文学

 今年は異常な大雪だそうですね。
 南関東に住まいしていると、全然実感がわきません。
 ほとんど毎日乾燥した晴れですから。
 テレビで雪国の様子を見ると、背より高く積った雪を毎日毎日雪かきしています。
 さぞかし骨の折れることでしょう。

 私は東京東部で生まれ育ちましたので、雪は一年に一度か二度ふる程度で、積雪も10センチを超えることはまずなく、一種のお祭りのような心地がしました。
 町が白く化粧した姿というのは、幻想的で美しいものです。
 でも翌日には、もう雪は人や車の往来で醜く黒ずんでしまいます。
 その儚さが、南関東の人間にはまるで桜のように愛おしく感じるのです。

 
この国に 雪も降らねばわがこころ 乾きにかわき 春に入るなり  若山牧水

 若山牧水は宮崎県の生まれだったと記憶していますから、やはり雪は珍しく、心浮き立つものであったようです。

 一方、雪には雪女とか雪男とか、怖ろしい伝承がありますね。
 雪が障子をなでる音が、雪女が手で障子を叩いているようにかんじたのでは、と某民俗学者が言っていました。
 雪男はなんだか怪物じみていて、物理的な恐怖しか感じませんが、雪女には、ぞっとするような心理的な恐怖がありますね。
 年をとらないとか、雪のように白い肌とか、西洋の吸血鬼にどこか似ています。

 幼い頃、冬の夜、布団に入って部屋を暗くすると、必ず、雪女の足音に怯えました。
 雪女は人間の精気を吸い取るとも聞きましたから、それはもはや物理的な恐怖であったといえましょう。

 ところがおっさんになると、怖いものなどなくなります。
 大体、妖怪・幽霊の類は怖くありません。
 本当はそういうこの世ならぬものへの畏怖が、様々な芸術や文化を生む力の一つだったのでしょうけれど。
 
 同時に、雪を喜ぶ素直さも失われます。
 車や電車の通行が気になって仕方ないのです。
 雪かきも辛いですし。

 週末は南関東でも雪の予報が出ています。
 楽しみなような、億劫なような。

若山牧水歌集 (岩波文庫)
伊藤 一彦
岩波書店

 

↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしいすごいとても良い良い