変身あるいはメタモルフォーゼ

文学

 「変身」というと、カフカの代表作を思い出します。
 ある朝目覚めると巨大な虫に変身していたザムザとその家族のシニカルな喜劇です。

 先般、手塚治虫「メタモルフォーゼ」という漫画を読む機会に恵まれました。
 これは人口が増えすぎた近未来、犯罪者を動物や虫に変身させて人口抑制を図ろうという怖ろしい話です。
 こちらの主人公もザムザです。
 ザムザは自然公園と言っても元人間だった動物ばかりが住む場所ですが、そこの監視員をしています。
 ある時ザムザは雌ライオンに変身させられた元恋人と紅茶とトーストの朝食を採っているところを発見され、重罪として虫に変身させられてしまいます。
 普通虫に変身させられると2~3カ月で死亡するのですが、ザムザは旺盛に葉っぱを喰らい、一年以上も生き続けます。
 そして変態が始まります。
 巨大な蜂に変態した彼はにくい上司を殺害せしめ、どこへともなく去っていきます。

 カフカ「変身」では、ザムザは自分の部屋から一歩も出ることなく、父親が投げつけたリンゴによってできた傷に苦しみ、ついには亡くなってしまいます。
 家族はザムザの呪縛から逃れ、未来に明るい展望を持つのです。

 上司を殺害して一人生きていく手塚治虫のザムザと、ひっそりと亡くなって、それが家族に希望を与えることになるカフカのザムザ。

 どちらもそれぞれに面白い結末ですねぇ。

 私はカフカのザムザの救いの無い感じが好きですが、手塚治虫の生への意志を失わないザムザには、憧れのような感情を抱きます。
 醜い虫になっても生きようとする姿は見事です。

 カフカが思い描いた奇想天外な物語が、遠く離れたわが国で漫画という意匠をまとって描き出されたことに驚きを禁じ得ません。

変身 (新潮文庫)
Franz Kafka,高橋 義孝
新潮社


メタモルフォーゼ (手塚治虫漫画全集 (88))
手塚 治虫
講談社


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