文学 息
保険証が更新されて、新たに臓器提供をするかどうかを記載する欄が設けられ、私は提供しない、と意思表示しました。 わが国では亡くなることを息を引き取るとも言い、文字どおり呼吸が停止して、通夜をやって告別式をやって、なお蘇らなければ火葬して、それでも四十九日を迎えるまでは、この世とあの世の中間である中有の闇を彷徨って、やっと死の儀礼を終え、死んだことになるのでした。 死ぬのではなく、死に行くものでした。 ある瞬間を境に生が突然死に替わるのではなく、少しずつ衰弱し、息が弱くなり、息を引き取るのです。 「いくら息をしようと思ってもできなくなってしまう。どうしたらいいでしょう。ほら、いくらしようと思っても・・・」 そういううちにも幾度も息がとまりかける、一所懸命力をいれて吸いこもうとするのだが。 「誰か教えてくださらないかしらん。どうしても息ができなくなってしまう」 しまいにはうかされたように、 「誰か息をこしらえてちょうだい」 といった。 これは、中勘助の「妹の死」にみられる、23歳で世を去った妹の死を見取る場面です。 凄絶な臨終の場面です。 息は、生き物のいきであり、生きるのいきであり、...