カラックス監督の10数年ぶりの新作、「ホーリー・モーターズ」を遅まきながらDVDで鑑賞しました。
カラックス監督はフランスで若くして才能を認められた鬼才ですが、その難解さから、興行的には奮わないようです。
この美しくも切ない作品も、その美しさよりも難解さが際立っていたように感じます。
朝、スーツを着込み、リムジンで颯爽と通勤する中年男。
リムジンの運転手は美女です。
どんな大会社の重役かと思いきや、車中で薄汚れた老女に変装し、リムジンから街中に降り、乞食を始めます。
観る者はひどい混乱に突き落とされます。
しばし乞食をしていたかと思うとリムジンに戻り、「次のアポは?」と一人ごちながらファイルを手に取ります。
そして着替え。
今度は狂人としか思えない衣装で車を降り、墓地の花束を喰らったり撮影中のモデルをさらったり。
途中、リムジンに彼の上司と思われる老人が乗り込み、少し会話をするのですが、彼の仕事は命じられるままに他人になりすまし、何事かの行為をなすことにあることが推測されます。
そしてその中には、殺人までもが含まれます。
少女を迎えにいく平凡な父親になりすましたり、殺人犯になりすましたり。
1日で11人もの人物になり、行為を行います。
そしてどうやら、その仕事に就いているのは、彼一人ではないようです。
夜、仕事を終えて男を降ろし、リムジンが向かったのはHoly Motors という巨大な看板が掲げられたリムジン専用の大きな駐車場。
夜、続々とリムジンが帰ってきます。
考えてみれば、人であれ動物であれ、一瞬も休まず何らかの行為を行っています。
寝たきりの病人だって、横になり、息をし、意識があれば様々なことを思うという行為をなしています。
この仕事に就く者は、役者のように他人になりすますという行為を楽しんでいるわけですが、私たち俗世間を生きる者も、時と場合によって、父親であったり夫であったり、課長であったり町内会長であったりといった役割を演じ、役割にふさわしいであろう行為をなして日々を暮らしています。
そうしなければ生きていくことは出来ません。
この映画は、それを端的に摘み取って、客に見せ付けているわけです。
怖ろしい映画です。
人がいかにして生きているかを強引に見せているわけですから。
しかも美しい映像で。
美しいながら、どっと疲れる、厭なダーク・ファンタジーでもありました。
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ドニ・ラヴァン,エディット・スコブ,エヴァ・メンデス,カイリー・ミノーグ,ミシェル・ピコリ | |
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![]() | ホーリー・モーターズ 【リムジン・エディション】(Blu-ray Disc) |
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