今回の出張の友は、ウィスキーと「若山牧水随筆集」という文庫本でした。
ウィスキーは仕事前夜の高ぶった神経を鎮め、仕事後の私に安心感を与えてくれました。
飛行機など移動の途中には「若山牧水随筆集」を読みました。
これも例によって亡父の蔵書から頂戴してきたものです。
まだ半分も読んでいませんが、前半は紀行文中心です。
明治末から大正時代にかけて、若山牧水はじつに多くの場所を旅しています。
それも草鞋に着物といういでたちで、比叡山や那智、長野など山がちなところを好んで歩いています。
そしてこの人、朝も昼も晩も、かならず酒を飲むのです。
比叡山の宿坊に泊まったときですら、大酒を喰らっています。
たぶんアルコール依存症だったんでしょうね。
そしてどういうわけかこういう人の周りには大酒のみが集まってくるらしく、大店の旦那だったのが、店から土地から飲みつくしてしまい、妻子にも捨てられて、比叡山の末寺で住職のいない寺の寺男をやっている老人の寺に宿泊し、牧水のおごりで老人と酒宴をひらく有り様など、浅ましいかぎりです。
うまきもの こころにならべ それこれと くらべ廻せど 酒にしかめや
人の世に たのしみ多し然れども 酒なしにして なにのたのしみ
なんていう、意地汚いような歌を残しています。
酒の飲みすぎがたたって、43歳の若さで虚しくなってしまいました。
死の床にあって、もう重湯しか飲み込めないのに、酒をねだって、不思議と酒は入ったようです。
死期が近づいて、もう医師も飲酒を止めようとはしなかったそうです。
「若山牧水随筆集」の後半は「思い出の記」、「折りおりの記」、「石川啄木の記」などと題されており、紀行文とは違った味わいの随筆が楽しめそうです。
帰路はそれらを出張の友として楽しみましょうか。
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