夏の激しさと晶子の恋情の激しさを物語ります。 おのれとパートナーを真っ赤なコクリコに例えるあたり、怖ろしいですねぇ。 そんな女が追ってきたら、私であれば裸足で逃げ出すところです。 子をすてて 君にきたりし その日より 物狂ほしく なりにけるかな 物狂ほしくでもならなければ、そんな所業には及べますまい。 赤のイメージが強い与謝野晶子ですが、爽やかな青を歌っていて、意外です。         雲ぞ青き 來し夏姫が 朝の髪 うつくしいかな 水に流るる こちらの青は鮮烈というより清冽です。  同じ歌人のなかにも、様々な要素があって、...
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