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文学

人外境通信

中井英夫といえば、大長編ミステリー「虚無への供物」が有名ですが、私はむしろ短編にこそ、この作者の面目が現れていると思います。 そこで、「人外境通信」を昨夜読みました。 独立した短編が編められ、最後には最初の作品と同じモチーフに戻っていく、という心憎い手だれによる至芸です。 そのモチーフは、薔薇。 まず、「薔薇の戒め」というタイトルで、薔薇にまつわる不思議な物語が展開します。 その後の短編でも三角関係の悲劇を椅子の視点で描く「笑う椅子」、金色の瞳を持つ青い猫に魅せられた女性の奇妙な経験を描いた「青猫の惑わし」など、まさにこの世ならぬ人外境の出来事を描いて読者を幻惑します。 最後は「薔人(ばらと)」。 薔薇というモチーフがどの作品にも流れています。 人工的に彩られた、どこかに存在する影の王国、人外境。 そこに彷徨い込んだ時、人はそこが人外境とは気付かぬまま、奇妙な経験をするのです。 しかし私たちの日々の生活を思う時、奇妙な事件やくだらぬいさかいが頻発し、理想的な人間社会が存在すると仮定してみると、こここそが人外境なのではないか、という疑念に捉われます。 「人外境通信」は「とらんぷ譚」の三作...
社会・政治

三無事件

もうあまり知っている人もいないでしょうねぇ。 1961年の12月12日、旧日本軍の元将校らが画策していたクーデター計画が発覚、関係者34人が逮捕された事件のことを。  称して三無事件。 三無とは、  無税 - 官公庁の大幅人員削減による財政収縮と公社公団の民営化 無失業 - 大規模な公共事業の実施による失業者吸収 無戦争 - ミサイルや宇宙兵器の開発による外国からの侵略の阻止  を目的とするそうです。 クーデター計画はかなり本格的なもので、 1.開会中の国会を占拠、総選挙の実施 2.閣僚を監禁し逃走者は射殺 3.報道管制の実施 4.自衛隊には中立働きかけ 5.戒厳令を敷き臨時政府の樹立 というものでした。 1960年代といえば、安保闘争や安田講堂事件 、連合赤軍事件と、主に左翼を中心とした政治の季節。 しかし右翼の側も、左翼運動の台頭に危機感を抱き、クーデターを計画をしたものと思われます。 左翼の運動は、ただ騒ぐばかりの児戯にひとしいもの。 それにくらべて、旧軍の将校であっただけに、三無事件の首謀者はクーデターのポイントを押さえています。 しかしこの計画には、決定的な欠陥があります。 ...
散歩・旅行

お昼過ぎ、近所を散歩していたら、公園で餅つきをやっていました。 子どもたちとその親が集まって開いた自治会の餅つき大会のようです。 私が住むマンションは自治会に加入していないので、今日初めて知りました。 伝統的な臼と杵で、お父さんたちが交代で餅つきに汗を流し、子どもたちは公園の遊具で遊びまわる姿は、平和そのもの。 わが国で66年続くこの平和が未来永劫続くことを願ってやみません。 幼稚園の頃、毎年年末に幼稚園の庭で餅つき大会を行ったものです。 しかし、生来の左党のせいか、幼児の頃から甘い物を好まなかった私は、餅つき大会で食う餅が、いつも餡子やきな粉などで、甘く味付けされて供されることが不満でした。 できれば磯辺か、あるいは雑煮で食いたいものだと思いながら、義務のように甘い餅を食っていました。 餅つきといえば年末の風物詩、餅を食うといえば正月などの祝い事。 百歳の 春も隣や 餅の音    正岡子規 正岡子規の隣家の婆さんが77歳、喜寿を前に隣家が餅をつく音を詠んだ、正岡子規最晩年の句です。 35歳、寝たきりで痛みに耐えていた子規にとって、77歳まで生きた老婆には百歳の正月を迎える日も近いだろ...
美術

描かない絵画

先ほどNHKの日曜美術館で、現代抽象絵画に革命を起こしたとされるジャクソン・ポロックを取り上げていました。 ポーリングと言われる、絵の具ではなくペンキを縦横にたらして描く技法を生み出した画家です。 まずは彼の最高傑作と言われる「one」をご覧ください。 観てお分かりのとおり、一見、適当に描いた偶然の産物のように見えます。 しかしポロックは、「私は偶然を否定している。ペンキの線の一本一本をコントロールしている」と語ったそうです。 一方で、「絵の中にいるとき、私は何をしているのかわからない」とも語っているそうです。 筆を握るとトランス状態に陥ってしまうのでしょうか。 タイトルの「one」は、1という意味ではなく、ポロックと絵が一つのものになっている、という意味だそうです。 抽象画ではピカソが最も偉大な画家ですが、少なくともピカソの絵には形あるものが描かれており、無意識や幻想を形にしようとしたシュールレアリスムの延長上にいます。 ポロックは若い頃ピカソを超えようとして果たせず、「ちきしょう、あいつが全部やっちまった」と言ってピカソの画集を床にたたきつけたそうです。 それから20年後、アルコー...
散歩・旅行

紅葉

今日は空気こそ冷たかったものの、よく晴れて風もなく、穏やかな一日でした。 今日を逃したらもう今年の紅葉は終ってしまうと思って、文京区駒込の六義園に出かけました。 都区内の紅葉というと、神宮外苑の銀杏並木や新宿御苑の銀杏が有名ですが、どちらも黄色ばっかりで紅を楽しめません。 紅がきれいなのは都区内では六義園に止めを刺すと思われます。 六義園に入ると、いきなり大きな紅葉が迎えてくれました。 しばし見惚れる私。 枯れた葉っぱを愛でるとは、我々日本人はよほど酔狂と見えます。 こちらは一段と鮮やかな紅と黄のコントラストが見事です。 元は五代将軍綱吉公の側用人だった柳沢吉保が整備した庭園だそうです。 柳沢吉保、Good Job! 引きで観るのも、なかなか良いですねぇ。 六義園の紅葉を堪能するうち、ちょうどお昼に。 近所のそば屋で本鴨南蛮を食って、ふらふらと裏道を歩いて北区西ヶ原の旧古河庭園へと向かいました。 旧古河庭園は、古河財閥3代目当主、古河虎之助男爵が整備した、洋館とバラ園、日本庭園からなる広大なお邸です。 巨大なお邸の応接間だった部屋が喫茶店になっており、紅茶などいただきました。 驚いたの...
映画

クレーマー

昨夜は狂気じみたクレーマーに悩まされる飲料会社のお客様相談室を描いた「クレーマー case1・case2」を鑑賞しました。 case1はサイコ・サスペンス、case2は心霊ホラーに仕上がっています。 どちらも安っぽい作りなのですが、ホラーの場合、格調高い作品よりも安っぽい作品のほうが怖かったりするから不思議です。 クレーマーであふれかえるわが国でも、そこまでしないだろう、という加速感が良いです。 case2で主役を張った小野真弓、ずいぶん老けましたね。 初めてのアコムのCMをやっていた頃の溌剌とした感じはなくなって、なんだか所帯やつれして見えました。 昔夏休みに放送していた「あなたの知らない世界」的な、安っぽくて気楽なドラマを観たい向きにはお勧めです。クレーマー case1 (1WeekDVD)柏原収史,平田弥里,しほの涼株式会社 アートポートクレーマー case2 (1WeekDVD)小野真弓,長澤奈央,三浦アキフミ株式会社 アートポートにほんブログ村↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
文学

感じる

学生の頃、所属していた浪漫文学研究会の宴会で、教授と助手がつまらぬ論争を繰り広げるのを耳にしました。 助手は、文学研究者は感じることを止め、自然科学者のような醒めた態度で文学作品にあたるべきだ、との論を繰り広げました。 それに対し教授は、感じることを止めたら文学研究は不可能であるし、そもそも感じることを止めるなどということは、人間には不可能であり、人間精神への冒涜である、と諭しました。 しかし助手は持論を曲げず、物語作者とその享受者に感じることを任せ、研究者は感じるべきではない、と言い張りました。 これは実におもしろい論争でした。 助手が言うことも分からないではありません。 若き研究者が、研究の神髄を真理の追究にあると考え、そのためには感情が邪魔になる、というわけですから。 それに対し、和歌から日本民俗、近現代文学まで広く研究する教授は、それは文学の神髄から外れる、と考えたのでしょう。 教授は我々学部学生一人一人に意見を求めました。 私は、料理を味合わずしてその見た目や栄養素だけを研究するのは不可能である、と応えました。 多くの学生も教授の論に賛成しました。 その半年後、助手は北海道の...
社会・政治

小さい

安倍元総理、女性を祖とする宮家の創設を、「縦糸を男系で紡いできた皇室の長い歴史と伝統の根本原理が崩れていく危険性がある。安易に決められたのでは大変なことになる」 と、表明したそうです。 小さいですねぇ。 私はどちらかと言えば伝統を重んじる保守的なタイプですが、保守主義というのはなんでもかんでも昔どおりというものではなく、核となる伝統は維持しつつ、時代の要請によって変えるべきところは変えていく柔軟性を持っていなければならないと考えています。  このブログで何度も述べたとおり、皇室が生き残ってきたのは、時代に合わせて皇室自らが変化してきたからでありましょう。 そして、現代。 現代はそもそも血統に価値を置くことを否定しています。 高貴な血統というものが存在するならば、当然、卑賎な血統が存在しなければならないことになります。 したがって皇位継承は血統を重視すべきではないでしょう。 私は選挙やくじ引きで天皇を決めるか、皇室を廃止するか、どちらかしかないと思っています。 あるいは生身の人間ではなく、木偶人形を天皇にして崇めたって良いのではないかと思います。 石や鏡をご神体として崇めるようなものです...
文学

冷奴

今日はめっきり冷えました。 明日はもっと寒いとか。 いよいよ冬本番ですね。 私は熱いお茶やコーヒーを好みません。 真冬でもアイス・コーヒーや冷たいお茶を飲んでいます。 なんだか冷たいほうが口の中がさっぱりするからです。 猫舌というわけではないんですけどねぇ。 そこであえて、夏の冷たい食い物を季語にした句を。 放蕩の ふぐり老いゆく 冷奴  角川春樹 私は角川春樹の句をけっこう好んでいます。 男らしく、言い切り系の句が多いのですよねぇ。 ふぐりとは睾丸のこと。 放蕩を重ねた男、おそらく作者自身でしょうが、その精が衰えを見せ始めた年頃に冷奴を食う、という句で、哀愁漂いますねぇ。 特に私は精神障害者になってから、めっきり精が衰えているので、身につまされる思いです。 まだ老けこむには早いんですが。 夏の句なので当然冷奴を食うのは暑い盛りなのでしょうが、私はあえて、冬、暖房の効いた部屋で食う冷奴の情景を思い浮かべたいですねぇ。 あぁ、今日はおのれのだらしなくなった下半身を哀しみつつ、冷奴で焼酎のロックでも飲みたい気分ですねぇ。海鼠の日―角川春樹獄中俳句角川 春樹文学の森白い戦場―震災句集角川 春...
映画

クレイジーワールド

昨夜はSFパニック映画「クレイジーワールド」を鑑賞しました。 近未来、ウィルスの仕業か、原因は不明ですが、突然人間同士が、友人といわず家族と言わず殺し合う現象が発生。 世界はあっという間に無秩序状態になります。 この地獄を生き抜いた両親と成人した息子と娘の4人家族が、生き残りを賭けて存在するかどうか分からない避難区域を求めて彷徨います。 車を盗み、走る途中でガソリンスタンドを発見。 食糧など様々な物資を盗み出し、再び車にもどろうとしますが、機関銃で武装した男たちが車からガソリンを盗んでしまいます。 ガソリンスタンド裏の森林地帯に逃げ込む家族。 感染者なのか自分たち同様生き延びた者なのかはわかりませんが、機関銃を持った男たちを警戒し、森の中を彷徨います。 しかし、謎の男たちに次々殺される家族。 最後は父親一人になってしまいます。 そして精根尽き果てた頃、森の中であるグループが感染を逃れてひっそりと暮らしている一軒家にたどり着きます。 グループは父親を縛り、感染者かどうかを見極めようとします。 その後、父親は驚愕の真実を知るのです。 「28日後」、「28週後」のような、分かりやすいゾンビめ...
社会・政治

70年

今日は日米開戦の日。 今年はちょうど70年だそうです。 最近では大学生のなかにも「日本が米国と戦争したって本当ですか?どっちが勝ったんですか?」なんて真顔で聞く輩がいるやに聞き及びます。 にわかには信じがたい恐るべき常識の無さですねぇ。 日米開戦の理由は、わが国がアジア太平洋諸国を侵略したからだ、とか、日独伊軍事同盟を結んだからだ、とか、第二次世界大戦でフランスがドイツに敗れた後、わが国がフランス領インドシナを占領したからだ、とか、あるいは米国がわが国に対してハル・ノートを突き付けたり在米日本資産を凍結するなどしてわが国を追い込んだからだ、とか、ルーズベルトがどうしてもわが国を叩きつぶし、さらにはナチを殲滅したかったからだ、とか、様々な論がありますが、いずれも枝葉の話に過ぎません。 要は巨大帝国主義国家同士であったわが国と米国との利害が、のっぴきならないところまで対立してしまったから、ということが根本原因でしょう。 当時はまだ核兵器も大陸間弾道弾もなく、大戦争をしたからといって人類絶滅にまでいたる心配がなかったため、開戦へのハードルが低かったことも一因でしょう。 米国は枢軸国側に対して...
その他

ケプラー22b

先般、NASAが驚愕の発表をしましたね。 地球から600光年離れた場所に、地球とよく似た、水があり、気温が22度程度と推定される惑星を発見したというのです。 大きさは地球の2.4倍。 テレビでは天文学者がハイ・テンションでこの発見を喜んでいました。 名付けて、ケプラー22b。 ケプラー22bです。 人類が生まれて文明を築き、滅ぶまで、宇宙の歴史から見たら一瞬です。 一瞬しかない文明と、やはり一瞬しかないであろう他の星の文明が邂逅することは、ほとんど奇跡としか言いようがない事態です。 おそらくケプラー22bの文明も、すでに滅んでしまったか、あるいはこれから興ると考えるのが妥当でしょう。 そうだとすれば、人類が生存している間にケプラー22bの生物と出会うことは無いと言ってよいと思われます。 しかしそれでも、この広大な宇宙に地球とよく似た星があり、文明があった、もしくはこれから興ると考えることは、とても楽しいことですし、地球人類が絶対的孤独を生きているわけではないと思うこともできます。 私は地球のように青く輝く星を見て、まだ見ぬ異星人や異星文明を想像し、一人にんまりするのです。にほんブログ村...
文学

恐怖症と谷崎文学

世の中には様々な恐怖症を持った人がいますね。 一般的なところでは、高所恐怖症や対人恐怖症、水を異様に怖がる人や、暗い場所を怖がる人、日本にはあまりいませんが、欧米では広場恐怖症という人が大勢いるようです。 私は病気というほどの強い恐怖ではありませんが、斑点恐怖症と先端恐怖症と言われるような気持ちを持っています。 斑点恐怖症とは、虫がたくさんあつまっている所とか、イクラ丼とか、大雨とか、粒々がたくさんあると、ぞっとすることです。 この前ペットボトルのお茶を箱で買って、ふたを開けたらペットボトルの蓋がきれいに並んでいるのが粒々に見えて、非常に不快な思いをしました。 ひどい人になると粒々を見ただけで熱が出たりするらしいですから、不快に思う程度はなんてことないのですが、やっぱり気になります。 先端恐怖症を意識したのは、中学生の頃、谷崎潤一郎の「春琴抄」を読んだときですね。 「春琴抄」は盲目の三味線の美人師匠と、それに仕える丁稚の佐助の物語ですが、ある時春琴が熱湯を浴びて顔に大やけどを負い、それ以来人と会おうとせず、佐助と会うことまで嫌がるに及び、春琴を慕い尊敬する佐助は、自ら針で目を突いて盲目...
文学

ハムスター

今年度末で、就職して丸20年が経過します。 その間ずいぶん色々なことがありましたが、何かもどかしい思いを禁じ得ません。 20年、走ってきたことは間違いないでしょう。 それによって体力がついたか、あるいは消耗したかは不明ですが。 通常、走ればどこかへ行くものです。 しかし私は、ケージの中で回し車を走り続けるハムスターのように、同じところをただぐるぐる回っていただけのような気がしています。 仕事に関する知識や経験、人間関係、そういったものは蓄積されていますが、無駄に蓄積されただけで、一歩も進んでいないような気がします。 ハムスターを主人公にした児童文学に、「フレディ」シリーズという作品があります。 このフレディの思いが、不思議なほど私の心に刺さります。 ケージの中で回し車を回して一生を終えるなんて、ごめんだね。 いつか自由になれるっていう『ハムスター伝説』を信じて待ってたってだめさ。 自由を手に入れる方法は、自分で考えて、自分で探し出すんだ。 まあ児童文学ですから、子供騙しといえば子供騙し。 しかし文学というもの、もともと大人の男の嗜むものではありません。 差別的表現になりますが、あえて言...
社会・政治

プレカリアート

precariat (不安定な)+ Proletariat(労働者)でプレカリアート運動というものが近頃起こっているらしいですねぇ。 1990年代、冷戦が米国側の勝利で終わった後、世界は米国型自由主義を至高の価値と見るグローバリゼーションの荒波に襲われました。 わが国も例外ではなく、小泉政権によって国民は自助努力による自己責任を求められ、恐るべき格差社会が生み出されました。 結果として、雇用の安定しない非正規労働者が激増し、やっと2006年頃から、生きさせろ、という驚愕のスローガンを掲げる運動が始まったというわけです。 現在もそうですが、この運動が始まる以前、非正規労働者は努力不足によってもしくは自己選択にってなったものであり、ましてニートや引きこもりは自分がだらしないからだ、とされました。 もちろんそういう面が否定できないことは確かです。 しかしこれだけ巨大な人数が社会的弱者とされ、わけても30代半ばに達しようとするロスト・ジェネレーションがいまだに社会の底辺を彷徨うありさまは、もはや自己責任の一言では済まされない、社会問題であると考えざるを得ません。 そこで必然的に起きてきたのが、...
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