思想・学問

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「無明の井」 ー脳死をめぐる新作能ー

私は保険証の裏に、死して後、臓器は一切提供しない旨の意思表示をしています。 あの世とやらが不明である以上、死して後、臓器が無くて困るということがあってはいけませんから。 免疫学者にして文筆家でもあった東京大学の多田富雄名誉教授は、脳死を題材とした新作能を残しました。  題して、「無明の井」。 脳死状態に陥った男が、その意に反して心臓を摘出され、ある女に移植される話です。 この能では、男ばかりか、生きながらえた女もまた、他人の心臓を得て生き残ったことに深く苦しみます。 ある旅の僧が、仮寝をした涸れ井戸の側で、土地の者からある昔話を聞きます。 嵐で瀕死の状態となった漁師の男の心臓が、命の尽きかけた娘に移植され、彼女は生き永らえ、男はそのまま死んでしまいます。 娘は人の心臓を取って生き永らえたことを罪と感じ、懺悔の一生を送ったというのです。 この話を聞いた僧が二人のために祈っていると、心臓を取られた男と移植を受けた女の亡魂が現れます。 自らの屍を求めて彷徨っている男は、心臓が取られるさまを再現します。 魂は黄泉路(よみじ)をさまよひて、命(めい)はわづかに残りしを、医師ら語らひ、氷の刃、鉄(...
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ポジティブ心理学

お昼休みには消費税増税の話でひどくネガティブな記事をアップしてしまいました。 で、最近米国でポジティブ心理学と呼ばれる分野が流行していることを知りました。 平たく言うと、成功すると幸福になる、のではなく、幸福な状態だと成功する、という逆転の発想を体系化したもののようです。 四半世紀も前、英国のコリン・ウィルソンが提唱した「至高体験」との類似が感じられますが、ポジティブ心理学では幸福な状態に脳を持っていく具体的な技法を開発したことが特徴でしょうか。至高体験―自己実現のための心理学 (河出文庫)Colin Wilson,由良 君美,四方田 犬彦河出書房新社 ポジティブ心理学の研究で、  ① ありがたいと感じる3つのよいことを書き残す ② 自分と関わる誰かにポジティブなメッセージを書いて渡す ③ 机の前で2分間の瞑想をする ④ 10分間のエクササイズをする ⑤ 24時間で最も意義深い経験を2分間で日記に書く などが有効であることが判明しているそうです。 さらに、最も脳に幸福感をもたらす方法として、非常にシンプルな方法を提唱しています。 すなわち、人助け。 ポジティブ心理学の創始者の一人である...
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生命の起源ーパンスペルミア仮説ー

生命の起源が奈辺に在るか、それは多くの人々にとってまことに興味深い謎でしょう。 神様が7日で創造したということを信じるのは楽ですが、それは石頭とも言うべきで、どうぞご随意にと言う他ありません。 はるか昔、地球上の物質が様々な化学変化を繰り返し、海の中で原始生物が生まれたと、私は思いこんできました。 しかし、原始の地球上には生命が誕生するために必要な物質が欠けており、地球外から隕石などに付着して生命誕生に必要な物質が運ばれ、地球に生命が誕生したするパンスペルミア仮説を唱える学者が何百年も前から存在していました。生命の起源を宇宙に求めて―パンスペルミアの方舟 (DOJIN選書36)長沼毅化学同人 この仮説は長い間顧みられることはありませんでしたが、近年、この仮説が正しいのではないか、とする論文が立て続けに2本発表されたそうです。 生命誕生には、ホウ素と高度に酸化されたモリブデンという2つの物質が不可欠だそうですが、原始地球にはその存在が確認できず、長い間謎とされてきたそうです。 ところが最近、火星の無人探査機から送られてきた火星の物質から、この2つの物質が豊富に検出されたとのことで、火星か...
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差別

世の中に差別の尽きる日は来ないようです。 男女差別、人種差別、貧乏差別、身分差別。 なんと愚かしい。 もちろん私も、差別意識が無いとは言えません。 気付かぬうちに、様々な差別を行っていることでしょう。 しかし私が許せないのは、「自分は差別などしない、そんな人間ではない」などとほざく阿呆どもです。 おのれの心の底を見つめなさい。 必ず、差別の芽があるはずです。 現に、私に差別的発言をほざいた上司は、私が弁護士を立ててまで、その非を責めた時、「叱咤激励であって、差別ではない」とほざきよりました。 新聞をにぎわす暴行事件を起こしたスポーツ指導者が言い訳する言葉と全く同じです。 私は、その上司に教育を施し、人の世はどうなっているかを教えるため、弁護士を立て、上司を責めました。 結果、謝罪文と賠償金100万円を手に入れ、さらにハラスメント防止規定の制定をすることで合意しました。 謝罪文と賠償金は期限までに届きましたが、ハラスメント防止規定はじつに期限から8か月も過ぎてやっと制定されました。 その8か月の間、私はじりじりとした思いで待ち、もはやこれまでと、弁護士に報告し、弁護士から催促させたところ...
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無舌居士

日本人、特に関東人の美意識には、不思議な感覚があります。  江戸落語の大成者、三遊亭円朝師匠の戒名は、無舌居士と言うんだそうですね。 しゃべるのが仕事で、しかも大名人と言われた師匠の戒名が、無舌居士。 舌が無ければ話すことはできません。 噺家の最後の境地が無舌だとしたら、話芸とは何なのでしょうねぇ。 相撲でも、大横綱、双葉山は、69連勝という破竹の快進撃を続けながら、70連勝が叶わなかった日、知人に「我、未だ木鶏たらず」と書き送っています。 木鶏は動くことができません。 何しろ木彫りですから。 しかし闘鶏では、木鶏の動じない姿勢を最高とします。 双葉山も、木鶏の境地を目指していたのですねぇ。 また、役者を褒めるのに、「上手くなったねぇ、何しろ芝居をしないもの」なんて言いますね。 役者は芝居をするのが仕事なのに。 また、嘘か真か、故古今亭志ん生師匠は、晩年、高座で眠ってしまい、かえってそれが客に受けて語りぐさになったと聞き及びます。 全ては、名人の域に達したならば、泰然自若として、何もしなくても自然と名人の業がにじみでる、ということでしょう。 このような美意識は、武士道に見られるように思...
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