世にルポルタージュというジャンルがありますね。
ふんだんに金を持っているくせにわざと襤褸を着て数日間ホームレス生活を送り、その経験を文章にして金儲けをしたりする、あれです。
明治時代にも似たようなことを試みた人がいて、「東京闇黒記」という本を出版しています。今は絶版になっているようですが、目にする機会に恵まれました。 そこで驚いたのは、乞食とホームレスの違いです。
現在のホームレスは、アルミ缶や雑誌を拾って売ったり、地見屋と称して落ちている金を拾ったりして、まがりなりにも、自力で稼いでいますね。ところが明治時代には、今日は浅草、明日は両国橋と、人の多いところに出かけて行って、身体障害者のふりをして、「右や左の旦那様~」とかいうことを実際にやっていたそうです。
しかも結構稼ぎがよくて、2~3時間もそれをやれば、木賃宿に泊まれて、酒も肴も手に入ったというから驚きです。「乞食は三日やったらやめられない」とのたまっておりました。
そして面白いことに、金持ちよりも、ちょっと貧乏なくらいの人が、よく施しをしてくれるというのです。貧乏の悲惨さがよくわかるのでしょうかね。
そういえばインドには今も多くの物乞いがいますが、やっぱりちょっと貧乏な庶民のほうがよく施すそうです。
また、「最暗黒の東京」という本では、残飯屋という衝撃の商売が紹介されています。軍隊の駐屯地などであまった残飯を安く買い取り、それを貧民街で売るというのです。その売り買いの場面が驚きます。
われ先にと笊、岡持ちを差し出し、二銭ください、三銭おくれ、これに一貫目、ここへも五百目と肩越しに面桶を出し脇下より銭を投ぐるさまは何に譬えん。そのおかずの如き漬物の如き、煮しめ、沢庵等はみな手づかみにて売り、汁はどぶろくの如く桶よりくみ与え、飯は秤に掛けるなれど、もし面倒なる時はおのおの目分量と手加減をもってす。
どうせ捨てるのであれば、食うに困っている人に安く売ったほうがお互いのためですね。
しかし、コンビに弁当なんかは、賞味期限が過ぎると、ホームレスが拾わないように、べちゃべちゃに水をかけて捨てる、というから嘆かわしい。
互助の精神というのは、現代社会ではかなり希薄なようですね。
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