文学

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浮世は憂き世

散ればこそ いとど桜は めでたけれ 憂き世になにか 久しかるべき  「伊勢物語」に見られる和歌です。 桜は命が短いからこそ良いというわけで、それが憂いを帯びながら無常なこの世を象徴しているというわけでしょう。 昔から、浮世は憂き世と申します。 学生時代はこの世はパラダイスに見えましたが、それは親の庇護のもと、それこそ浮世離れした学問にはげんで、しかもたっぷりと自由な時間があればこそ。 ところが就職した途端、この世は長すぎる地獄であることに気付きます。 自力で生きるというのはそうしたことです。 今日は非正規雇用の女性ばかり5人の部署から、泣きが入りました。 彼女たちの直接の上司への愚痴を、一時間以上聞かされました。 彼女たちの上司というのは、私と同じ職階にあり、年もほぼ同じ男です。 そやつが困ったちゃんであることは、職場では有名なこと。 私に愚痴をこぼされても仕方ないのですが、私を信頼して泣きを入れてきた彼女たちの心情を思うと、いてもたってもいられず、私と彼の共通の上司である者を別室に呼び出して、危機的な状況を訴えました。 すると上司は、うすうすは知っていた、今後事務体制の改善を考え、原...
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少女アイドルの自殺

1986年の今日、4月8日、当時少女アイドルのトップを走っていた岡田有希子が所属事務所が入っている四谷のビルの屋上から投身自殺を遂げました。 当時私は高校2年生で、とくだん彼女のファンであったわけではありませんが、ずいぶん驚いたことを覚えています。 その後しばらく、彼女の映像や歌は、一切メディアに登場することはありませんでした。 というのも、彼女のファンが何人も後追い自殺し、メディアで彼女を取り上げることはタブーとなったのです。 幼少期からアイドルになることを夢見、両親の猛反対を押し切ってオーディションを受けてメジャーデヴュー。 1984年には新人賞を総なめにし、本格派の少女アイドルとして、順調なスタートを切ったのでした。 しかし、しだいにテレビで見る彼女からは、表情が消え、無理やり貼り付けたような不自然な笑顔で歌う姿は、痛々しくもあり、悲劇の予兆を感じさせました。 週刊誌などでは、俳優の峰岸徹に恋愛感情を抱きながら、峰岸徹からは可愛い妹分としてしか遇されず、失恋したと思い込んで自殺した、という話が実しやかに流されました。 峰岸徹自身、インタビューで、岡田有希子が自分に対して単なる兄貴...
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尊属殺人

先般、19歳の無職の少年が43歳の母親を殺害してバラバラにする、という事件が世間を騒がせましたね。 少年は容疑を認め、2人で生活し、依存や憎しみ、失望感があり、それを断ち切りたかった、と供述しているとか。 近所の人の話では、仲の良い母子家庭に見えたそうです。 また、少年は、母親を殺したとき、何も感じなかった、と言っているそうです。 わが国ではかつて、殺人罪よりも重い罪として、尊属殺人罪というものが存在していました。 殺人罪で課される刑は、3年以上の有期刑、または無期懲役、または死刑です。 しかし尊属殺人罪は、自分及び配偶者の一親等の尊属、つまり親ですが、これを殺した場合、無期懲役または死刑が課される、と定められていました。 つまり親殺しは特別重い罪だというわけです。 1973年、ある尊属殺人がきっかけで、尊属殺人罪は法の下の平等を定めた憲法に違反する、との判決を下しました。 時代は下って1995年、尊属殺人罪は廃止されました。  遅きに失した感はありますが、まずは良かった。 1979年、都内有名私学に通う16歳の男子高校生が、祖母を殺害した後自殺するという事件が起きました。 自分をエリ...
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おかまの日

4月4日はおかまの日。 3月3日が女の子の節句で5月5日が男の子の節句ということで、その真ん中がおかまの日とは、子供じみた発想ですねぇ。 一言でおかまといっても、「同性愛者」、「女装趣味の者」、「同性愛者向けの性風俗の職にある者」、「水商売(芸能を含む)の職にあり演じている者」、「言葉遣いが女性的な者」、「性同一性障害者」など、実際には様々な概念を包含しており、その実態は定かではありません。 なんとなく、なよなよしていて女っぽい男と、というイメージが一般的でしょうか。 ビート・ジェネレーションの代表的作家、ウィリアム・S・バロウズにそのものずばり、「おかま」という小説があります。 妻とウィリアム・テルごっこをやっていて誤って妻を射殺した後、両性愛者であった彼が同性の恋人との切ない関係を描いた作品で、独特の読みにくい文体が魅力です。 この人は麻薬中毒のジャンキー野郎で、あまたの幻想的といおうか、悪趣味な小説を書いてきました。 クローネンバーグ監督によって映画化もされた「裸のランチ」が私のお気に入りです。 バロウズの自伝的作品で、執筆中、タイプライターが巨大な口を開けてべらべらしゃべるシー...
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春荒れ

今日は強風吹きすさび、雨が落ちる、春荒れの一日でした。 そんな一日も、年度始めの忙しさにかまけて、私は感慨に浸る間もありません。 打ち合わせだ、資料作成だ、予算が減額された、などと言っては職場を駆けずり回り、気がつけば終業時間。 昨日3時間ほど残業し、残業を続けるとてき面に体調を崩すことを知っているので、後ろ髪引かれる思いで職場を後にしました。  明日は明日の風が吹く。 まぁ、なんとかなるでしょう。 くれなゐの 二尺伸びたる 薔薇の芽の 針やはらかに 春雨の降る 正岡子規の和歌です。 今日の雨はそんな優しいものではありませんでした。 わずかに残った桜を根こそぎ散らすような強風を伴う、凶暴なものでした。 しかし私は、この凶暴な雨を、いっそ歓迎しようかという気持ちでいます。 この凶暴さが、なぜだか真綿で首を絞めるような春特有の憂鬱な気配を、吹き飛ばしてくれるような気がするのです。  今、焼酎のロックを飲みながらこの記事を書いています。 このわずかな酒の酔いが、ひと時、私を仕事漬けの平日の憂いから解放してくれます。 明日の朝目が覚めれば、またその憂いに満ちた一日を過ごさなければならないことは...
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