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思想・学問

 人は変わったものや珍しいものを見ることが大好きですね。
 景勝地から神社仏閣、博物館に動物園。
 これらは物見遊山と総称されます。

 興味深い本を読みました。
 「美術館・動物園・精神科施設」です。
 美術館・博物館はともかく、なぜ精神科施設が?と疑問に思われることでしょう。

 ヨーロッパ各地では、19世紀に至るまで、精神科施設を動物園のように見学させていた、というのです。
 見学者は、鎖につながれた精神病者や、檻に入れられた患者を自由に見てまわり、話しかけたりからかったりする自由があったというのですから、驚きです。

 古くは、動物園に畸形や小人などがつながれて、他の動物と同じように見世物になっていたとか。

 しかし、物見遊山で精神科施設を訪れている間は、少なくとも患者を死に至らしめるような虐待は発生しにくいでしょう。ある意味、安全であったかもしれません。

 今、精神病院には閉鎖病棟があって、自殺や自傷の恐れがある場合には拘束衣を着せて、身体の自由を奪っています。
 精神病の自助グループで出会った友人には、数名、閉鎖病棟に入院した経験のある者がいます。口をそろえて、もう二度と、絶対に入りたくない、と言います。

 精神科医や看護師にとって毎日が闘いなのでしょうが、精神病者もまた、一個の人間であることを念頭において、治療にあたってほしいものです。

 精神障害者・身体障害者・人種・宗教・生まれ・性差・性の嗜好など、多くのマイノリティーは差別を感じ、傷つきやすいのです。

 人と人を分け、あれとこれを分けるのが文化の始まりだとしたら、差別は文化の根本にあるものかもしれません。
 それなら簡単なこと。根本を治療しましょう。

美術館・動物園・精神科施設 (水声文庫)
白川 昌生
水声社