闇に住む

思想・学問

 普通のサラリーマンは、夜が明ければ起きて、8時か9時には職場に行き、残業がなければ17時か18時には家路につきます。
 帰れば風呂に入って飯を食い、しばしの自由時間を過ごして早めに床に就きます。
 明るい時間に主に活動しているわけです。

 一方、水商売と言われる職業に従事する人々は、サラリーマンが仕事を終える頃店を開け、主に飲食や接待をして金を稼ぎ、深夜から明け方、仕事を終えます。
 主に暗い時間帯に活動しているわけです。
 しかし、彼らは闇に住んでいるわけではありません。
 人工的な光で、昼間よりも明るいぐらいの空間を作り出し、祝祭的な場を演出しています。

 今、闇を利用して生きている人々とは、ホームレスと言われる者たちでしょう。
 今、行政はホームレスが駅の地下道や公園、河川敷に住むことを許しません。
 環境美化の美名のもと、彼らを追い出し、代わりに一時的な入所施設を用意します。
 しかし入所施設は規則が厳しく、また、就職活動をしないと追い出されてしまうので、多くのホームレスは入所施設に入ることを拒んでしまいます。

 すると彼らは、昼間は公園などで休み、夜、闇に乗じて空き缶拾いや小銭拾いに出かけます。

 
さあ寝よう 夢の中では 一般人

 アルミ缶 探し求めて 三千里

 ホームレスによる川柳です。

 「最暗黒の東京」によれば、昭和初期くらいまでは、昼間、堂々と浅草や両国橋などの人通りの多い場所に座って「右や左の旦那様」と口上を述べれば、3時間くらいでその日の食費と木賃宿の代金くらいは稼げたそうです。
 乞食という生き方が確立していたのですね。

 しかし今、ホームレスは一般の勤労者よりも過酷な労働に従事しています。
 アルミ缶を拾ったり、段ボールを集めたり、炊き出しのスケジュールを把握して、都内どこへでも歩いて移動したり。
 時には一日の移動距離が30キロにも及ぶことがあるとか。
 徒歩では辛いでしょう。
 行政は自ら求める者にしか手を差し伸べません。
 ホームレスはそもそも役所に不信感をもっている場合が多いので、自ら求めることをしません。
 行政とホームレスのミスマッチは見事なほどです。

 
ホームレス アウトドア派と 空威張り

 段ボール 3分たてば 我が家かな

 ホームレスの自立を促すための雑誌「ビッグ・イシュー」に掲載された川柳です。

 ビッグ・イシュ」ーは英国で始まった事業で、非営利団体が雑誌を作り、ホームレスがそれを売るのです。
 売上はホームレスの所得となり、正業で得た収入ということになり、一日50冊も売れれば生活が成り立つそうです。
 でも売れないでしょうね。
 まずホームレスから買う、ということに多くの人は抵抗があるでしょう。私もあります。

 しかしビッグ・イシュー」、マスコミで取り上げられたりして、一定の成果を上げているようです。
 ホームレスの社会復帰に役立てば良いと思います。

 ホームレスでも、引きこもりでも、うつ病でもなんでもそうですが、様々な支援を受けて、死ぬ気で努力して社会復帰を目指しても、どうしてもうまくいかない、という人が、必ずある一定の割合で存在します。
 また、端から社会復帰なんて関心がない人もいます。

 こういう人たちは、確率的にやむを得ない、全員を社会復帰させることはできない、と言って捨てられてしまうのでしょうか。

 私は今でこそ安定収入のあるサラリーマンをやっていますが、長期の病気休暇で、その身分が脅かされたことがあります。
 自ら辞職を申し出たのです。
 うつの一番ひどい時で、今となっては記憶も定かではありません。
 慰留されて辞職願を取り下げたことだけ、覚えています。
 どちらにしろ、いつ闇の世界の住人に堕してしまうかわかりません。
 明日は我が身です。
 厳密に言えば、この世に生きる人すべてにとって、明日は我が身であるはずです。
 そうであってみれば、私は少々公園の美観が損なわれても、ホームレスの存在を大目に見るような、大岡裁きが求められると考えています。 

最暗黒の東京 (岩波文庫)
松原 岩五郎
岩波書店
ビッグイシューと陽気なホームレスの復活戦―THE BIG ISSUE JAPAN
櫛田 佳代
ビーケイシー
ビッグイシューの挑戦
佐野 章二
講談社

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