思想・学問

スポンサーリンク
思想・学問

この世ならぬもの

水木しげる先生が93歳で逝去されました。 妖怪を題材にした漫画、戦争体験を元にした漫画、どれも印象深いものです。 私がこの人に深いシンパシーを感じるのは、かつて日本社会において実際に存在するものとされてきたこの世ならぬ存在への予感を、堂々と表明し、それを面白く描き出した点にこそあります。 第六感だか霊感だか、名前はどうでも構いませんが、私は、現在存在しないとされている何者かが、確かに在ると思っています。 それは日本に限らず、どこの社会においても、神話や怪談などで語り継がれてきたことで、それらが在るからこそ、人々はそれらの存在を近しいものと感じ続けてきたのであろうと思っています。 ただし、それらは恐怖すべき対象では無い、あるいは恐怖すべき存在はごくわずかでありましょう。 水木先生が描き出した妖怪の類も、どこかユーモラスで、人間と共生する存在とされており、おそらくはそれが実態に近いものと思われます。 また、芸術家などが感じるインスピレーションは摩訶不思議なもので、それこそまさに、この世ならぬ者との感応が生み出したものでしょう。 水木先生が示された、この世ならぬ者との親和性を、今こそ取戻し、...
思想・学問

肉体

私が長期病気休暇を余儀なくされていた頃、精神科医からさかんに散歩を勧められました。 うつ状態にあると部屋に閉じこもってひたすら落ち込んでいくばかりでなく、急激に太って内臓の疾患にかかることも多いことがその理由のようです。 休み始めたばかりの頃はとても用もないのに外を歩き回る気になれず、寝てばかりいましたが、病状の回復とともに、医師の勧めにしたがって歩くことができるようになりました。 そこで気付いたことは、最初は嫌々でも、歩いているうちに調子が良くなって、気分も良くなるということ。 もともとスポーツをする習慣がない、運動嫌いの私であれば、運動で気分が良くなるという話を知ってはいても、実感するのは初めてのことでした。 そこで私は、肉体に閉じ込められた精神は、単に閉じ込められているのではなく、激しくその支配を受けていることを知ることになります。 もちろん、うつ病などの疾患が、体を動かせば治る、なんて、巷間ささやかれている俗説を主張する気はさらさらありません。 特に症状がひどい初期段階においては、服薬と休養が、良くなってきても服薬が重要であることは論を待ちません。 そのことを大前提に、精神障害...
思想・学問

破滅一歩手前の美

夢でも野望でも大志でも、言葉はどれでも構いませんが、夢を諦めないで的な歌謡曲はあまたあります。 少年の頃は私も人並みにそれらの言葉に魅力を感じていましたが、年を取ると白けてくるというか、じつにどうでも良いことのように感じます。 夢や野望や大志というものは、要するにそうでありたいという自己実現欲求かと思いますが、それはまさしく執着というものです。 そう、お釈迦様が戒めた執着です。 最近では、何かにこだわることを、「こだわりの逸品」などのように、まるで一つの道に精進しているかのような使い方をしますが、本来の意味から言えば誤用です。 本来は、「~にこだわってはいけない」というように、こだわりを、一つのことに執着する悪い意味で使っていました。 いつから本来の意味が誤用に転じたのか分かりませんが、私が子供の頃にはそういう使い方はしていなかったように思います。 他にも、本来は自分には軽すぎる役目という意味の「役不足」という言葉を、自分には重すぎる役目という意味に使ったり、「不言実行」のパロディであったはずの「有言実行」という言葉が元々あった言葉であったかのように使われるようになりました。 言葉は変...
思想・学問

17億5千万年

少し前、新聞に地球上で人類が生存できる期間についての研究成果が公表されていました。 それによると、長くて32億5千万年、最短だと17億5千万年だそうです。 これを過ぎると、地球はホット・ゾーンと呼ばれる地帯に外れ、人類は暑くて生きられなくなるそうです。 現代の人間が生まれたと推定されるのは20万年前とのことですから、17億5千万年というのは途方もなく長い期間で、この間に何らかの理由で人類が滅んでしまう可能性は多いにあり得るでしょう。 しかしもし、人類がその叡智を結集し、17億5千万年を超えて生き延びたとしたら、私たちの遠い子孫はどうするのでしょうね。 地球に代わって居住可能な気温になるといわれている火星、あるいはその他の適切な惑星への移住を試みるのか、あるいは地球と一緒に滅ぶのか。 現代人の感覚で言うと、何が何でも生き残ろうとするとは思いますが、遠い子孫にはそのような気力が無くなっているかもしれないし、あるいは原始人のような生活に戻っているかもしれません。 地球の滅亡を描いたSF作品はあまたありますが、どれもどこか物足りないのは、人間にとってそれはあまりに遠い未来に感じられ、切実さをも...
思想・学問

日本という呪縛

人間、この世に堕ちるにあたって、生まれる場所も時代も家庭環境も選ぶことはできません(一部宗教などでは、自ら選んで生まれてくるとも言われます。過酷な環境を望むのは、そのほうが修行になるからだ、とも)。   平和な時代に、豊かな国の裕福な家庭に生れ落ちるというのはこの上ない幸運です。  広い意味で言えば、今の時代に日本に生まれるということは、それだけでまぁまぁ幸運なのではないでしょうか。  殺し合いもないし、食うに困るということも滅多にありません。 そして人は、生まれた場所や時代に縛られざるを得ません。  同じ日本に生まれるにしても、時代は大きな要素です。 大正時代に生まれていれば、太平洋戦争で兵隊にとられる可能性が高かったでしょう。 私たち日本人は、日本という呪縛から逃れることは出来ません。 気候、風土、歴史、文化、言語。 私たちはおぎゃぁと生まれた瞬間から、日本語の嵐にさらされ、日本的価値観を身に着けて成長せざるを得ません。 日本人の秩序や規律を重んじる高い倫理観は世界から評価されているようですが、同時に負の側面も身に着けてしまいます。 集団を重んじて個を軽んじることや、他人の目を気に...
スポンサーリンク